第41話 作戦会議
父上とロダン伯爵はアリスの無事を確認して、第二騎士団の方へと戻って行った。
先ほど挨拶は完璧にしたものの、まだ状況が良く分かっていないアリスと僕は車内に残された。
「アリス、調子はどう?」
「ジル、心配をかけてしまってごめんなさい。毒見は素人がしてはダメだわ」
とても真面目な顔でいうから、僕は笑ってしまった。
「君が死んでしまうかもしれないと思って心配した。もう毒見とか本当にしないで」
僕はアリスに手を伸ばした。
彼女は僕の手を握って頬を寄せる。
「うん、もうしない!あー、死ななくて良かった。ジルと会えなくなるかと思ったら、泣きそうだった」
「ん?泣きそうだった?」
「うん、眠っている間に神殿のようなところで、ジルに加護を与えた人と会ったの」
「え、それって夢?現実?」
アリスが言うには、何処かの神殿で初代皇帝ジョセフ・ラト・バルロイと会ったらしい。
彼と話をしていたら、急に呼び戻されて話が途中で終わってしまったとの事だった。
「そっか、父が急に治したから戻って来ちゃったのね」
そこでロダン伯爵が悪く言われるのは少し可哀相な気がした。
「アリス、ロダン伯爵も魔法の達人だったんだね」
僕は少しロダン伯爵を持ち上げた。
「ええ、父は私に魔法を教えてくれた師匠だから。でも忙しくなって、きちんと習得したのは防御魔法だけよ。私、攻撃魔法は下手なの」
「攻撃は僕が出来るから、無理にしなくても大丈夫。この後、14時から作戦会議をする。アリスも参加出来そう?」
「ちょっと待って、私を待つために留まっていたの?」
「ああ、いや、少し違う。実はこの先の道に爆弾が仕掛けられていることと、今夜泊まるお宿にわざわざブルボーノ公爵が来て大きな爆弾の設置をしていると連絡が来たんだ」
「それじゃあ、お宿に行ってブルボーノ公爵を捕まえないと!!」
「そう思って、父上たちを呼んだ。アリスを治してくれたのは予想外の出来事だったんだ」
「確かに聖魔法が使えるとは私も知らなかった。案外、父は凄いのかもしれない」
「アリス、僕の父上とアリスがハグをしているのを御父上は羨ましそうに見ていたよ。後で感謝のハグをしたら?」
「えー、どうしようかな。私たちの関係は微妙だからね。それより私はジルとギューッとしたい」
アリスは両手を広げてアピールしてくる。
勿論、ご希望にお応えして僕はアリスを抱きしめた。
温かい体温を感じて心から安堵した。
本当に失わなくて良かった。
そう噛みしめていると、遠くから声がした。
「おーい、十四時になっているぞー!」
エドワードの声だった。
慌てて馬車から降りると、少し離れたところに団員たちが並んで座っているのが見えた。
陛下と父とエドワードは立っていて、こちらを見ている。
私達は慌てて作戦会議の輪へと走った。
司会は副団長エドワードだ。
「アリスティア様、もう体調は大丈夫なのですか?」
いつもの軽口ではなく、真面目に聞いてくるので、驚く。
「ええ、お陰様で回復しました。皆さん、ご心配をおかけしました」
私は団員の皆さんに感謝の心を込めてカテーシーをした。
私が顔を上げるとエドワードは皆の方へと向き直り、話を始める。
「では揃いましたので、作戦会議を始めます。まず状況を説明します。この先の道には爆弾が複数仕掛けられています。場所については大体把握出来ています」
エドワードは2人の部下を前に呼んで、丸印が沢山付いた地図を広げて持たせた。
「ほう、結構な数だな」
陛下はエドワードに問いかける。
「はい、30カ所ほど確認出来ています」
「誰が確認をしましたか?」
横から、ロダン伯爵が問う。
「はい、偵察の出来るはやぶさに確認をさせました」
「はやぶさ?」
驚いた私は声を出してしまった。
「アリス、あのはやぶさは使い魔だから、意思疎通が可能だよ」
ジルはエドワードの足元にいるはやぶさを指さして教えてくれた。
「そして、ここからが本題なのですが、私は団員を道の爆弾の撤去班と本日の宿の爆弾に対応する班の2つに分けた方が良いと思いますが、皆さんいかがでしょうか?」
エドワードは合理的に二手に分けませんかと提案してくる。
「何度も確認してすみませんが、爆弾が設置されている場所は確実で、それ以外はないと考えていいですか?」
また、念押しのような質問をロダン伯爵はした。
こういう父の姿を見るのは初めてなので新鮮だ。
「はい、爆弾の設置は今朝からの急な作業だったとの事で、他の場所に埋めている可能性は低いと思われます」
エドワードは自信を持って答えた。
「分かりました」
その返事を聞いたロダン伯爵は陛下に何か小声で相談している。
ロダン伯爵は陛下としばらくやり取りをした後、「第二騎士団のみなさん、この先の爆弾処理に関しては私と陛下が解決しますので、これから宿に向けて出発しましょう」と宣言した。
ロダン伯爵の発言に団員たちは騒々しくなる。
「あのロダン伯爵、もう少し分かり易く説明していただけないと団員は爆弾を踏んで死ぬ可能性も考えてこのように騒いでしまうのですが」
エドワードも困惑している様子を見せる。
皆の様子を見渡したロダン伯爵はエドワードの横を歩いて通り過ぎ、団員たちの正面に立った。
「まず、爆弾の位置が把握出来ているのなら、爆弾を防御魔法で包み、その中で爆発させて回収すれば、何の被害も出ません。当然、道も壊れませんので、普通に馬や馬車で走行出来ます。また、この地図ではここから到着地のお宿まで20キロほどです。私の魔力でしたら、ここからでも範囲内です」
ロダン伯爵が話し終えると辺りは静かになった。
各々が今聞いた話を想像しているようだ。
「アリス、これはアリスにとっては普通の話?」
横から小声でジルが聞いてくる。
「そうですね。私は爆弾を埋めるなんて古典的な方法を使うことに驚いています。私でも父と同じことは出来ます。ただし範囲20キロは無理ですけどね」
私の言葉にジルがクスクスと笑う。
「何かおかしい?」
思わず敬語モードを忘れてしまった私。
「いや、スゴイし、カッコ良過ぎて、笑いが出る」
ジルが壊れた?
「そういうジルだって、スゴイ攻撃魔法をするじゃない」
「んー、まあそう言えばそうなのだけど」
まだ笑っている。
「そこ!イチャつかない。気になって話が進まない」
エドワードから注意が入った。
皆がこちらを向いてる!?
あー、恥ずかしい。
そうしていると、陛下が皆の正面に歩み出た。
「皆の者、この戦いを私は大勝利で締め括りたい。ゆえに最強の助っ人を用意した」
陛下はロダン伯爵の肩に手を乗せる。
「彼は驚くようなことも簡単に遣って退けるが一々怯むではないぞ。皆で力を合わせて頑張るのだ」
陛下は団員たちを叱咤激励した。
「では二手に分かれるのではなく正面突破と言う事でよろしいですね」
エドワードは、まとめに入る。
「ああ、それでよい。宿までは私たちがしっかり働くことにする」
陛下はロダン伯爵と肩を組みガッツポーズをして見せた。
団員たちに笑いが起きる。
「陛下、ここまでは承知しました。そして宿に到着後はどうしますか?」
エドワードは話を進める。
「宿に到着後は主に私とジルフィードがブルボーノ公爵の相手をする。団員の皆はサポートを頼む。爆発物処理はロダン伯爵に指示をもらえ、また宿泊者などが居れば避難させるのが第一だ」
「はい。現場に到着後の指揮は私がロダン伯爵と連携して行います。陛下は心置きなく公爵を取り押さえてください」
エドワードは陛下に含みのある発言をした。
「では、心置きなくフランチェスカの仇を打たせてもらおうか」
陛下はあっけらかんと笑って答えた。
逆にエドワードが動揺していて面白い。
「やっつけてやるー!」
「陛下サイコー!!」
団員たちも声を上げて盛り上がっている。
私が毒に倒れている間にジルが陛下たちを召喚してくれて良かった。
このまま無事に終わりますように!!と雲一つない青い空に願う。
「お父様、爆弾を包む防御魔法は馬で走りながらするのですか?それともここから?」
私は父にお礼を言った方がいいとジルに言われたので、作戦会議の後、勇気を出して話しかけた。
「アリスティア、今回は場所が分かっているから、馬で走りながらで充分だよ。その後、体調は問題ないかい?」
「はい、もう大丈夫です。そう言えばお父様が聖魔法を使えるとは知りませんでした」
「ああ、アリスティアにわたしは大して教えないまま外に出ていたからね。しかも、結婚しないだろうと思っていたから、後でもいいかなと軽く考えていたよ」
「まぁ!なんて自分勝手な」
「そうだね」
私達は久しぶりに笑いあった。
「お父様、沢山聞きたいことがあります。ロダンのこととか」
「そうだね。こうなった以上は殿下たちにも話さないといけないだろうね」
「はい、時間を作ってくださいね」
「分かった。この件が片付いたら今後のことも合わせて話し合おう」
私は父と話しながら、いつお礼を言おうかとモジモジしてしまう。
「あの、お父様?久しぶりに可愛い娘に会ったらどうしたいですか?」
ジルの口調を真似してみた。
父は顎に手をやり、しばらく考えてから、こう言った。
「そうだな。可愛い娘はハグしたくなるかな」
正解!!ジルありがとう。
私は父に抱きついた。
父は驚いた様子だったけど、優しく腕を回してくれた。
「お父様、助けてくれてありがとう」
父の胸でようやく素直にお礼が言えた。
しばらくしても一向に父が何も言わないと思っていたら、周りから声が聞こえて来た。
「新宰相!頑張れ!」
「嫁に出すのはつらいよな」
「ロダン伯爵、最高!」
どうも様子がおかしい。
私は父の胸から顔を上げた。
「ええ!お父様―!」
父は大量の涙を声もなく流していた。
私の叫びにも父は何も反応しないので、そっと離れた。
すると静かにハンカチを出して、涙を押さえている。
そんな父の横に陛下が来て、「辛かったな、分かる。よく頑張った」と肩を叩き激励している。
良く分からないけど、二人に友情のようなものでも芽生えたのかしら。
2人の様子を眺めているとジルが横に来た。
「アリス。良く出来ました」
私の耳元でジルは囁いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます