好きって事

ウリが好きなった人を突き詰めていくと、自分が好きになった人は一つ一つしか持っていなかったけど、その全ての言動を満たしている人は、たった1人しかいない。


碧琉だ―――…。


その碧琉の存在に、さっきとは違う涙が零れた。


そうだ…。そうだった…。碧琉は、いつだって傍に居てくれた。いつもいつも優しかった。『この人が好き』『この人も好き』『この人だって好き』おまけに、『好きな人はいっぱいいるけど、告白を受け入れた』―――…。


そんなウリを、怒りもせずに、呆れて放って置く事もせず、散々、本来ならば、桜井の様に、引っぱたいたり、『良い加減にしろ』とか『人間は本来好きな人を何人も作るものじゃない』とか、一人の人を大切に、心から想うものなんだ』とか、怒る事も、諭す事も、窘める事も碧琉は小学校から、中学2年生になったこの今日の日まで、碧琉は、言った事が無かった。


と、その時、新しき人物の、登場―――…。碧琉、本人だ。


「白石さん、ありがとう。ウリには良い薬だ」


ウリに忠告してくれた和歌音は、ついさっき、碧琉に告白してフラれた所だった。


「碧琉くん…」


「良いんだ。俺も、何度もウリに言おうとしか分からない。言った方が、ウリの為にもなるんじゃないかな?って思ったりもしたし、イライラする事も怒りたくなる事も、怒鳴りたくなる時も、さっきの桜井みたいに、手が出そうになったこともあった。…でも、言えなかった…。出来なかった…。俺は、ウリが、大切だったから。こんなやつでもさ、何が良いの?って言われて、よく理由が分からなくても、好きなもんは、好きなんだよ…な…悔しいけど」


その言葉に、ウリは初めて、目が醒めた気がした。


「碧琉…私は…碧琉がしてくれていた事に、碧琉時が合っていた事に、碧琉が傍にいてくれていた事に…なんで、気付かなかったんだろう…?」


「それは…」


碧琉が答えようとした時だった。しかし、代わりにその質問に答えたのは、和歌音だった。


「それはね、ウリちゃん、碧琉君が気付いて欲しかったからだよ」


「…いっぱい人を…好きに…なっちゃいけない、って事に?」


「ううん。ウリちゃんが、本当に、本気で、好きなのは、碧琉君だったって事だよ。それを、ウリちゃん自身で、ウリちゃんの自分の心で、気付いて欲しかったんだよ。そうでしょう?碧琉君」


「………」


碧琉は何も言わなかった。ここで、自ら告白しては、ウリは変わらない、そう思ったからだ。しかし、それは、要らぬ心配だった。


「ごめん…ごめんね…碧琉…。私が今まで好きになった人はみーんな、碧琉だったんだね。いつもいつも、碧琉の隣に、置いてくれてたんだね…。私は…碧琉が…碧琉が好きだったんだね…」


ウリは、涙を流しながら、一生懸命今までの過ちを今の碧琉への溢れる想いを、連ね、言葉にした。


「和歌音ちゃん、ありがとう。和歌音ちゃんに言ってもらわなかったら、私…私、本当に本当の想いに気付かずに、永遠に碧琉を傷つけ続けていたかも知れない…。もしかしたら、碧琉を、失っていたかも知れない…。本当に、本当に、ありがとう…」


「…なんか、複雑なんですけど…。私だって、碧琉君の事本気で好きだったんだから…。もし!また、碧琉君の事裏切ったり、傷つけたりしたら、絶対、赦さないよ!!」


「はい!!」


和歌音がその場を去ると、ウリは、碧琉の前に立ち、背の高い碧琉を見上げ、ウリは、その瞳を潤ませる。そ


そして、碧琉も、『やっとだ…』とばかりに、ウリを抱き締めた。




「やっと分かったよ…。碧琉…。これが、って、気持ち、なんだね」

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君は熱しやすく火照りやすい @m-amiya

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