第54話 荷解き

 ボクはアリスのお父さんとアリス達がランチを食べながら話している内容を何となく聞いていた。


「・・・領民からも喜びの声が上がっていた」


アリスのお父さんの声がして、ハッとした。


あれ?ボクの事を言っている。


僕はロダン領の皆さんへ、シュークリームをボニーやベラと運んだ。


それをこんなに喜んで貰えていたなんて嬉しい!!


視線を感じて見上げると、ジード様が僕に微笑んだ。


ボブもとっても嬉しそう。


へぇー、レシピ作りをするのか。


良いかも!!


アリスのお父さんも優しそうな人で良かった。




 ランチが終わって、アリスのお父さんはお部屋で片付けをすると言っていた。


ジード様とアリスは来週の結婚式の準備で午後から『ブルーエンジェル』の人が来ると話していた。


ボブはおやつと夕ご飯に美味しいものを作ると張り切って、厨房に帰っていった。


ボクは特にする事もなく廊下を歩いている。


「おや?マルリくん」


気配もなく急に話しかけられて驚く。


振り返るとアリスのお父さんがいた。


「ニャーン(こんにちは)」


「ああ、こんにちは!」


「私の部屋はそこの扉のところだよ。遊びに来るかい?」


「はい、行きます!」


そう言うとアリスのお父さんは扉を開けて、ボクをお部屋に入れてくれた。


「お邪魔します」


ボクはキチンと挨拶をしてお部屋に入る。


「はい、どうぞ」


アリスのお父さんが笑顔で答えてくれた。


「さて、荷物でも片付けるかな。マルリくんは好きなところでゆっくりして居なさい」


そう言うと、アリスのお父さんは、沢山の荷物から、大きな黒いカバン取って開ける。


中にはお洋服が入っていた。


「アリスのお父さん!ボクお手伝いする」


「おや、手伝ってくれるのかい?ありがとう」


ボクはお手伝いがしやすい様に貴族の少年の姿になった。


「ボク、荷物を魔法で運ぶのが得意です。なにを何処に入れたいのか言ってください」


「マルリくん、随分と可愛い少年になったね。その姿でロダン領に行ったのかな?では、これはチェストに入れてくれるかい?」


アリスのお父さんは黒いカバンを僕の方へ差し出した。


ボクは右手をクルリと回して、魔法をかける。


すると黒いカバンの中身だけがフワフワと浮いてチェストへ移動する。


到着先のチェストの引き出しが開いて、荷物を待ち受ける。


キレイにお洋服が引き出しの中に並んでいく、全て入ったら、スッと引き出しが閉まった。


「おお!コレは便利だね。マルリくん、他にもお願いして良いかい?」


「はい、アリスのお父さん」


「おや、その呼び名はちょっと長いね。私の事はウィルと呼んでくれるかい」


「はい、ウィルさん」


ボクがお名前を呼ぶとウィルさんは、ボクの頭を撫で撫でしてくれた。



 ウィルさんの荷解きは2人でしたから、一刻程で終わった。


少し喉が渇いたなぁと思うと、良いタイミングでボブが飲み物とお菓子をワゴンで届けてくれた。


勿論ボクの大好きなミルクも!!


ボブ、大好き!!


ボクとウィルさんはおやつを食べながら、のんびりとしていた。


「マルリくん、ジュリアンは君に優しかったかい?」


突然、ウィルさんは心配そうな顔をして、ボクにロダン領の事を聞いて来た。


だから、ボクはお菓子を届けた時や、第二騎士団の皆とジンギスカンパーティーをした時の事を話した。


「そうか、良かった。ジュリアンは仕事も頑張っている様だね」


ボクの話を聞いてウィルさんは安心したみたい。



 「コンコン」


 ノックの音がする。


「アリスです」


ボクはすぐに猫の姿に戻った。


ウィルさんはそれを見てからアリスに返事をする。


「入りなさい」


ガチャっと扉を開けて、アリスが入って来た。


「あら、マルリも居たのね」


「ミー」


アリスはボクに近づいて背中を撫でてくれた。


「アリス、どうかしたのかい?」


「荷物が多そうだったから、片付けを手伝いに来たのよ。でも、遅かったわね」


アリスは部屋を見回す。


「少し魔法を使ったからね」


ウィルさんはボクにウインクをした。


「魔法、、、ね。お父様、私に伝承する内容って結構多いの?」


「それなりにはあるね。急いでも3年は掛かるだろう。まぁ、急がなくても私が元気だから大丈夫だよ」


「そ、そうなのね。それでね。少しお願いもあって来たの」


「お願い?」


「実はね、と言うか、お父様はご存知かも知れないけど、私は当初ザザの出した求人でここに来たの」


「ああ、知っているよ」


「そっか、でもまあ一様、話すわ。当初ご主人様のお話し相手とお掃除で1日10万ジルットという約束だったのと、途中で隣国への出張依頼で500万ギルットの仕事も請け負ったの」


ウィルさんは真面目な顔でアリスの話を聞いている。


「それで?」


「それでね、実はまだ1ジルットもお給金を貰っていないのよ。ジルが代わりに払うって言っていたけど断ったわ。だってザザはジルに断りもなく求人を出したそうだから」


「主人に断りもなく?」


「そう、断りもなく。しかもジルはジュリアンがビビアン人材派遣所を私に案内したのもおかしいと思っているみたい」


「それは私でもそう思うだろうね」


ウィルさんの表情が厳しくなった。


「水龍たちは何か他の意図があったのか?」


ウィルさんが呟く。


「そこは分からないの。あ!それとね、今から『ブルーエンジェル』というサロンの方が来るのだけど、そのお店は80年前に王都に開業して、創業者は水龍の恋人の王女殿下のご縁で王族と取引を始めたそうよ」


「80年前にロダン領から追放された者かも知れないね」


「水龍以外に?」


「ああ、水龍の悪事に加担した者は一緒に追放している」


「でも、王都で集結していたら意味が無い気がする」


「その通りだね」


「ナーン、ナーン、ニー(ボク、他にも知っている)」


「ん、マルリくん、どうした?」


ウィルさんは屈んで、ボクの頭を撫でてくれる。


「ミー、ニー、ミャオ(「カフェ・ヨハン」)」


「ふーん、そうか。ありがとう」


撫で撫で撫で、、、。


ウィルさん大好き!!


ボクはウィルさんに擦り寄った。


「いやー!お父様ズルいわ!!マルリー!」


アリスもボクを再び撫で始めた。


2人に撫で撫でされて、ボクは幸せな気分になる。


「アリス、『カフェ・ヨハン』は知っているかい?」


「ええ、知っているわ、ジルや陛下達もよく行くカフェよ。ロナ川のほとりにあって素敵なカフェなの」


「行ってみるか、、、」


ウィルさんは呟いた。


「意外!お父様ってカフェ好きだったのね。私もロダン領から出て来て、街を歩く事が増えてカフェでひと休みするのが大好きよ。今度一緒に行きましょう」


アリスは嬉しそう。


ウィルさんは何故か泣きそうな顔をしている。


どうしたの?


「アリス、ずっと王城に閉じ込めてしまってごめん」


「もう、理由が分かったから怒っていないわ。お父様こそ、バルロイ帝国を救ったのですもの、誇らしく思っていいのよ」


「ありがとう、アリス」


「どういたしまして」


「それで、話を戻すとザザからお給金を貰ってないということだったね」


「そうなの。今更、どうやって取り立てたら良いのかが分からなくて」


「なるほど、それで私を頼ってくれたって事だね」


「ええ、そうよ。お父様の悪知恵を是非お借りしたいわ」


アリスが堂々と言うのを聞いて、ウィルさんは吹き出した。


「仰せのままに。では、少し準備をする。用意が出来たら知らせるから待っておきなさい」


「ありがとう、お父様!」


アリスはウィルにお礼を言うとボクを抱き上げた。


「では、サロンの方が来るから戻りますね。ごきげんよう。お父様」


そのまま、ボクを連れて部屋を出ようとする。


「ミー、ニャオ(またね!)」


「ああ、ごきげんよう。アリス、マルリくん」


ウィルさんは扉が閉まるまで、手を振ってくれた。

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