短歌→解凍

御角

窓ガラス君の虚像がきらめいて景色に上書き保存されてく

 体に伝わるかすかな振動で、ふと目が覚めた。

「次は、上郡、上郡です」

 おぼろげな意識をすくい取るように、聞き慣れたアナウンスが鼓膜を打つ。窓から差し込む西日と流れる緑が、ここが電車内であることを否応なしに告げていた。

 社会人になって、両親ともめっきり会わなくなって数年。久しぶりの帰省に、親はどんな顔をするのだろう。そもそも今、どんな顔をしているのか。記憶に焼きついた、あの元気な姿のままでいるだろうか。

「おはよう。まだ眠い?」

 絶え間なく広がる田園に、彼女の影が重なった。

「私、着いたら起こすよ? 降りる駅、もうちょっと先みたいだし」

「いや、悪いよ。僕の方が乗り慣れてるんだし、むしろそっちが寝ててもいいよ」

「いやいやいや、無理無理無理! 緊張しすぎてそれどころじゃないし。それに仕事で疲れてるでしょ? ここは私に任せてよ」

「そうか? じゃあお言葉に甘えて……」

 優しくて、気が利いて、一生隣にいたいと思える恋人。果たして彼女のことを、両親にも好きになってもらえるだろうか。

「おやすみ」

 窓枠にそっと体を預け、重力に任せて目をつぶる。

「ふふ、おやすみ」

 直前、窓ガラス越しに、はにかむ彼女の表情が反射して、見慣れた景色が薄く色付く。

 この重なりが、ずっと続くことを夢見ながら。僕はまた、意識を微睡まどろみの底に落とした。

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