気付いて

放課後の、廊下。桜井の怒りは、留まるところを知らなかった。


「ふざけんな!こっちは本気でお前の事、好きだったのに、好きな人がいっぱいいるってなんだよ!?人をコケにすんのも良い加減にしろよ!人の心弄びやがって!お前みたいな女を予の中ではって呼ぶんだよ!!2度と、俺に話しかけるな!俺の前にも現れんな!!この!!」


と、ウリは、もの凄い勢いで、罵られてしまった。引っぱたかれた頬の痛みと、熱、その、熱い頬を伝う涙…。ウリは、しばらく心の底まで味わされなながら、ボー…っと、突っ立っていた。


1時間ほど経っても、ウリは、そこから動けないでいた。自分が今まで当たり前だと思って来た複数の人を同時に好きになると言う事が、初めて、してはいけない事だったのだ、と身をもって知る事となった、この日。



ウリは、という事が、本当はどういう事なのか、という事は、一体どういうものなのか、全く、分からなくなってしまった。



「私の…好きは…、全部、じゃ、無かったの―――…?」



誰もいない廊下で、ウリはポツリと呟いた。


その時…、誰もいないはずの廊下で、下校時刻をとうに過ぎている廊下で、頬を押さえて泣いているウリの後ろから、聞いた事も無い女子の声がした。




「ウリちゃん?」


「!?」


ウリは、心臓が飛び出るくらい驚いた。そこに立っていたのは、小学校からの友達、白石和歌音しらいしわかねだった。


「…和歌音ちゃん…、どうして…」


「…ウリちゃんに…言おうかどうか、ずーっと、迷ってたんだけど、この前、登校途中で貧血起こして、倒れたウリちゃん、抱きかかえて保健室まで運んでくれたの…、碧琉君だよ…」


「え…?」


ウリは、正直驚いた。自分を運んでくれたのが誰か、ではなく、付き添ってくれていた、氷川に、ウリは、恋をしてしまっていたのだから…。


そして、和歌音は、続けた。


「…それに、気付いてる?ウリちゃんが、好きになった男子達の共通点、全部持ってる人がウリちゃんの近くに居るって事…」


「だ…誰…?」


「本当に、分からないの?それじゃあ、桜井君に怒られても、無理ないよ…」


「……」


その時、また、グサッと、何かが胸に刺さった。


「ウリちゃん、小学校2年生の時、ハンカチ、拾ってもらってたでしょ?それも、洗って、アイロンまでかけて…。そうやって、ウリちゃんが困らないように、探してくれたでしょ?自転車に突っ込まれたり、その時自分の傷の方が深かったのに、それは後回しで、絆創膏ウリちゃんに貼ってくれた人、いたでしょ?ノートを集める時、『お願い』だけじゃなくて、クラスさえ違うのに、30冊近くも持って職員室まで運んでくれた人、いたでしょ?それに、身長高くて、2年生なのに、レギュラーで、エースの人、いるでしょ?その人は、ダンクだって出来るって、知ってた?それに、面白い漫画教えてくれるのは、いつも、同じ人でしょ?それから…、ウリちゃんの夢にその人は、出て来た事は無いの?」


並べ立てられるなぞなぞのような台詞の連打に、浮かび上がる人は、1人しかいない―――…。


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