第52話 猫と皇子と私

 僕とアリスは水の離宮に戻った。


「ねぇ、ジル?酷い話だったわね」


部屋に着くなり、アリスはキレ気味に話し出す。


「やはり、綺麗すぎる話には裏があると思っていた。御父上の話を聞いて良かったと思わない?」


「ええ!それは勿論聞いて良かった。色々な人の話を聞かないと行けないと身を持って経験出来たわ」


アリスは水龍の神殿で聞いたロマンス話に少し同情していたので、なおさら裏切られたと思っているらしい。


「だからザザは信用してはいけないって言ったでしょう?」


僕はアリスの目を見てゆっくりと話す。


アリスの表情が何故か急に険しくなって行く。


「アリス?どうしたの?」


「トンデモナイことを思い出したの」


「何?」


「私、、、お給金1ジルットも貰ってない」


「あ、、、そうだね。代わりに僕が払、、」


僕が言い掛けた途中で彼女が割り込んだ。


「ジルが払うのは変でしょ?私は執事さんに請求するわ」


うーん、アリスへのお給金の件は僕も少し雑に扱っていた気がする。


「あ!それと私、ジルにも言いたいことがあるの」


「何?アリス」


アリスはおもむろに胸元を開く。


僕はドキッとした。


「これ見てよ!」


あ、これは、、、、。


数時間前の行いを思い出す。


「痛い?ごめん」


思わず手を伸ばすとバシッと叩き落された。


「ジル、痛いのではないの。これ明後日着るドレスから見えるのよ!!最悪」


あー、そういうことか。


「見せていいんじゃない?」


「はぁ?お父様の任命式なのよ?気まずくないの、ジル」


「僕は気にしない」


「私は気にする」


「分かった。消す」


僕はもう一度アリスの胸元に指先を伸ばし、触れた。


回復魔法を指先から流す。


赤い印はスッと消えた。


「何だか寂しい」


「ジル、、、仕方ないわね。べつの見えないところに付ける?」


んー、無意識に誘惑にしてくるアリスはどうなのか?


これは押し倒しても許してくれるのか?



 何だか分からないけれど、ジルが黙ってしまった。


私はマズイ事でも言ってしまったのかしら?


「ジル?どうしたの」


私が話しかけるとジーッと見つめて来る。


何なの本当に。


「何か遠慮しているなら、そんなのご無用よ」


ん?目が光った気がする。


「アリス、遠慮しなくていいの?」


「逆に聞きたいわ。何を遠慮しているの?」


「愛しい婚約者ともっとくっ付きたい」


「なーんだ、そんな事なら遠慮なくどーぞ!」


私は両手を広げて見せた。


ジルがゆっくり近寄って抱擁するかと思いきや、私を横抱きにした。


え?思っていたのと違う。


しかも私を抱き上げて何処に行くのよ。


「ええ?どう言う、、、」


私が困惑した言葉をジルに投げかけたのは、ベッドの上にふわりと下されて、ジルが上から覆い被さり、私を眺めているからだ。


「深い仲になりた、、」


「ちょーっと待った!!!何でそこまで飛躍したの?途中が無さ過ぎでしょうジル!!」


「途中?」


待ってー!そこで質問して来ないで!!


私が解説しないと行けないの?


「そこはジルが考えてよ。私に言わせないで」


「キスしたいは?」


「いつもしてるじゃない」


「触りたい」


はぁ、素直に可愛く言えば良いって思ってない?


「ええっと、結婚する迄は待てないの?」


「何故待たないと行けない?」


あー、ジルらしさが満載の回答をありがとうございます。


「うーん、気持ちの問題じゃない?」


「結局、するのに?」


ギャー、天使の様な顔をして何を言うのよ。


「ええっと、私の意見を聞く気はある?」


「うん、勿論」


「最後までしてはダメ!結婚式が終わるまでは絶対ダメ!!」


ジル〜、物凄く嫌そうな表情が顔に出ている。


「触るのは怒らないから、それ以上はダメ」


「えっ、触っても良いの?」


あら?急に嬉しそう。


まぁ、減る物でもないし、それは良しとしよう。


プチ、プチ、プチ、、、。


「ストーップ!何?何故、脱がそうとするの?」


私はジルの手を掴んで問う。


「んー、直接触りたい」


「まさか、、、そんなのムリ!!」


私はジタバタしだす。

 

ジルは私の頬に手を添えて、優しくキスをした。


「それなら、沢山キスする」


そう宣言すると、私を見つめながら、指先にキスをして、美しいライトブルーの瞳から色気を振りまく。


勝てる気がしないけど、ここで負けては行けない。


私も両腕を伸ばし、ジルの首に掛ける。


「ジル、大好きよ」


首に掛けた腕を引いてジルにキスをした。


「あー、アリス大好き」


ジルは私をギュッと抱きしめた。


ヨシ!話をして気を逸らせよう。


「そう言えばジル?さっきの話しで、使い魔はここに置いていくって言ってたけど、お料理をする使い魔って、私は会った事がないわ」


「いや、ボブが使い魔だよ。王宮から連れて来た、、、」


ジルは私に頬擦りしながら答えた。


「えええ!!嘘ー!ボブさん、使い魔?私、使い魔と人間の区別が全く付かないわ」


「普通はそうだと思う」


「私、ボブさんが使い魔って、結構ショック受けているわよ」


私がブツブツと衝撃についてボヤいている間もジルは私を抱きしめて、首の辺りに唇を這わせている。


「アリス、出来れば僕のことだけ今は考えてくれない?」


考えたい、勿論考えたいのよ。


でもね、止める人が居なくなってしまうじゃない。


「ジル、例えば私がジルを触りたいと言ったら嬉しいの?」


「それは、危険かも知れない。僕は自分が止められなくなりそう」


「分かりました。今のは聞かなかったことにして下さい」


「うん」


「そう言えば、マルリはベッドで寝ていた気がしたのだけど、何処に行ったのかしら?」


「マルリはソファーにいる」


ジルは顔を上げてマルリの方を見る。


「ミャー」


マルリはソファーで丸くなっていた。


「いやー!居たのマルリ!!あー、ジル駄目よ。マルリが見てる前で不埒な事は出来ないわ」


「いや、マルリは猫なんだから、別に問題ないと思うけど」


ジルは不服そうだけど、私は彼を押し除けて起き上がった。


「マルリー!!」


私はマルリに駆け寄り、抱っこした。


そして、再びジルの元へ戻る。


3人でベッドの上に座った。


「マルリ、もうすぐ王宮に一緒にお引越しするのよ」


「ミーン、ニャ」


「マルリもボニーもベラも一緒に行くから大丈夫だよ」


ジルもマルリに語りかける。


この2人を見ていると通じ合っている気がする。


羨ましいなぁ。


「私もマルリとお喋り出来るようになりたいわ」


「ナーン」


マルリが甘えた声で鳴く。


「いつか出来るといいね」


ジルは優しく私に言った。


さて、明後日は父の任命式、それが終わると私達の結婚式だ。


落ち着くまで、あと一踏ん張り頑張りますか!!


私は心に気合いを入れて、ジルにマルリと一緒に飛び掛かった。


驚いているジルをこちょこちょと擽る。


ジルは脇腹がとても弱いと知った。

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