第51話 ロダン家の視点

 僕がアリスの元から王宮中央棟2階にある執務室へ戻るとロダン伯爵がやって来た。


「陛下、殿下少し話したい事があります」


明後日、彼は新宰相の任命式を控えている。


ここでの執務は既にスタートしているが、正式に宰相として仕事を始めるのは明後日からである。


「ロダン伯爵、それは今じゃ無いとダメなのか?」


父上が恐る恐ると言った表情で問う。


「はい、明後日宰相になる前にお二人の疑問にお答えしておきたいと思いまして」


ロダン伯爵はハキハキと答えた。


「何だ、宰相を辞めたいと言い出すのでは無いかと心配したぞ。それで何の話だ?」


「あの、アリスを呼ばなくていいですか?」


僕は思わず口にした。


「殿下、そうですね。アリスティアを連れて来てもらえますか?」


「分かりました。5分待って下さい」




 僕はアリスの元へ再び転移した。


「もう!ジルのバカー!!」


部屋に着くとアリスが叫んでいた。


「ア、アリス?」


「え?、ええっ?ジル帰って来たの!」


焦るアリスも可愛い。


「ええっと、ちょっと王宮まで来て欲しい」


僕はアリスの返事を待たず、両腕を伸ばして彼女を抱き込み転移する。


王宮の執務室へ彼女を抱き締めたまま姿を現すと、父上とロダン伯爵はソファーセットに座ってお茶を飲んでいた。


「え?お父様に陛下。コレは一体、何の会?」


アリスが僕にコソコソと聞いてくる。


「ロダン伯爵は皆に話したい事があるそうだ。だから君を呼びに言った」


「そ、そうなの?分かったわ」


アリスは2人の前に出てカテーシーをした。


「ご機嫌よう陛下、お父様」


「アリスティア嬢、来たか。こちらへ」


ソファーには父上の横に僕が座り、アリスは向かいのロダン伯爵の横へ座った。


僕がアリスを呼びに行っている間にお茶とお菓子もテーブルの上に人数分用意されていた。


「防音は必要?」


僕はロダン伯爵に尋ねる。


「いえ、既にしております。あ、そうですね、詳しく説明しますとこの王宮で諜報活動は出来ない様に環境を改善いたしました。安心して下さい」


ロダン伯爵は相変わらず想像を超えてくる。


「ロダン伯爵、ありがとう。では話を聞こうか」


父上はロダン伯爵に向かって言った。


「はい、では始めます。まず、皆さんが疑問に思われている私共、ロダン家に付いてお話しいたします」


ロダン伯爵はそう言うとアリスの方を見た。


「ええ、お父様、私も詳しく聞きたいです」


アリスの言葉にロダン伯爵は頷いて、話を始める。


「まず、かなり誤解を生んでいるロダン家が水龍を守るという話について、、、。それは完全に否定します」


『ええっ?』


その他3人の声が揃った。


「水龍はあくまで、この大陸のロナ川の守り神であり、私達一族が守る必要はありません。彼は独自にロナ川を愛し護っています」


「独自にって、うちの地下に神殿まであるじゃない!?」


アリスは早々に僕との口止めの約束を破ってツッコミを入れた。


「地下に神殿?」


父上は驚いて口を手で押さえる。


「陛下、ロダン家の王城の地下には遺跡があり、水龍の神殿に洞窟で繋がっています。

ただ、神殿は神域です。神域は異空間ですので、普通に行っても入れません」


「何と!?異空間とは一体、、、」


父上は想像を超えた話が出て来て、目をパチクリしている。


「ですが、ロダン家の者とバルロイ帝国の王家の紋章を持つ者は普通に通れます。殿下、行って来られたのでしょう?」


ロダン伯爵は僕に話を振る。


「はい、僕とアリスは先日神殿に行って来ました。バルロイ帝国初代皇帝ジョセフがいました。水龍は留守でした」


「ジルフィード!お前、行って来たのか?何故直ぐに言わない!!」


「いえ、不確かな事が多かったので、一度、御父上に確認してからと思い、黙っていました」


「ほう、不確かとは?何だ」


父上は、腕を組む。


「それは、私が説明します。恐らくロダン公国が何故無くなったか?などの話をしたのでしょう。私から真実も含めて、先ず当家の成り立ちからお話します」



 いにしえと呼ばれる時代に大地を創造した女神から、その地を見守る使命を与えられた聖人ステラ・ロダンという人間の女性がいた。


聖人ステラ・ロダンは、女神を信仰し清廉潔白で人望も厚く、女神の目に留まる。


女神は彼女へ使命を全うするために必要な神力を与えた。


女神の使命を受けたロダン家は代を重ねても、この大陸の見守りを続けた。


そして、時代を経て子孫や臣下も増えた頃、聖地ロダンと呼ばれていた場所はロダン公国という国となる。


聖地を持つロダン公国は大陸唯一の中立国家として、各国との絆も深かった。


しかし、80年前に大事件が発生した。


「水龍がロダン公国の記憶を大陸の人々から消し去ったのです」


ロダン伯爵の言葉に息を呑んだ。


「何故、その様な勝手をした?」


父上の言葉に怒気を感じる。


「水龍はバルロイ帝国の王女と恋に落ち、やがて子供が出来ました。水龍はロダン公国をバルロイ帝国に渡す事で、王女との結婚を認めてもらおうとしたのです」


「はぁ?ロダン公国は、彼のものでは無いでしょう?」


アリスの声も怒りが溢れている。


「勿論、水龍の身勝手な判断は、当時のロダン家当主の逆鱗に触れました。そして当主は水龍をロダンから追放し、その神力も奪い封印しました。今も水龍はロダンの地を踏めません」


「何ということだ、、、」


「結局、バルロイ帝国はロダンの地を領地とする事で、王女の件は目を瞑りました。しかしながら、婚姻と子供の存在は認めませんでした。更に王女亡き後はその子供をロダン地に置く様にとの盟約もあり、その子(水龍と王女の子)は我が王城に居ます」


「御父上、水龍の居場所はご存知ですか?」


僕は敢えて質問した。


「ええ、知っています」


「何処にいるのだ?」


父上の質問を受け、ロダン伯爵は僕の方を見る。


「父上、水龍は人の姿をしています。水の離宮のザザが水龍です」


「は?何と?ザザとは誰だ?」


「水の離宮で執事をしています」


父上はザザと面識が無かったのか、首を捻る。


「殿下、水龍の神殿で聞かれたお話と違いますか?」


ロダン伯爵は僕に問う。


だけど、僕が答える前にアリスが答えた。


「お父様、あいつらはロダン家と協力して聖地を守るために公国を消したとか言っていたわ。最悪!本当に最悪だわ!!」


彼女はご立腹の様だ。


「ああ、誰しも自分に都合の悪いことを言う時はそんなものだ。ただジュリアンは私も可哀想だとは思う。我が家でも良く仕事をしてくれているから」


「お父様、ビビアン人材派遣所のことを教えてくれたのはジュリアンよ」


アリスが火に油を注ごうとする。


「な、彼はお前が家出をしたと報告して来たのだが、、、本当か?」


「ええ、私は家出などしていないわ。仕事を探しに行って来ますってお父様への伝言は頼んだけど」


ロダン伯爵の表情が険しくなる。


「アリスティア、いや皆さんも聞いてください。我が家の家訓に水龍は信用するなという言葉があります。今後も水龍に関しては特に気をつけて下さい」


僕は自分が感じていた感覚が正しかったと自信を持てた。


「ジルフィード、結婚を機に王宮に戻って来てはどうだ?」


父上が心配そうに言う。


「ザザを野放しにして大丈夫かなという気も、、、」


僕は言い淀む。


「陛下、それならば私がその水の離宮に住みましょうか?」


ロダン伯爵が提案する。


「宰相が寝泊まりすることに問題はない。だが、寝首を掻かれたらどうする?」


父上はロダン伯爵の身を案じる。


「力を無くした水龍に負けるほど、私は弱くありませんので大丈夫です」


「ジルフィード、アリスティア嬢、どうだ?」


「アリスどうする?ここに引っ越す?」


僕は小声でアリスに聞いた。


「私はマルリ達を連れて来られるのなら、ここでも良いわ」


「それは可能だよ。じゃあ、御父上に水の離宮は任せようか」


「そうね」


「御父上、水の離宮をよろしくお願いします。お掃除係と食事係の使い魔は残して行きます」


「分かりました。では、水龍が勝手なことをしない様に見張ります」


「ロダン伯爵、よろしく頼む」


「はい、それともう一つ宜しいですか?」


「ああ、何だ?」


「アリスティアにロダン家の力を伝承したいと思っています。結婚後に時間を取って行うことをご許可いただけますか?」


「それは勿論許可する。むしろ伝承して貰わないと大陸の皆が困るであろう。アリスティア嬢も要望などがあれば、私やジルフィードに遠慮無く言ってくれ」


「ありがとうございます。陛下」


アリスはニコニコしながら、父上にお礼を言った。


父上もニコニコしている。


「それでは私からは以上です。明後日は皆様どうぞよろしくお願いいたします」


最後はロダン伯爵が締めて、話は終わった。


少し雑談をしてから、明後日の準備もあると言うことでお開きになった。

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