第37話 防御レベル上げます

 なーんとなく、不穏な感じがする。


私は馬車に乗るなり、こっそりと馬車に防御魔法を掛けた。



 さて、本日はジルと私、アンジェロの3名が馬車に乗っております。


お天気が良いと言う謎の理由で、ルカはポール団長と御者席に。


昨日の空気感がキツかったのかなと心配。


でもね、私もアレが精一杯だったので許して欲しい。


「今日はお天気がいいので、景色が見れますね」


二人っきりではないので、敬語で話す。


「、、、」


え、え?ルカが居ないと更に苦しい感じ?


「あのー、お二人はこの辺に来た事は?」


「うん、視察で来た事はある」


ジルがやっと口を開いた。


私はアンジェロへと視線を向ける。


サッと目を逸らさせた。


はぁ?


「いや、アンジェロ?何で目を逸らすのよ。私が何かしましたか?」


冷静に話したつもりだったけど、結構強い口調だったようで、アンジェロは下を向く。


「、、、すみません」


「ええっと、何故そんなに怯えているの?」


「ブフッ」


私の隣の方が吹き出す。


「ジード様、何か?」


「アリス、アンジェロに構わなくていい」


「そう言われても、一緒に乗っているのですから雑談くらいしても」


「余裕が無いんだろ」


ジルが言い捨てると、アンジェロがジルの方をキッと睨んだ気がした。


ジルはそれを鼻で笑う。


「それで、ジード様、第二皇子殿下のお話を聞いても?」


私は先ほど、ジルにはぐらかされた話を持ち出した。


「ああ、アリスの家に養子に出す事にした」


「ゴホ、ゴホッ」


タイミング悪くアンジェロが咳き込む。


「ええっとアンジェロ、大丈夫?」


アンジェロは口を右手塞いで、左手を挙げて大丈夫というしぐさをした。


まあ、放って置いても大丈夫そうだから、話の続きをしよう。


「ジード様、それで我が家に養子縁組とは言いましても、私は第二皇子殿下を存じませんし、父は何とお返事をしたのでしょうか?」


「ロダン伯爵からは了解を貰った。同時にバルロイ帝国が全力でロダン領を守るという約束もした」


「そうですか。父は了承したのですね。分かりました。では、それを踏まえて幾つか質問をしてもいいですか?」


ジルは頷いた。


「あの、少し気になるのが、ブルボーノ公爵と第二皇子殿下の関係なのですけど」


「ああ、それは心配要らない。メルローと僕は同じ方向を見ている。あいつもブルボーノ公爵の傲慢を諌める時が来たと分かっている」


「それを聞いて安心しました。ロダン家にメルロー皇子殿下をお迎えして、我が家はこれからどうすれば良いのかを考えないといけませんから」


私とジルが話し込んでいる側で絶対に聞き耳を立てているアンジェロが目に入ってウザい。


「アリス、その辺はちゃんと考えているから心配しなくていい。ブルボーノ公爵は更迭する。そして、次期宰相にはロダン伯爵を任命する。これはもう決定した」


は?


私は驚き過ぎて、口を開けたまま固まった。


「元クズ父が宰相?」


「アリス、口から本音が出てる」


ジルが横でゲラゲラと笑う。


はっ!


私は我に返った。


「いやいやいや、ジード様。私の父が宰相って王家の皆様は本気ですか?」


「本気だよ。清廉潔白なロダン伯爵以外にこの国を真っ直ぐ建て直せる貴族は居ない」


ジルはとっても真面目に返して来た。


「それは、ありがとうございます。あのリストが高く評価していただけたのですね」


「いや、他に知識や人脈もなかなかだと父上は言っていた」


「へぇー、そうなのですね」


半ば投げ槍に返事をする。


「それから、もう一つ気になる事があります。第二皇子殿下は王宮にいらっしゃるのでしょう?我が家の養子になられたら、どうされるのでしょうか。ロダン領の王城に住まわれるのですか?」


「王城?」


向かいのアンジェロが呟いた。


あっ!マズイかも、口が滑った。


「アンジェロ、此処でのことは他言無用だ」


「はい」


アンジェロは即答した。


「アリス、そうだ。メルローはロダン領の王城に住み、ロダン領を守る。そして、ロダン伯爵が宰相の職を辞する時に交代させる」


「交代?」


「そう、交代させて、メルローを宰相にする」


「なるほど、中央に上手に戻すのですね」


「うん、だけど本人にその力が無かったら中央には戻さない。頑張り次第」


「地味にシビアですね」


「まあ、宰相は難しい仕事だから」


こんなに襲撃続きなのにジルは弟のこともキチンと考えている事に驚く。


「そう言えば、今日はなかなか襲撃が来ないですね」


「漸く、敵も今朝の号外が出て襲撃する意味はもう無いと気付いたのかも知れない。担ごうとした第二皇子は養子に出て居なくなった。宰相の更迭も決まり、すでに彼らの計画は崩壊している」


「ジード様、その宰相の更迭が素早く進んだのは何か決め手でもあったのですか?」


「ああ、宰相の孫娘リシュス嬢が悪事を洗いざらい話した」


「ん?猫蹴り女?」


「そう、猫を蹴った女の子」


ジルは笑いながら肯定した。


「それはまた敵討ちが功を奏しましたね」


「そう、あの時ストールを見に行って良かった」


空々しくジルは答える。


「あのお店には最初から行く予定だったのでしょう?」


「さあ、どうかな?」


「まあいいです。ところで、何故彼女は話したのでしょう?」


「何でも、メルローと自分の取り扱いに差をつけてくるお爺様が気に入らなかったそうだ」


「えええ!あれだけ大声で『お爺さまに言いつけるわよ』って言ってたのに?」


ジルは頷いた。


あのお嬢様、癖の悪さが半端じゃないな。


「そして、何でも話すから自分の身の安全を保障しろと騒いだらしい」


「それで?」


「勿論、投獄。法を持って裁く」


「ですよね」


彼女の度を越えた自己中にウンザリする。


「その証言を元にロダン伯爵のリストで先日逮捕した貴族たちを尋問したら、裏が取れた」


「そうだったのですね。ブルボーノ公爵派の計画は第二皇子も居なくなり完全に頓挫。宰相に残された選択肢は逃亡するか、最後に逆恨みで私たちを殺しに来るくらいでしょうね」


「僕もそう思う。すでに国境にはロダン伯爵が手を回している。僕たちの前に宰相が現れたら逮捕して終わりだね」


「確かに一層のこと私達の目の前に現れて、バシッと逮捕が気持ちいいですね」


私とジルは目を合わせて、お互いににっこりとした。



「アンジェロ、何か言いたいことはあるか?」


ジルは話が一段落したところで、黙って私たちの話を聞いていたアンジェロに話しかけた。


アンジェロは静かに頷く。


私はアンジェロの言葉を待つ。


しかし、彼は無言のまま自身の眼鏡に手を伸ばし、それを勢いよく外した。


は?えっ、え、ええええ?何でぇ!?


そこに居たのは薄いブルーの目をしたジルとそっくりな顔の少年だった。


彼は黒い髪も手で取ろうとしたけど、それはジルが止めた。


「アリス、言わなくても分かった?」


私は強く頷いた。


「ロダン領に入って安全が確保されるまでは口にしない」


ジルは口の前に人差し指を立てて、私とアンジェロに言った。


アンジェロは眼鏡を掛けて、元通りの姿に戻った。


私は背中にどーっと汗が流れた。


だって、ビックリするでしょう?


この馬車に、この国の皇子達が揃っているなんて!!


馬車の防御レベル、こっそり最大値にしておこう。

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