第36話

『あっという間の会談で御座いましたね旦那様』


 ビルから出た足で、近くのダンジョンである『平穏の怪洋』前の冒険者ギルドに来ている。


 このダンジョンの特徴も『迷海の洞窟』の二階層と同じく、広大な海が広がるフィールド型ダンジョンのようだ。


 さらにこのダンジョンは、入り口をくぐった先にある砂浜から先は海のみという、『迷海の洞窟』を超えるほどの過疎っぷりを、都心ながらに更新しているダンジョンとして冒険者ギルドのサイトでは有名だった。


 今現在世界中を探しても、水中で活動が可能な冒険者は少ないので、こういうダンジョンを積極的に狙っていきたいのだ。


 水中が大半なフィールドのダンジョン前ギルドなだけあって、貸し出している装備がダイビングスーツのようなものだったので、今回はこの装備を借りてダンジョンに突入する。


 そしてダンジョンの入り口を通り、事前の情報通りの砂浜に到着すると、薬指の指輪に触れ全身鎧を展開する。


 ちなみにこの指輪、アースお母さんやムンさんの加護も加わり形状が変化していた。


 昨日までは三女神の色味にあったクロスリングだったのだが、今は角度によって印象の変わる虹色の幅のある指輪になっていた。


「ツナミの加護で海中ならほぼ無敵だけど、念のため準備運動はしておこう」


『そうで御座いますね……万が一があってはいけませんから』


 水中での動きを補正してくれる初期の全身甲冑に姿を変え、準備運動としてその場で飛び跳ねたり、関節を伸ばしたり体を十分に動かしたので、ついに水の中に飛び込む。


 海面をくぐった俺の視界に飛び込んできたのは、揺れる海藻と視認できる程度の海底を彩る岩礁たちだった。


 そんな光景に見とれていると、海底からとてつもないスピードで何かが突っ込んでくるのを感知した。

 なので初めて天空の円環を発動してみる。


 このスキルは俺の瞳に現れるらしく、自身では確認ができないのだが、瞳の中に白い輪っかが出来るらしい。


 そして俺は未来に起こる事象をその目で捉えた。


 そこにはどぎついオレンジ色をしたカサゴが、鰓からジェット噴射を出して、大きな口を開けて俺に突っ込んでくる姿が写っていた。


 ただでさえ不気味な見た目のカサゴが機雷のようなスピードで突っ込んでくるという最悪な光景に、俺は気付けば海槍ツナミを召喚し、カサゴの進行方向へと突き出していた。


 グッと少しの衝撃に耐えると、なんと海槍ツナミの先に刺さったカサゴが、靄にならずにそのままの姿で残ったのだった。


 なんでだろう?今までのモンスターは例外なく靄になっていた筈なんだが……。


 『そういえば伝えるのを忘れてたんだけど、雄くんが魔物の素材が欲しい、モンスターもテイムできるようにならないかなって夜に言ってたじゃない?だから異界の神に提案をしておいたの』


 なんとアースお母さんがダンジョンの根幹を管理しているらしい異界の神に、俺の些細な呟きを意見として提案してくれていたらしい。


 それにしても対応が早すぎる気もするが、ダンジョンの構造を大幅に変えるのはそんなに大変じゃないのかな?


「それならいつかお礼をいわないとだな~……アースお母さん、異界の神様にもしまた会ったら、俺が会いたがってたって伝えてもらえる?」


『それぐらいならお安い御用よ?今夜も異界の神と会う機会があるはずだから、伝えておくわね♪』


 頼られて嬉しかったのか、念話からは弾むような声音が聞こえてくる。


 そして異界の神様とは頻繁に会っているらしく、俺がお礼を言えるのもそう遠くない未来であるようだ。


 ……俺が幸せに生活しているのは、異界の神様が地球を頼ってくれたのがそもそもの始まりなんだし、いっぱいお礼しないとだな。


 アースお母さんと念話をしている最中も、海槍ツナミの先端ではオレンジ色のカサゴ型モンスターがぐったりとした姿でぶら下がっていた。


 この状態でも鑑定はできるようなので、鑑定のスキルを使ってみることに。


【名前】――

【種族】ジェットカサゴ

【Lv】5

【職業】――

【スキル】風魔法Lv1 振動感知LV2

【情報】普段は岩礁に張り付き秘かに獲物を狙うよう創られたカサゴ型モンスター 自身の感知に反応があると、標的に向かって鰓や鰭から風魔法を使い、ジェット機のような勢いで体当たりをする 


 随分と不思議な生態をしているモンスターだった。

 それに毒も無いようだし、今晩試しに食べてみようかな?


「……モンスターって食べれるの?」


『もちろんで御座います。異界の住民たちは、ダンジョン外で繁殖したモンスターを食べていたそうで御座いますよ?』


 少し不安に思い念話で尋ねてみたところ、ツナミが答えてくれる。


 ……ならなんで最初から異界と同じ設定にしなかったんだろうか。異界の神様に会ったら聞いてみようかな。


 それから何匹かのジェットカサゴや、軍隊イワシという無数の魔鰯というモンスターの魚群でできた巨大なモンスターを討伐したり、針をミサイルのように飛ばしてくるウニのモンスターを獲ったりと、存分に海中ダンジョンを楽しんでいたのだった。

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趣味人高校生のダンジョン探検記~世界初の愛されダンジョン攻略者は趣味に没頭できるのか⁉~ きぃ @Hnako725

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