別れ道またねと君がうそぶいた切り出したのはそっちのくせに

 いつからだろう。些細なやりとりにときめきを感じなくなったのは。

「ごめん」

 いつからだったか。嫌なところばかりが目につくようになったのは。

「ずっと言い出せなくて、でも、就職したらどうせ遠距離になって会えないし。自然消滅はなんか、ハッキリしなくて嫌だったから、ごめん」

 長い、言い訳がましい、ウザい。こんな時でも、私の頭の中は未だに彼氏への愚痴であふれている。

「別に、謝ることじゃないじゃん。結局どっちかが言わなきゃ終わらないんだし」

「そっか、ごめん」

「だから! 謝らないでって言ってるの!」

「……ごめん」

 俯く彼の表情は見えない。その胸に渦巻く感情さえ、こちらにうかがわせてはくれない。

「いいよ、別れよう。お互い、納得してるんだし。というか、多分もう、無理だし」

「付き合い続けるのが?」

「……あの頃にもどるのが、って話」

 悲しみの中に、少しだけ安堵の入り混じったようなため息がこぼれる。白く煙のように溶けゆくそれが、一体どちらの吐息だったのか。冬の星空は、その疑問さえ、ただ黙って受け入れることしか知らない。

「じゃあ……駅、こっちだから」

「……わかってる」

 握っていたコートの袖が、自然と指の間をすり抜けていく。

「それじゃ、またね」

 去り際、彼は振り返ることなくそう呟いた。いつものように、何気ない感じで、何気ない言葉をうそぶいた。

「……そこは、バイバイ、でしょ」

 一人、寒空に笑う。冷たい。酷く冷たくて、痛くて、傷口にゆっくりと染みていく。

「……嘘つき」

 握りしめた手のひらに爪が食い込めば食い込むほど虚しくて、ぶつけようのない怒りが胸の底でふつふつと踊る。

「嘘つき……!」

 悔しかった。淡々と、やり過ごせるはずだったのに。人の感情を散々乱して、後片付けもしないで。ただ自分だけが、こんなにも苦しくて。

 だから、お返しに私も一つ嘘をこう。見上げた星々に紛れて、流れて溶けてしまうような、そんな一粒の嘘を、君に。

「そういうところが、嫌いだった」

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