03 フーシェ革命歴

 ジョゼフ・フーシェはル・ペルランという港町で生まれた。

 生来、体の弱い彼は、修道士となるべく教団に入り、そこで学ぶうちに、やがて宗教家ではなく教師としての道を歩むことになる。

 物理を教える若きフーシェ。彼はアラスというフランス北部の街において、ある弁護士と知り合う。

 その弁護士の名を、ロベスピエールといった。

 当時無名であったロベスピエールとの仲を深め、その妹と交際するようになったフーシェ。

 さらに、カルノーという若き技術将校とも知り合い、フーシェの運命は加速する。


 そして革命――フランス革命という大いなる嵐が吹き荒れる。


 八月十日事件によりテュイルリー宮殿が襲撃され、国王ルイ十六世一家がタンプル塔に囚われの身となり、王政が否定され、国民公会が招集された時、フーシェはその議員となっていた。


「ルイ(ルイ十六世)は如何いかなる刑を科されるべきか」


 ……という問いかけにより投票がなされ、フーシェは国王処刑に投票した。

 そしてそのままロベスピエールによる革命政府に参加し、当時、「叛乱」を起こしていたリヨンへと派遣される。

 当時のリヨンは深刻な内訌をかかえていた。

 それは、革命派と王党派の対立である。

 やがて、革命派の横行をしとしない王党派により、革命派の領袖、シャイヨーを投獄してしまう。

 革命政府はこれを叛乱とみなした。



 叛乱といったが、それは革命政府に対する叛乱であって、王党派からすると「義挙」であった。

 だがいずれにせよ、王党派は王党派で、革命派のシャイヨーを惨殺したりと、かなりの「やり過ぎ」をした結果、軍の派兵を招き、やがて鎮圧された。

 鎮圧されたものの、王党派は全滅したわけではなく、リヨンの街には、「叛乱」以前の、いやそれよりも深刻な、王党派と革命派の対立が生じていた。

 血が血を呼び、争いが争いを呼ぶ、泥沼。

 それが、当時のリヨンだった。


「では街のを始末せよ」


 フーシェのは過激を極めた。

 彼により、リヨンの街の、否、この時はリヨンという名を取り上げられたヴィル・アフランシ(解放市)という街の、実に二千人にのぼる人間が「始末」された。

 そう、とは、街のである。

 その時、ギロチンでは「遅い」として、銃による「始末」を断行したため、フーシェはこう呼ばれることになる。


「リヨンの霰弾さんだん者」


 ――と。



 ところが、この過激なは、ロベスピエールの怒りを買った。それが転機なのか、あるいは何を思ったのか、フーシェはポール・バラスなる人物と接近する。

 バラスは悪徳の徒だ。

 コネを使って議員となり、うまくイタリア方面軍へと潜り込み、ナポレオン・ボナパルトという気鋭の将校と知り合い、支配地の住民を何百人も処刑し、その金品を取り上げ、私腹を肥やしていた。

 それがロベスピエールに露見し、パリへ召喚されたところだった。


「どうせ処刑されるのなら、処刑してしまえ」


 こうして熱月テルミドールの反動、あるいはロベスピエールの失脚という事件が起こる。

 バラスらは総裁政府を形成し、それはやがてナポレオンの台頭を招き、統領政府そして帝政と繋がっていく。

 その詳細は述べない。

 なぜなら、それだけで万巻の書が書けるし、そもそもこの文章の主題は――フーシェであり、不幸な少年王、ルイ十七世である。

 フーシェは、一時的な失脚はあったものの、全体的に見て一貫して警察卿の立場にあった。

 その情報収集能力たるや、優れた、そう、たしかに優れたものであったからである。

 彼は、ナポレオンの妃であるジョゼフィーヌすら買収し、情報を集めた。

 そしてそれをうまく活用することができた。

 先を見る目もあった。

 当初、ナポレオンと対立する側に立っていたが、気がつくとナポレオン側に立っていた。

 ところが、そのナポレオンが落ち目になると見るや、すぐさまブルボン朝に鞍替えし、いつの間にやら、ルイ十八世の警察卿として侍している。


 ……これでは、風見鶏だ。

 裏切りという背徳を浴びる鳥だ。

 その浴びた背徳を餌に、さらなる餌をついばむ、鳥だ。

 そしてこのような背徳を浴びる鳥と、交渉を持たねばならないというのが、目下、私――シャトーブリアンの苦痛である。

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