第42話 花火
最強の助っ人コンビのお仕事は素晴らしかった。
私達がお宿へと進む道では、ずっと花火が上がっている。
まぁ、種明かしをすると、父が爆発物を防御魔法で丸く包んで、地中から空高く上げ、それを陛下がバンッと派手に爆破している。
父が宣言していた通り、道に凸凹も出来ていない。
2人はノリノリで爆破処理をしていて、その様子を団員達も楽しそうに見上げていた。
「ジル、陛下にも驚いたけど、うちの父もあんな人だったのね」
「僕は父上がそんな人と知っていたけど、御父上も一緒に楽しそう」
「それで、アンジェロはまた静かだよね。何か感想は無いの?」
「ぼくはアリスティア嬢の回復力に驚いています。さっき毒を飲んだ方とは思えません」
「そうね、それは私も思っているわ。みんなのお陰よ」
私達はまた3人で馬車に乗っている。
幾分か会話も少しずつ増えて来たような気がする。
草原を出発して、1刻ほど。
そろそろお宿へ到着する頃だろう。
「ジード様、お宿はどういう対応をして来るのでしょう」
「父上達は堂々と来ましたって言いそうだよね」
「確かに。それから、私はもしもの時の控えで良いのでしょうか?」
「うん、アリスは魔法使えないと思われているから、こっそりと皆の防御をすれば良いと思う」
「え、何故秘密にする必要があるのです?あんなに強いのに」
アンジェロは、少し納得がいかないと言った顔をして、会話に割り込んで来た。
「アンジェロ、強い者こそ隠しておくんだ。敵を怯ませる為に」
ジルは悪い顔で語る。
「兄上、、、分かりました。僕もアリスティア嬢の事は黙っておきます」
「ああ、よろしく頼む」
そんなに大層なものでも無いのですけどね。
ジルは私を騎士団に使われたく無いだけなのに。
それこそ、口には出せない話よね。
馬車が止まり、いよいよ決戦の場に到着した。
「本日は良くいらっしゃいました。何も無い田舎ですが、ごゆっくりお過ごしください」
カナデ領レミーラの街にあるお宿『オテル・カノン』の女将ミュラーは穏やかな笑顔で、私達を迎えた。
「女将、お世話になる。彼女は婚約者のロダン伯爵令嬢だ。それから、今日は私の父と彼女の御父上も同行している」
ジルが女将に話を始めると同時に、陛下と父上が第二騎士団の後ろから現れる。
女将は驚いて固まった。
「女将、急に訪ねて驚かせてしまったな。私達も今夜はお世話になるよ」
陛下が先に挨拶をした。
「へ、陛下、及びにロダン伯爵さま。ようこそおいでいただきましてありがとうございます」
女将は動揺しながらも、噛まずに挨拶をする。
「女将、まだ内密なのだが、彼はこの国の新しい宰相になる。明日には公表される予定だ。よろしく頼む」
「え、あ、新しい宰相様でございますか。どうぞ宜しくお願いいたします」
女将の動揺もピークを迎える。
それはそうだろう。
先に来て怪しい動きをしている宰相が、明日には失職するのだから、普通なら察するところだよね。
「ジード様、陛下は攻めていきますね」
私は横で澄ましている美しい婚約者に囁く。
「うん、楽しんでいる様に見える」
「女将はどちら側なのでしょうね?」
「あちら側かな。『オテル・レーザン』も真っ黒だったし」
「そもそも、お宿は誰が手配したのですか?」
「あー、誰だろう」
そう答えるジルは、明後日の方向に視線を移す。
あ、分かった、この感じ。
犯人はジルだ。
「私、犯人が分かってしまいました」
「うん、当たっていると思う」
「そこの2人、イチャ付かない」
「うわっ」
ビックリしたわ!!声が出ちゃったじゃない!!
いつの間にか背後にエドワードが立っていた。
「さあ、これからお部屋にご案内だとさ。一様、ロダン伯爵は館内の爆発物の場所を把握したそうだ。そのまま入って大丈夫と言っている」
「分かった。僕たちはこのまま案内された部屋に入る」
「殿下、アリスティア嬢、くれぐれもお気をつけて」
私達に小声で告げるとエドワードは団員達の方へ戻って行った。
本日のお宿は私達と陛下達で最上階の3階を丸ごと貸し切って使うことになった。
騎士団の皆さんは2階に半数と、この街の郊外に半数が野営の予定だったのだけど、今回は敵がここにいると分かっているので、野営はせず周辺で待機する。
「さて、いつ仕掛けて来るかな?ジル」
「うん、もう早くて良いのに」
「そうよね。待つのもね」
私達は、また狭いニ階の部屋に入れられた。
本日はポール団長とゴリゴリマッチョ精鋭部隊プラス陛下達が、三階で敵を待ち受ける。
エドワードはニ階の何処かで待機している。
「私達を避難させて、陛下達が上に居るのは、最初の作戦と違う気がしません?」
「ああ、僕は呼ばれたら、すぐ転移出来るから」
「呼ぶってどうやって?」
「マルリが来る」
あー、そうだった!!また、マルリは三階に連れて行かれたのだった。
「もう、みんな猫が大好き過ぎじゃない?」
返してー!私のマルリを!!
「アリス、猫が好きで連れて行っているのでは無いと思うけど」
「ん、ジル何か言った?」
「いや、何でもない」
「ふーん、怪しいわね」
「それより、アリス。狭い部屋に愛しい婚約者と二人で居ると、、、」
あー、いつものヤツだ!!
「ジル、それはシリーズ化するの?」
「シリーズ化?」
「まぁ良いけど」
私は隣に座っているジルの頬にキスをした。
すると、ジルも私の頬にキスを返して来た。
二人でお互いの顔を見て笑顔になる。
うん、良い時間だ。
「これ、ブルボーノ公爵に襲われ待ちなのよね?」
「うん、忘れそうになるね」
「コンコン」
ドアを誰ががノックした。
二人で顔を見合わせる。
エドワードの叩き方では無かったからだ。
ジルは迷わず、私を抱き寄せて三階へ転移した。
転移すると目の前に陛下が居た。
ポール団長とムキムキマッチョな精鋭部隊の皆さんは床に座って、マルリと遊んでいる。
やっぱり、みんな猫が大好きなのよ!!
「どうしたジルフィード!!いきなり現れて」
「不審な誰かがドアをノックしたので、念のため転移して来ました」
「ああ、それは怪しい。私達を探しているのかも知れないな」
「ところで、爆弾の撤去はどうなりましたか?」
「爆弾の撤去はロダン伯爵が今している。小一時間で終わると言っていたから、そろそろ終了するだろう」
「そうですか。避難は?」
「騎士団に確認させたのだが宿泊客が不自然に多い。それ故、手先の可能性が高いと判断して、避難はさせていない。爆弾を無効にすれば問題無いと判断した」
「宿泊客が全員手先の方が、確かにやり易いです」
「ああ、私もそう思うよ」
何だか親子で悪い顔になっているけど大丈夫かしら?
私は黙って横で二人のやり取りを聞いていた。
ふと、ある考えが過ぎる。
相手方には魔法使いは居ないのだろうか?
「あの、素朴な疑問なのですけど、、、」
ドカーン!!バン、ガッシャーン!!
私が話している途中で激しい爆音と振動が響く。
「あの、魔法使いが居るのでは!」
私は慌てて口にする。
陛下とジルが私の顔を見る。
「確かに居そうだ!」
「ええ、爆弾に気を取られていたかも知れません。まずは被害の状況を確認しま、、、」
ドーン、ドカーン!!
ジルが話している途中で2度目の爆音と振動が響く。
「ああ、もう!確認より、やっつけましょう!!」
私が声を上げる。
「そうしよう」
「そうだな」
「では、私もサポートします!!お二人はどうぞ暴れて下さい」
『了解』
私達3人は窓から、外へと飛び出した。
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