第59話 歓喜の報告
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」
天からの啓示を聞いたかのように、周囲にいた
その光景はさながら、世界戦で優勝をもぎ取った瞬間のスポーツチームのようだった。
「よおおぉぉし、今日は祝杯さ!!」
「皆でお祝いするです!」
チームサポーターよろしく、自分事のように喜び囃し立てるジェイクとルナに、周囲の人間達も肩を組んだり乾杯をしたり、まるでお祭りのようにはしゃいだ。
「これで渋谷区は解放されたわ。改めて、鍵クエスト達成おめでとう」
そんな騒がしい中でも掻き消されぬ芯のある声で、ウルマが祝いの言葉を述べる。
その言葉が、創られたNPCとしてではなく、一人の人間として心から祝ってくれていることを感じ、リクは胸に染み渡るような熱さを覚えた。
「わりぃ。祝う前に先に報告してくるわ」
しかし興奮冷めやらぬ喧騒を視界に収めつつ、リクはスッと輪から離れて歩き出す。
「あっリク先ぱ……」
その背中を追おうとアオイが手を伸ばしかけるが、ユイトがサッと手を出して制止した。
「今は二人きりにさせてあげよう」
「そうね。誰にも邪魔されずに向き合いたいときもあるわよね」
優しくユイトとミカに諭され、アオイは行動の意味を理解し、静かに手を下げた。
リクは見送る仲間を背に階段を上がり自分の部屋へ入ると、妹のいる部屋の扉の前に行く。そして心を落ち着けるように深呼吸をし、扉をゆっくり開けると、
「ユキナ、ただいま。今日は嬉しい報告があるんだぜ」
明るく優しい兄の声音で語りかけ、妹の眼前に立った。
「聞いて驚け? 今日クリアしたクエストが鍵クエストだったみたいでさ。
そう言ってリクは自慢の兄貴ぶりをアピールする。
毎日語りかけ報告してきた中で一番のものを伝えられた。その喜ばしい内容に、動かないはずの妹の顔も微かに綻んだような気がした。
「……でも多くの人を犠牲にした。守りたい者も守れなかった。それを思うと、皆と一緒に手放しで喜べねぇのも本音だけどな」
モイライ内ではスマートフォンで解放の瞬間を撮影している
動画がネット上に公開されれば、多くの人達が大田区のモイライに集まってもっと大騒ぎになるだろう。
けれど見知らぬ人達に囲まれるよりも先に妹へ報告したい。そう思ったからこそ、リクはこの場所に来た。
「俺一人じゃ絶対に達成なんて無理だった。仲間や助けてくれたNPC……そして付喪神がいたからこそ、俺はこうやってユキナに報告できたんだ。犠牲になった人も数えきれねぇくらいいるけど、たくさんの人に支えられて手に入れた第一歩だ。絶対に無駄にしたくねぇし、こうなっちまったユキナも他の人達も全員助けたい。それも本音だ」
最初に支えてリクの命を繋いでくれたのは、他ならぬ妹のユキナ自身だ。
〝霊化の
「明日どうなるかわかんねぇこの世界──いや、例え昔みたいに普通に日常を送ろうとしたって、いつ何が起きるか誰もわからない世界でも、自分が何を望んで何を選ぶのか。運命には逆らえなくても、逃げずに決めることが大事なんだって今は強く思う」
〝岐路の紋章〟を刻まれ〝
「俺は自分の決めた道を最後まで貫き通す。そんでユキナが元に戻ったとき、それまで俺が話したことの感想聞かせて貰うんだ。もちろん、聞こえてなかったらまた最初から全部話してやる。それこそ夜が明けるまでな」
話しかけているこの声が妹に聞こえているかはわからない。
それでも、全区解放した運命の日に「お兄ちゃんの話、毎日楽しかった」って言われたらどれだけ嬉しいか。
それを夢見て、リクは毎日妹に語りかけていた。
「その日を期待して待ってろよ。幸せな運命を、俺の方から引き寄せてやるからな」
立ち止まっていては運命を掴めないからこそ、自分から掴みに行く。全区解放は一人では難しいだろう。
でも仲間と一緒なら、できる気がした。
「だから、見守っていてくれよな」
そう言ってユキナの顔を静かに見つめると、妹の表情は心なしか嬉しそうに見えて、リクの心を温かく満たしてくれた。
渋谷区──解放。
残り──22区──
魂の解放者~幽霊になった俺たちが有名人の悪霊を退治するRPG~ タムラユウガ @tamu51
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