美少女だけどネガティブな子が隣の席になったので、毎日可愛い可愛いと言っていたら今度はこっちが好き好き言われるようになった
倉敷紺
ネガティブで可愛い君が、私のことをたくさん褒めてくれる貴方が、1番好き!
「ご、ごめんなさい私がうっかり佐藤さんに触ってしまって。き、汚いとか思っちゃいましたよね、馬渕菌が蔓延するとか思っちゃいましたよね!? い、今すぐアルコール持ってきて消毒しますので勘弁してくださいお願いします!」
「い、いやそこまで思ってないよ……」
たまたまクラスメイトの身体に手が触れてしまっただけで、あたふたと慌てながら被害妄想全開で謝り倒しちゃうし。
「も、申し訳ないです竹中くん! わ、私の薄汚い顔面をドアップで見せてしまって、目が失明するくらい汚れてしまったとか思っちゃいましたよね!? い、今すぐ目薬を買ってきますので勘弁してくださいお願いします!」
「ぜ、全然気にしてないけど……」
偶然ぶつかりそうになったことで、顔が少し近づいてしまっただけでドタバタと慌てふためいて絶対そんな被害相手が被っていないにも関わらず本当に目薬を買いに行こうとしちゃうし。
「私なんかが息してたら空気が汚染されちゃいますよね!? ごめんなさい今すぐ空気を吸うのやめますので勘弁してくださいお願いします!」
「や、やめなさい馬渕!」
いきなりわけのわからない理由で呼吸を止め出して先生にめちゃくちゃ心配されてるし。とにかく、馬渕さんはそこらの自称ネガティブの人たちとは比べものにならないレベルで自分に自信がない子だ。
そんな彼女が、今日から俺の隣の席になった。
「これからよろしくね、馬渕さん」
「よ、よろしくお願いします山口くん。……や、やっぱり私なんかが隣の席なんてイヤですよね。こんな醜くてネガティブでゴミみたいなやつが隣にいるなんて……それだけで、山口君に悪影響を及ぼしちゃいますよね……」
「いや、俺はそんなこと思ってないけど。そもそも、馬渕さん可愛いと思ってるし」
「…………え、ええええええええええええええ!?」
まるで世界が滅亡するってことを聞いたかのように、馬渕さんは奇声をあげながら驚いていた。おそらくネガティブな彼女のことだろうから可愛いだなんて言われるとはこれっぽっちも思っていなかったんだろう。
でも、俺は馬渕さんは可愛いと断言できる。
そもそも馬渕さんのルックスはかなりいい、美少女といっても過言ではないと思う。前髪が長いから少し素顔が見えずらいけど、クリクリとした可愛らしい目を筆頭に端正な顔立ちだし、高校生にしては小柄な体型はついつい甘やかしたくなる魅力がある。
それに、見た目だけが可愛いんじゃない。馬渕さんのネガティブ思考、面白くて可愛い。ついつい馬渕さんがどんな反応するのかなって、密かな楽しみににもなっているし。
「じょ、冗談はやめてくださいよ山口君! 私が無意識に放出しているかもしれないガスに汚染されてそんな変な考えに陥ってしまったんですか!? そ、そうですよね、そうとしか考えられません! ご、ごめんなさい……山口君」
「いやいや、前からずっと思ってたことだよ。馬渕さん、ネガティブなところが面白くて可愛い」
「そ、そんなバカな……ぜ、絶対何かの間違いで……あ、明日になったらそんな思考忘れちゃいますよね……」
「いいや、忘れないよ。なら、今日から毎日馬渕さんのこと可愛いっていうね。それなら信じてくれる?」
「……ふぇ、ふぇえええええええええええ!? しょ、正気ですか山口君!?」
「うん。あ、でも馬渕さんがイヤならいうのやめとくよ。言われたくないことなら言わない方がいいし」
「……え、い、いや……そ、それは……ほ、褒められることは……あ、あまりないので……そ、その……い、言われてイヤというわけでも……な、ないというか……」
馬渕さんの反応を見るに、どうやら問題なさそうだ。やっぱり、人間なんだかんだ褒めてもらえるのは嬉しいもんな。よし、これから馬渕さんのこといっぱい可愛いって言おう!
それから俺は馬渕さんに毎日可愛いと言い続けた。
「おはよう馬渕さん、今日も可愛いね」
「や、山口君……そ、そんな見え透いたお世辞なんていいですよ……」
「お世辞なんかじゃないって。今日も馬渕さんは可愛いよ。馬渕さんがいるから、俺は今日も元気に学校生活を送れそうだ」
「……え、そ、そうなんです……か?」
「うん、馬渕さんと今日も隣で授業受けられるなんて、これ以上ない幸せだからね」
「ふぇ!? そ、そんなわけないに決まってます! 山口君は宇宙から来た侵略者に洗脳されちゃってるんです! 私を可愛いとか思わせて洗脳のチェックをされてるに違いないんです、それは本当の感情じゃないんです!」
「でも、俺今馬渕さんと色々話せてすごく幸せなんだけど、この感情も嘘なのかなぁ?」
「そ、それは……そ、その……い、いや、も、もしかしたら私の考えが間違っているのかもしれないので……う、嘘じゃないかも……です」
案外馬渕さんは押しに弱く、俺がうまく言いくるめちゃうとネガティブ思考が止まってしまうようだ。でも、真っ赤なリンゴのように赤面しながら俺の意見を受け入れる馬渕さんの姿を見ていると、胸がキュンとしてしまう。やっぱり馬渕さんは可愛い。
翌日。
「ねぇ馬渕さん。体操着姿もすごく可愛いね」
「な、何を言っているんですか山口君! わ、私に似合う服なんて何一つないんですよ……他の方と比べても、私はどうしても背が小さいので子供っぽく見えてしまいますし、普段着てる制服だって皆さん、ちんちくりん(笑)とか思われているに決まっているんですよ!?」
「いやいや、ちんちくりんじゃないし制服もすごく似合ってるよ」
「え……!?」
「初めて馬渕さんを見たときもすごく可愛い子がいるなって思ってたし。それに、体操服だってスポーティーな馬渕さんの姿を見られて俺は嬉しいよ」
「な、何を言っているんですか山口君! め、目が腐ってしまったのかもしれません! 今すぐ私が評判のいい眼科を見つけてきますね!」
「え、なら今見てる可愛い馬渕さんは間違いなの? イヤだなぁ、馬渕さんの可愛い姿見られなくなるの」
「あ、そ、それは……え、ええっと……わ、私が心配しすぎているだけかもしれないので……ま、間違いじゃないかも、しれないです」
さらに数日後。
「馬渕さん、今日はポニーテールにしたんだ。その髪型も可愛いね」
「そ、そんなはずはありません! わ、私は髪が綺麗ではないので、どんな髪型にしたって意味がないんです!」
「えーそうかな? 俺、馬渕さんの髪はとっても綺麗だと思うけど」
「ま、また錯覚してますね山口君! 太陽の反射がたまたま上手くいってそう見えているだけに違いないんですよ! 全部偶然なんです!」
「なら、俺はちょー幸せ者だね。馬渕さんの一番素敵な髪をいつも見れてるんだから」
「い、いつも……す、素敵……ふ、ふふっ……」
褒められるのに少しだけ慣れてきたのか、馬渕さんは俺の褒め言葉に笑ってくれるようになった。ちょっとだけ、可愛いとかそういった言葉を受け入れられるようになってきたんだろう。もっと自信を持って欲しいな、俺は本当に馬渕さん可愛いと思ってるから。
そんな日々が数日続いたある日の放課後。踊り場で馬渕さんが性格の悪い女子たちに囲まれていた。
「あんたさ、いちいちネガティブすぎてキモい」
「マジそれ。自分がキモいってわかってんなら黙っててよ」
「ほんとは思ってないからそんなこと言えんでしょ。可愛い自分のこと見て〜とか、思っちゃってるんじゃないの?」
「そ、そんなことは……」
どうやら、馬渕さんのことが気にくわないから本人に直接文句を言っているらしい。まぁ、ネガティブが行きすぎて気にくわない人もいるってのはわかるけど、あんなことしたら本人が余計自分に自信をなくすだけだろ。それに、本当に悲しそうな顔をしてる馬渕さんの顔は、あいにく見たくない。
「いちいちうるさいんだよお前ら」
「何あんた? こいつの肩持つ気?」
「ああ、だって馬渕さんには自信を持って自分を可愛いって認めて欲しいからね。お前らみたいなのに馬渕さんの自己肯定感下げられちゃ嫌なんだよ」
「は!? こいつが可愛い? あんた目腐ってんの?」
「さぁ? でも、腐ってたとしても俺は満足だね。馬渕さんの可愛い姿をいつでも見られるんだから」
「……意味わかんな。行こ」
自分でもちょっとキモいかなーって思うことを言ってしまったけど、後悔はない。馬渕さんは本当に可愛いんだから。
「あ、ありがとうございます……山口君」
「大したことはしてないよ。それに、あんな奴らの言うことなんて気にしないで。馬渕さんは、本当に可愛いんだから」
「……ど、どうして山口君は……そんなに私のことを可愛いって言ってくれるんですか?」
「え? そりゃあ、可愛いからだよ。馬渕さんの笑った顔も、ちょっとあたふたしてる姿も、ネガティブなところも、俺は好きだからさ」
「す、好き……?」
「あ、ごめん。ちょっと用事があるから先に帰るね。また明日!」
何か馬渕さんが言いたげだったけど、その日はどうしても遅刻できない用事があったから、俺はそう言って先に帰ってしまった。
その翌日。
「おはよう馬渕さん、今日も可愛いね」
俺はいつも通り馬渕さんのことを可愛いと褒める。すると、馬渕さんはいつものようにそれを否定することはなく、何やら沈黙が続く。あ、あれ? も、もしかして不快になったとか? そ、それなら謝らないといけ——
「好き、です」
「……え」
唐突なその言葉に、俺は固まってしまう。い、今なんて? ま、馬渕さん、好きって言ったよな!?
「好きになっちゃいました、山口君のこと!」
「……え、えええええ!?」
ぷすぷすと音を立てそうなくらい真っ赤な顔をしながら、馬渕さんは俺に告白をしてきた。正直俺は何が起こったのか状況を飲み込むことができず、ただただびっくりするしかできない。
「わ、私のこといっぱい可愛いって言ってくれて……す、すごく嬉しくて……。そ、それに……誰がなんと言おうと可愛いって思ってくれてて……困っているときにも庇ってくれて……す、好きになっちゃいました」
「そ、そんな……ば、ばかな」
「嘘じゃないですから! なら、今日から毎日山口君に好きって言い続けます!」
さすがに嘘だろと思っていた。馬渕さんがまさか俺に好意を寄せてくれるなんて思ってもいなかったから。でも、本当に馬渕さんは毎日俺のことを好きだと言ってくれた。
「山口君……す、好きです! きょ、今日もとても髪型似合ってて……か、かっこいいです」
「そ、そうかな? お、俺よりかっこいい人はいっぱいいると思うよ?」
「わ、私は山口君が一番かっこいいと思ってます。す、好きだから……です」
こんな風に、髪型を褒めてもらえたり。
「おはよう馬渕さん、今日も相変わらず可愛いね」
「お、おはようございます、山口君。今日も……好きですよ」
「!?」
可愛いと言ったら逆に馬渕さんからカウンターを食らって、俺の体がめちゃくちゃ火照ってしまったり。
「や、山口君。今日もいっぱい可愛いって言ってくれてありがとうございます。……好き、です」
面と向かって俺にお礼だけでなく好意を伝えてきたり。
俺に告白していこう、馬渕さんはネガティブな面よりも俺への好意を一生懸命伝えようと奮闘しようと頑張っていた。で、それを受けている俺はと言うと……正直、めちゃくちゃ嬉しかった。けど、それを受け入れることがまだできていなかった。いや、恥ずかしいと言うか……どこでそれを受け入れればいいのか、タイミングをうまくつかむことができなかったから。
でも、案外その日は早くやってくる。
「さて、もうすぐ席替えをするぞー」
前回の席替えをしてからしばらく時間が経ったから、先生がホームルームでそう伝えてくれた。そっか、もう席替えをする頃なのか。なんだかその間に色々あったなぁ……。あ、あれ? でもそしたら、馬渕さんと隣でいられるのもあと少しだけってことなのか……。
「……もうすぐ、お別れになっちゃいますね」
「クラスは一緒だけどね。でも、隣じゃなくなるのは寂しいや」
「……山口君。私、本当に山口君のこと、好きなんです。……隣じゃなくなっても、好きって言いに行っていいですか?」
「……いや、もうその必要はないよ」
「え……?」
「付き合おう、俺たち」
席が離れて近くでいられないのなら、いっそずっと一緒でいられる関係になってしまえばいい。そう考えた俺は、馬渕さんに勢いで告白してしまった。でも、後悔はないや。
「……い、いいんですか、こんな私で?」
「馬渕さんだからいいんだよ。馬渕さんこそ大丈夫?」
「……う、嬉しいです! す、好きな人と付き合えるなんて……私、本当に幸せ者です!」
「俺も、こんな可愛い彼女ができて幸せ者だ」
そう、互いに笑い合いながら俺らは結ばれることになった。
そして今日も俺らはお互いに伝え合う。
「馬渕さん、今日も可愛いね」
「山口君、今日も大好きです!」
———
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