第45話 幻の国
「アリスさまー!最高っス!」
「女神、いや聖女様とお呼びします!!」
「肉柔けーぇ!!」
第二騎士団の団員たちは、様々な感想を叫びながら、羊のお肉を頬張る。
私達は星空の流星群を眺めながら、徹夜で岩山を超えた。
ロダン領の王城に辿り着いた時は、既に朝日が昇っていた。
初めて王城を見た第二騎士団は、明らかに普通の貴族の家では無い様子に動揺を見せていた。
ただ、普段から密偵もこなす彼等は安易に触れてはならないと察したのか、特に質問を投げて来たりはしなかった。
到着後は、ジュリアンに彼等の軽食と入浴、休憩を優先するように指示し、各々の部屋も用意した。
エドワードは私が騎士達に客室を用意したら、そこまではと恐縮していたけど、これは感謝の気持ちだからと押し切った。
そして今、時刻は13時、王城の庭で約束のジンギスカンパーティーをスタートしたところだ。
騎士団のメンバーは、お肉を食べ倒す組とエールを飲み倒している組に分かれている。
「みんな本当に3日間お疲れ様でした!!」
私は彼らを労った。
皆、気を張っていたこの3日間から解放されて、とても楽しそうに騒いでいる。
私達ジュリアンは、飲み物と食材の補充をしながら、その様子を眺めていた。
「こんなに嬉しそうにして貰えると用意した甲斐があるわ」
「お嬢様、お肉はご要望通り山程用意しています!!エールも!!」
ジュリアンも久しぶりの忙しさに張り切っている。
「ここにこんなに人が集まるのは久しぶりね」
「そうでございますね。活気があって嬉しいです」
ジュリアンはエールの空き瓶を抱えて、私に返事をすると直ぐに次の仕事へと去っていった。
「アリスティア嬢、ここは城だよな」
あー、とうとう皆の忖度を破る発言がキター!!
「エドワード、それは聞いて良いかどうかを先に根回ししたらどうなのだ?」
ジルが釘を刺す。
「だってここのみんなも、もう見ちゃったのだから、黙っておけって言っても無理だろう。誰が見ても伯爵家のレベルじゃないくらい分かる」
「ジル、私が話しますね」
「アリス、言える事だけでいい」
「ええ、勿論。エドワード、ロダン領は元々ロダン公国という国だったの」
「ロダン公国?」
エドワードは何それ?と言う顔をする。
「そう。でも何故忘れ去られているのか詳しい事は知らないの」
「分かりました。アリスティア嬢が知らないならこれ以上聞いても仕方ないですね」
「ええ、ごめんなさい」
「いえ、気にしないで下さい。それより、今回、俺はロダン伯爵の桁外れっぷりに驚きました。存在感が半端ないですね。次期宰相があの方なら、不正なんて絶対出来ないと思いましたよ」
「父上もそれが狙いだったのだろう」
ジルは即答した。
「待って、待って!ぼくはロダン公国の話を聞いた事があります」
アンジェロが手を上げて来る。
『は?』
私とジルとエドワードの声が重なった。
「その話はちょっと待って、ここで一旦仕切り直そう」
と、エドワードはアンジェロを止めた。
「はい」
アンジェロは了承する。
「騎士団の皆、ちょっと良いか!!」
エドワードの声に団員たちが一斉に手を止めた。
「皆に伝えたいことがある。君たちの仲間アンジェロの事だ。彼はここに残る」
「えー!何で!私も残りたい!!」
ルカが遠くで叫ぶ。
あれ?案外仲良しだったの?
「お前、アンジェロは遊びで残る訳じゃない。ほら、アンジェロ、ちゃんと自分で挨拶しろ」
エドワードはアンジェロを立たせた。
「私は皆さんにお知らせしたい事があります」
「何、なに、なにー?」
イースが合いの手を入れる。
アンジェロは眼鏡と黒髪に両手を伸ばして、勢いよく取った!!
「・・・・・・はぁ!?」
しーんとしている中、誰かが声を上げた。
金髪に薄いブルーの瞳の姿に皆の視線が釘付けになっている。
「ぼくはメルロー、元第ニ皇子です。これからは、ここでロダン伯爵家の一員として生きていきます」
「お、お前、皇子さまだったのかー!」
「トンデモナイ隠し玉がキター!」
「俺たち友達だよな」
それぞれが驚いていたり、叫んだり、泣いている者までいた。
あ、ルカは?
号泣している?え!号泣!!
「メルロー!ルカが泣いている」
私は慌ててメルローに教えた。
メルローは一気に不安そうな表情になる。
「ルカ、大丈夫か?」
エドワードが声を掛けた。
「は、ゔぁい、だいじょーぶです。あのわたじ、不敬罪になりまずかね」
あれ?泣いている理由が思っていたのと違った。
お別れを惜しむとかではなくて、不敬罪?
「おう!お前は捕まるんじゃねぇ?」
誰かがヤジを飛ばした。
「ルカは友達だから、不敬罪になるはずないだろ」
メルローは大きな声で言った。
「ルカ良かったな!捕まらなくて!!」
またヤジが飛ぶ。
「お前ら、余計なヤジを飛ばすな!」
エドワードが注意する。
「騎士団のみんな今まで本当にありがとうございました!!」
メルローは最後にお礼を言って締めた。
「さあ、お知らせは終わりだ!みんな騒いで良いぞ!」
エドワードの合図でまた団員たちはワイワイガヤガヤと宴を始めた。
「さて、メルの知っている話を聞こうか?」
エドワードはロダン公国の話の件をメルローへ促す。
ジルは黙って聞いている。
「ええっと、ぼくはお爺さまからロダン公国の話を聞いたんだ」
「ブルボーノ公爵か?」
「うん、そう。ロダン公国は大陸の中心に古くからあって、水龍の神様を信仰している国と言っていた」
むむむ!水龍が出て来た!
「水龍か、ロナ川があるからか?それで」
エドワードは上手に話を進める。
「だけど、ロダン公国があると言われる場所に行っても何も見つからないし、誰も居ないから、幻の国と言われているのだって」
「何も無い?なのに国があると言われているっていうのは不思議だな」
あー、この王城も実は見えない様になるのですとは言えない。
「結局、誰も居ない幻の国の場所には大陸でも重要なロナ川の水源があるから、バルロイ帝国はそこを領地にした。それで、お爺さまは幻の国には何かお宝が眠っているかもしれないから、いつかロダン領に探しに行ってみたいと言う話だった」
「お宝目当てなのが、ブルボーノ公爵らしいな」
エドワードは苦笑する。
「でもさ、ここは見えているし、領民もいるから、幻のロダン公国とは違うよね。あまり役に立たない話かも」
「まあ、見えない国のことを言われてもなぁ」
「そうだね。お爺さまの話だしね」
エドワードとメルローは2人で笑っている。
メルローの話、何だか、的を得ているようで得ていない、ふんわりとした話だけど、ブルボーノ公爵がここを狙っていたと言うのは本当だったのね。
私は隣のジルに習って、彼等の話に一切口を挟まなかった。
真実は父から聞かないと分からない。
さて、幻のロダン公国って何なのだろう。
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