第39話 ジョセフ
真っ暗になったと思ったら、目の前に神殿のような建物が現れた。
あれ?毒を食べてしまったような気がしたけど、私死んだ?
えっ、死んだの?
そんな、簡単に死んじゃう?
あり得ないわ、でもジルを守れたから。
いや、もう会えないじゃん。
そんなの絶対に嫌だ。
あー、泣きたい。
辺りを見渡しても、神殿以外はふんわりと白い霞が掛かっていて、木立もない。
何の手がかりになる物もなく、『ここは何処?』、『死んだ?』の自問自答を不毛に繰り返していると、背後に気配を感じた。
気付くべきか、やり過ごすべきか?
「そなた、気付いているのであろう?」
少し低めの声はやさしくもない口調で話し掛けてくる。
んー、誰か分からない人だけど、ここが何処なのかくらいは聞いてみる?
私はゆっくりと振り返った。
そこには女性的な男性?男性的な女性?所謂中性的な誰かが立っていた。
神話に出て来そうな布一枚をふわりと身に纏って、サラサラの長い金髪は膝裏に届きそうだ。
顔は薄いブルーの瞳にスッとした鼻筋、あれ?ジルに似ている気がする。
「そなたは遠慮と言う物がないのか。じろじろと見るではない」
軽く注意されてしまった。
「すみません。あなたが私の知っている人に似ている気がしたので」
「ほう、勘が良いのか悪いのか分からぬ娘じゃな。私の愛し子はそなたの何処を気に入ったのであろうか?」
全く分からないことを言い続けられても困るので、相手の名前を聞くため、私は先に名乗ることにした。
「私はアリスティア・ロダンと申します。失礼ですが貴方はどちら様でしょうか?」
目の前の誰か分からない人が急に澄ました顔をする。
「私はバルロイ帝国初代皇帝ジョセフ・ラト・バルロイだ。ジルフィードに王家の加護を与えた者と言えば分かるであろう」
「ジルに加護を、、、。ああ!分かります。生まれた時から付いていたあの紋章ですよね。貴方が王家の精霊と言われている方なのですね」
「そなた、結構知っているのだな。そう、私は死してもこの国を守り続けている。この大陸の水龍の力を借りて、それはそなたの方が良く知っているであろう」
えっ?何を言い出すの?全然分からないわ。
「前に皇帝陛下がロダンに水龍を封印しているとは言われていましたけど、私はそれ以上何も知らないです」
「ならば、私は余計なことを伝えるのは辞めるとしようかの」
えっ、途中で辞められたら気になるのだけど、、、。
「あのう、一つお聞きしても?」
「何を聞きたいと申す?」
「私は死んだのですか?そしてここは天国か何か?」
初代皇帝は急に呆れた表情になった。
「そなた、天国に来たなぞ、よく自ら口にするものよ。心配いらぬ。そなたは死んではおらぬ。今は回復するためにジルフィードがそなたを強制的に眠らせておるだけじゃ」
「えええ、眠っている間に大変な事件が起こったりしたら、どうするんですか!ええっと早く目覚める方法とかありませんか?」
「そなたはまだ回復しきっておらぬ。今は回復に努めよ」
そう言うと初代皇帝は突然私の目の前から去って行こうとする。
「ジョセフさん、待って!それでは困ります!!」
私は慌てて呼び止めた。
呼び方も何と呼んでいいか分からず、咄嗟に出て来たのがジョセフさんだった。
「ほう、そなたは我を水龍と同じ呼び方で呼ぶのか」
良かった!立ち止まってくれた。
こんな良く分からないところに置いて行かれても困る。
「ジョセフさん、私最短で回復して、元のところに戻りたいのでどうしたらいいのか教えてください」
私はジョセフさんに近づき、衣の端を引っ張って懇願した。
「そなた、今までにないタイプじゃな。ジルフィードもそこが気に入ったのか?」
ジョセフさんは何やら呟いているけど、小声過ぎて私には聞き取れない。
「ええ?何と言われました?」
私はジョセフさんに慣れて来て遠慮が無くなってくる。
「そんなに早く帰りたいのか?」
「ええ、一刻も早く。私が毒に倒れている間にブルボーノ公爵が攻撃してきたら、ジルが一人で戦いそうだから」
「第二騎士団も一緒だったではないか」
ん?ジョセフさん見ていた!?
「ジョセフさん、見ていたのなら何故助けてくれないのですか?誰もケガをさせたくないとか思わないのですか?」
私は、やや強めにジョセフさんへ詰め寄る。
「そなた、我は死んでおるのじゃ。この姿は意識だけで出来ておる。見守る以上のことは出来ん」
「そんなぁー!見守るだけなら成仏されて楽しい天国ライフでも送られた方が良くないですか?」
役に立たないなら消えろ!くらいの勢いで言い返したら、ジョセフさんはシュンとなってしまった。
ああ、バルロイ帝国の歴代王族の皆さま申し訳ございません。
初代皇帝を落ち込ませてしまいました。
「すみません。言い過ぎました」
あまりに沈んでいらっしゃるので、すぐに謝った。
「確かに見守るだけなら、居ても意味がないのかもしれぬ」
あー、ヤバい完全に凹んでいる。
「いえ、私が無知で暴言を吐いただけですのでお気になさらず。そう言えば水龍の力を借りたと言われていましたけど、その水龍は今もご健在なのでしょうか?」
「ああ、水龍は神だからな。永遠の命をお持ちである」
「で、水龍は今もロダンに?」
「いや、水龍は今ロダンには居らぬ。80年前に出掛けてそのまま首都辺りに住み着いておる」
「ええっ!首都に!?」
ロダン領じゃなくて?
ちょっと、詳しく聞きたい。
「あー、そなたは回復したらすぐに戻りたいと言っておったな。そろそろ、目覚めの時を迎えそうじゃ。良かったの」
「えっ、ジョセフさん!やっと話が乗って来たのにー。」
「ああ、楽しかったぞ。息災でな」
「えっまだ、、、」
急に引っ張られるような感覚に襲われて、また私の世界は暗転した。
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