アメーバになりたい男
私はずっと、アメーバになりたいと思っていた。そう、あの形がないうねうねした単細胞であるアメーバのことである。私はいつも、自分がアメーバになることができたらどれほど素晴らしいだろう、ということを想像し、その妄想はいつも私を慰めてくれた。では、なぜ私がアメーバになりたかったのか、その理由をお話ししよう。
まず、ここが一番大切なところだが、アメーバは人間ではない。ちょっとまて、とそこの君は思うだろう。人間をただ辞めたいだけならば、別に像でもライオンでもカバでもトビウオでも、なんでもいいんじゃないか?
いや、君は大きな勘違いをしている。アメーバほど人間と無縁でいられる生物はいない。私はとにかく人間というものが嫌いだし、見たくもないのだ。アメーバになるというのは、その目的を達成することができる、非常に有効な選択肢である。
その次に私がアメーバになりたい理由、それはふにゃふにゃしていても誰からも文句を言われないことだ。私はふにゃふにゃになりたい。徹底的にふにゃふにゃになることに憧れている。それでもこの人間である私がふにゃふにゃになろうとすれば、みんなはきっとこう私に言うだろう。「お前は何現実から逃げてるんだ?そんなことしてなんのメリットがある?ふにゃふにゃするぐらいなら、もっと生産的なことをしろよ」、と。私たちは常にソリッドであることを求められている。
そして最後の理由。それは何も考えなくていい、ということだ。そして、何も考えていなくとも、誰からも責められることもない。ただその触手をニュルニュルと動かしていればいい。それがどれだけ幸せなことか!
これらのことが、私がアメーバになりたい理由である。そう、私はアメーバになりたい。死ぬほどなりたい。でも私は人間のままだ。それは選びようも無いうえ、変えようもない。そのことで私は今日も肩を落とし、こうやってただ息をしながら生きている。
ギター星人とその仲間達 佐寺奥 黒幸 @sajioku_kurosati
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