第47話 押してもダメなら

 ロダン王城の地下遺跡の魔法陣前で首を捻る。


「ジルは本当にそう思う?」


「うん、これは魔力が切れている」


「ミー、ニャン」


マルリも答えてくれた。


王都に帰還する第二騎士団を今朝見送って、私とジルとマルリは地下遺跡へ再び探索の為にやって来た。


前回躊躇して触れなかった魔法陣に、今回のジルは迷いなく触れた。


ところが、全く反応なし。


ジル曰く、この魔法陣は現在使われてないとのこと。


「ジル、もしそうだとしたら、この先の封印された場所に入れるハズなのだけど、、、」


私は魔法陣の先にある大きな扉の前まで、ジルとマルリを連れて行った。


「これが開くハズなのだけど、ほら開かないでしょう?」


私は目の前の大きな扉を押して見せた。


扉はビクともしない。


「取っ手や鍵穴が付いてない」


ジルは大きな扉をじーっと見ながら呟いた。


「うん、取手は最初から無かったと思う。鍵は魔法で掛けている筈よ」


「魔法で鍵を掛けていると聞いたのはいつ?」


「7歳くらいだったと思う。ジュリアンに聞いたの。勝手に魔法陣に触った事は怒られるから言わなかったけど、、、」


ジルは顎に手を置いて、少し考えている。


「ナーン、フニャン」


マルリが可愛く鳴く。


お喋りしているみたいに鳴くマルリが可愛い!


私は屈んでマルリを撫でる。


わっ、お腹を見せて伸びたー!


ううーっ、癒される。


「この扉、僕が触ってもいい?」


ジルは私に問いかける。


「ええ、勿論」


私の答えを聞いて、ジルは大きな扉へ両手を伸ばし、手のひらをピタっと扉にくっつけた。


ジルの手のひらから、フワリと紫色の魔力が湧き立つ。


次の瞬間、ジルはゆっくりと手を引いた。


「ウソ!?開いた?」


ゆっくりと軋む音を立てながら、大きな扉は開いて行く。


「アリス、コレは引けば開く扉。でも、重いから子供では無理だと思う」


「ジルが冷静過ぎて憎い」


私は地団駄を踏む。


押してダメなら〜って奴だったとは!!


ジルはそんな私を横目にマルリを抱っこして撫でている。


「ええっと、どうする?この先も探検する?迷子にはなりたくたいけど」


「マルリが居るから、多分迷子にはならない。でもアリスが心配だと思うなら辞めておこうか?」


「うーん、どうしようかな。迷子にならないなら行こうかな」


マルリが居たら迷わないという理由はよく分からないけど、私は好奇心に勝てなかった。


「念のため、手を繋いで行こう」


ジルが私の手を握る。


それだけで安心な気がするから不思議だ。


私達はジルの作り出す光の玉の強い明かりのお陰で、周りの様子をしっかり見ながら進むことが出来た。


白い岩石に包まれた通路は天井も高くて、閉塞感はあまり無かった。


ただ、建造された感じではないので、やはり洞窟なのだと思う。


しばらく歩き続けると、見慣れない文字が壁一面に刻まれているエリアに辿り着いた。


よく見ると真っ白な岩壁に金の粉が混ざった様な黒い文字がびっしりと刻まれている。


とても不気味な印象だ。


立ち止まったジルはまたしても躊躇せず、手でその文字を触った。


「魔力が込められている。これは敵の侵入を防ぐために施しているのだと思う」


「敵の侵入?私達は大丈夫なのかな」


「発動しないから、敵とは思われていないのかも知れない」


あ!私は急に閃いた!!


「ねぇ、ジル、もしかして王家の加護が付いているからじゃないのかな」


「何故?」


「ジョセフさんが言っていたのだけど、今も皆を見守っていられるのは水龍に力を分けて貰ったからと、、、」


「ここでも水龍か」


「それで、その力を使ってジョセフさんが、ジルに王家の加護を与えているのなら、そもそも王家の加護は水龍の力なのでは?」


「確かに充分可能性はあるね」


「うん、私は神(水龍)の守り人の血筋で大丈夫なのかも知れないし」


「やっぱり、何か仕組まれている気がする」


「仕組まれた?って何を」


「んー、まだ言わない。その前にアリスに質問したい」


また、この前の話か、、、。


ジルは何を疑っているのかしら。


「質問は何?」


「アリスはビビアン人材派遣所をどうして知っていたの?」


「ああ、それはジュリアンが『元女戦士のビビアンが人材派遣所を始めたらしいですよ。彼女の人脈ならいい仕事がありそうだから流行るでしょう』と話していたの」


「それを聞いて、働きに行こうと思った?」


「そう。それで、父には出掛けた後に知らせて頂戴と言って、家を出たのよ」


「家を出るのは初めてだったのにどうやってビビアンの所まで行ったの?」


「ジュリアンに聞いて、近くで乗合馬車に乗って、ビビアンさんの所の近くで降りたわ」


「それはジュリアンが全部用意していた可能性は無い?」


「うーん、そう言われると可能性はあるかも知れない」


私は記憶を辿る。


あの日、王城を出て、少し歩くと乗合馬車が通りかかって、首都サランへ向かう方ですか?と話しかけて来た。


既に乗っていた人は老夫人ひとりで、息子さんのところへ行くと話していた。


「ジル?乗合馬車が乗客2人で首都サランまで行くかしら」


「行かないよ。大損になる」


「そうよね?しかも私は歩いていたら、首都サランへ行く方ですかと声を掛けられたのよ」


「それに乗ったの?」


「うん」


「アリス、危な過ぎる。簡単に誘拐されるよ」


ジルは険しい表情になった。


「今、思えば確かにそうだよね」


そこまで話すと、私も違和感に気づいた。


「まず、ビビアン人材派遣所に求人を出したのは、ザザだ。しかも僕に無断で」


ジルは私の瞳を真っ直ぐに見つめながら話す。


「だから、初めてアリスが僕の部屋に来た時は意味が分からなかった」


「そうなの?それで無言だった?」


「うん、色々考えた」


なるほど、半端ない塩対応は不審に思われていたのね。


「それから、ビビアンは問い合わせの時にアリスの容姿を絶対ザザに言ったと思う」


「言ったとしたら、どうなるの?」


「僕はアリスと同じ真っ赤な眼の人はロダン伯爵しか知らない」


私の瞳は赤い。


でも、この瞳が珍しいとは思ってなかった。


赤みがかった瞳の人は王都サランでも見かけた事がある。


「真っ赤な瞳は確かに私と父だけかも知れない。だけど赤みがかった瞳の人はいるよね?」


「アリスの所作と瞳が真っ赤と言うだけで充分特定は出来ると思う」


「ビビアンさん、もしや私がロダン伯爵令嬢と気付いていた可能性も?」


でも、前に水の離宮でジルの髪を切っていた時、ビビアンさんは私が伯爵令嬢だと知って凄く驚いていた気がする。


「いや、ビビアンは気付いていない。知っていたのは、ザザだけだと思う」


「執事さんが?」


「そう。僕はジュリアンとザザが繋がっていると思っている」


「え?それは疑い過ぎよ。面識も無さそうじゃない」


「その辺は今後確認する」


うーむ、仮にジュリアンとザザが通じていたとしたら、私は意図的に送り出されて、ジルの元に着くように操作されていたって事だよね。 


それは流石に無いのでは?


あれこれ話していると、通路の先に明るい何かが見えて来た。


「アリス、この先に何かありそうだ」


「あ、本当だ。明るい」


私が油断したところで、腕に抱っこしていたマルリがピョンと飛び降りた。


そのまま、前に駆け出して行く。


「ま、マルリ!!ちょっと待ってー!」


私はマルリを追って駆け出す。


その後からジルも追いかけて来る。


私達は勢いよく明るく広い空間へとそのまま走り込んでしまった。


「うわっ!」


目が慣れず、まばゆい!!


後ろから来ていたジルに手を掴まれて私は止まる。


そのまま慎重に様子をうかがっていると周囲が段々と見えて来た。


「うっわー!!何なの此処は」


私は驚きで腰を抜かした。

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