第56話 奇遇ですね
ジルの仕事がひと段落したのを見計らって、私達はお忍びでカフェ・ヨハンへと向かった。
店内に入ると見慣れた人達がいる。
「えー!?嘘!どうしてー!」
思わず声に出てしまった。
あれ?陛下のお向かいに座っているのは父と貴族の少年よね。
あの少年は誰だろう。
「ご機嫌よう陛下、お父様。それとそちらの方、初めましてアリス・ロダンです」
私は少年にも優しく挨拶をした。
彼は少し緊張した様子で父を見る。
「アリス、この子は私達の仕事を手伝ってくれている。マルコくんだ」
「マ、マルコです。よろしくお願いします」
ハニカミながら、マルコくんは挨拶をした。
何この子!可愛い!!
ギュッとしたくなるわ。
私の怪しげな様子に気付いたジルが肘をぶつけてくる。
「アリス、とりあえず座ろう」
「え、ええ、そうね」
陛下の横に私とジルは座った。
お向かいには父とマルコくんがいる。
「メニューをお持ちしました」
店主が私達の前にメニューを置く。
さて、今日は何にしようかしら。
2人で素早くメニューを選ぶ。
「僕はアップルパイとロイヤルミルクティーで、彼女はオペラとストレートティーをお願いする」
ジルは店主に注文を伝えた。
「はい、かしこまりました」
店主は素早くメニューを持って下がる。
「それで、父上達はここでティータイムですか?」
ジルが切り出した。
「いや、私達が揃ったのは偶然なのだよ」
陛下が答えた。
「はい、偶然なのです。私とマルコくんが先に来ていたので」
父は補足する。
「御父上とマルコの組み合わせは珍しいですね」
あれ、マルコくんの事を呼び捨てにしたということはジルも彼の事を知っていたのかしら。
「ええ、すっかり意気投合しました」
「そうですか」
「お父様、私も一緒に行きたいと言っていたのに、、、」
私は先日の話を持ち出す。
「ああ、すまない。スケジュールが合わないと思ってマルコくんと2人で来てしまった」
「まぁ、会えたから良かったですけどね」
「御父上達は何か用事があって来られたのですか?」
ジルは何か意味深な聞き方をした。
「ご明察です。実は、、、」
父は私達にしか聞こえないくらいの小さな声で事の顛末を話してくれた。
ヨハン2世さんとマダム・ベルガモットはザザの兄妹だと、、、。
「えええ!きょうだ、、、」
私の叫びはジルが私の口を押さえた。
「すみません。動揺しました」
私は皆にお詫びを言う。
「アリスティア嬢、その気持ちは分かる。私も驚いたよ」
陛下が救いの手を差し伸べてくれた。
「分かりました。それにしても三兄妹とは、、、驚きました」
一見、冷静に見えたジルも動揺していた様だ。
「ええ、皆でこれからも様子見ですね」
父の言葉に全員が頷いた。
「それから、アリスティア。例の件は準備が整った。明日、最強の助っ人が来るから安心しなさい」
「ありがとう。お父様」
「例の件?」
陛下が興味を示す。
「実はアリスはビビアンから紹介されて、水の離宮へは仕事をするために来たのです。そして、その求人はザザが出していたのですが、未だお給金が未払いで、、、」
お父様は陛下に事情を簡潔に伝える。
私は最初に見聞を広げるために旅していたという設定があった事を思い出し、内心ヒヤヒヤだった。
どうぞ、忘れていて下さい陛下。
「な、なんと!未払い?それでは王家のメンツが、、、。私が払おう!!」
「いえ、陛下。それはお断りします。ザザはジルに許可なく求人を、出していたのです。責任を取ってもらいます」
私は陛下に自分の考えを述べる。
「ジルフィードに許可なく?一体どう言う事なのだ」
「恐らく、僕が平民の花嫁がいいと呟いた事が発端だと、、、。ザザは侍女の募集という嘘の求人で僕の花嫁を探そうとしていたのだと思います」
「何と!?何故そんな事を言ったのだジルフィード」
「それは、ブルボーノ公爵が僕に片っ端から強めの貴族女性を送り続けて来て、、、」
あー、お察しの案件だわ。
「そうか、それは大変だったな」
陛下のテンションが一気に下がる。
「はい、大変でした」
「それで、ロダン領の執事と繋がっていたのでは無いかという話になったのか?」
「はい、そうです」
ジルはバツが悪そうに答えた。
「それは深読みし過ぎだろう」
陛下が呆れる。
後ろで父も頷く。
「そうかも知れません」
ジルらしくない弱気な返事だった。
「それに、意図的に送られて来ていたとしても、もはやアリスティア嬢以外は嫌なのだろう?」
「はい、絶対に嫌です」
あ、そこは強い意志を見せるのね、ジル。
何故か、父が嬉しそうな顔をしている。
「それならば、ジルフィードはこの件ではザザに感謝するべきだな。しかし、お給金の未払いは別問題だ。ザザからしっかり貰わないといけないね。アリスティア嬢」
「はい、しっかりいただきます」
私がキリッと答えると皆んなが笑った。
「うむ、では吉報を待つとするか」
「はい、待っていて下さい」
私は父に殆ど丸投げしたのに、胸を張って言い切る。
「さて宰相、私達は食べ終わったから、そろそろ帰るとするか?」
「そうですね。殿下達はこれから忙しくなりますし、どうぞごゆっくりティータイムを、楽しんで下さい」
父は陛下やマルコくんと一緒にお会計を済まし、帰って行った。
「気を遣わせてしまいましたかね」
「そうだね」
そこへ店主のヨハン2世さんが私達の注文した飲み物やケーキを持って来た。
「お待たせ致しました。殿下、ロダン伯爵令嬢様。お飲み物とケーキをお持ちしました」
「ありがとうございます。前回は色々あって、じっくり味わえなかったので、今日は楽しみにして来ました」
私は暗に前回の毒事件を持ち出す。
「あー、あの時は突然ギュッと縛られて驚きました。第二騎士団の方々のお陰で迅速に片付いて良かったです」
ヨハン2世さんはしっかり覚えていた。
「店主、騒ぎに巻き込んで済まなかった」
ジルも一言付け加える。
「いえ、殿下も毒にはお気をつけて下さい」
「ああ、そうだね。気をつけるよ」
ジルは苦笑いしている。
「そう言えば、今、マダム・ベルガモットにウエディングドレスを作って貰っているのです。マダムはとてもセンスが良くて、それはそれは素敵なのです。妹さんは昔からオシャレにご興味が?」
私は当然のように話題にした。
「ええ、妹は昔から綺麗な物が大好きで、今は天職に付けて充実した日々を過ごしています。私達兄妹も色々ありましたが、今が一番幸せです」
とてもいい笑顔でヨハン2世さんは話してくれた。
「店主、僕は結婚したら王宮に戻る。困った事があったら、悩む前にまず相談して欲しい」
ジルは色々な意味を含めた言葉を伝える。
「ええ、そうします。ありがとうございます」
そう答えたヨハン2世さんの嬉しそうな表情が印象的だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます