第35話 俺たち必要?

「んにゃー」


ほっぺたをペロリと舐めた?


んんん、何?えっと、、、、。


「マルリ?」


私は深い眠りから一気に覚醒し、身体を起こした。


「マールリー!」


私の脇腹にスリスリしてくる。


可愛い!!私もマルリの背中を撫でた。


そう言えば、本を読んでいたハズなのに、すっかり眠ってしまっていたわ。


あ、ジルは、、、。


横に寝ている!!


私の横でスヤスヤと眠っている。


あれ?マルリはどうやってココに?


最上階組だったよね?


「マルリ、どうやってここに来たの?」


いつものように私はマルリに話しかけた。


「ミーミヤ、ニャーン」


「わー!可愛い。お話上手でしゅねー」


お利口なマルリの頭をヨシヨシと撫でる。


「は?なんと言った!?」


突然、横のジルが会話に参加して来た。


「ミーミャ、ニャーン」


ガバッと彼は起き上がる。


「アリス、この部屋に防御魔、、、」


そこまで言い掛けた時、私たちの部屋の窓が吹き飛んだ。


敵襲!?しかもかなり本格的なやつだ!!


私は、すぐに防御魔法を組んだ。


「敵を拘束し、弾け!」


手先から強い光を放ち、私たちに迫って来た先頭集団を吹っ飛ばした。


しかし、次が窓から雪崩れ込んでくる。


今回は人数が多そうだ。


2番手で部屋に突入して来た暗殺者は小さなナイフの様なものを大量に放って来た。


「盾よ」


私達の前に大きな光の円が現れて、それらを放ってきた敵へと弾き返す。


「アリス、狭いけど攻撃するから、気をつけて」


敵の方を見たまま、ジルは話す。


「了解」


私は盾を維持しながら、様子を見守る。


あれ?私の横にいたマルリが居ない。


「ジル、マルリが居なーい!!」


「大丈夫、マルリはエドワードのところへ走った」


良かった、それなら安心。


ジルは大きなイナズマを部屋の中に走らせた。


盾が無かったら、衝撃で飛ばされそうな威力だ。


2番手の集団はイナズマの威力を直に受けて、壁に床に打ち付けられ一斉に倒れた。


まだ、外が騒然としているところを見ると、更に攻撃するつもりなのかも知れない。


気を緩めない様にサポートをする。


3番手の敵は火の玉を外から引っ切り無しに撃ち込み始めた。 


いよいよ、敵は魔法攻撃をするらしい。


今のところは物理攻撃も魔法攻撃も盾が弾いている。


だから私達は無傷なのだけど、部屋はすでに滅茶苦茶だ。


これ以上破壊されてしまうと、このお宿がダメになりそうな気がする。


「ジル、魔封じしようか?」


「結構な人数がいる」


「範囲で行けると思う」


私の言葉にジルが振り返る。


「アリス、範囲?」


「うん、魔力吸うやつ」


簡単に伝えたけど、分かったかな?


「頼む」


私は集中して、辺り一帯の魔力を吸い込む魔法陣を作り出す。


私の魔封じは魔法を禁じるのではなく、魔力切れを起こさせるものだ。


勿論、私とジルは対象外に設定する。


魔法陣が完成し、発動すると強い風が巻き起こり、魔法陣に魔力が吸い込まれて行く。


窓から引っ切り無しに飛び込んで来ていた敵の攻撃が止まった。


ジルはこのタイミングを逃さず、自分の手から紫色に輝く鎖を四方八方に伸ばして、倒れた敵を縛り上げて行く。


そこへ廊下から、エドワードの声が聞こえた。


「大丈夫か!?殿下ー!」


ドタバタと足音が近づいてくる。


「エド、殿下って叫んだらダメだろう」


ジルがゴチる。


「ブッ!」


私は思わず笑ってしまった。


確かに殿下って叫んだら、居場所が敵にバレちゃうよね。


「殿下ー!」


エドワードが私達の部屋に踏み込んで、大惨事を目の当たりにして目をパチクリする。


倒れている人たちは全員鎖でグルグルにされている。


窓の側にも慎重に進んで、外を覗き見る。


そして、ベットの上にいる私たちの方へエドワードは向き直り、彼はようやく言葉を吐いた。


「殿下、俺たちは本当に必要?」


私とジルは顔を見合わせて笑った。




 早朝の襲撃は、中々の規模だった。


私達を起こしてくれたマルリ様に感謝しなければならない。


たった一晩で、この『オテル・レーザン』は大きな被害を受けた。


私達の部屋はボロボロに破壊された状態だったし、お隣のアンジェロの部屋も中々の荒れっぷり。


他にも、無差別に踏み込まれた騎士の部屋があった。


そして、それぞれの部屋で激しく争った痕が残っていた。


その中でも一番酷かったのは最上階。


筋肉ムキムキの精鋭マッチョ隊は気持ちいいくらいに建物を破壊していた。


団長のドレスは布がほとんど残って無かった。


まぁ、正確にいうと裸に近いくらいだった。


捕縛した集団はビスタ侯爵の領地を守る私兵と雇われ傭兵だったとのこと。


ブルボーノ公爵派も上級クラス(ビスタ侯爵)が登場したところを見ると崖っぷちになって来たのかもしれない。


今晩のお宿はいよいよ親分(ブルボーノ公爵)の私兵あたりが出て来そうな気がする。


ここで、出発準備をしていると新聞の号外で大ニュースが飛び込んで来た。


『メルロー第二皇子の皇位継承権の放棄手続きが完了。ロダン伯爵家への養子縁組も決まる』


んんん?ロダン伯爵家?何処かで、、、。


イヤーイヤイヤ、私のお家じゃん!!


「ジル!何か知ってる?」


「勿論。後で説明する」


「もう!何で私に事後報告なの?」


ぷーっと頬を膨らませて、恨めしい顔をする。


チュッ。


は?


「アリス、可愛い」


いきなりキスして、クスクス笑いながら、ジルはアンジェロの方へ歩いて行った。


何だか誤魔化された気がする。


馬車で移動中に、どういう経緯なのか聞こう。




「アンジェロ、第一段階は完了した。次はロダン伯爵領まで、気をつけて行くぞ」


「はい、殿下。ありがとうございます」


 僕はアンジェロ(メルロー)に僕たちの計画は順調であることを伝えた。


昨日、アンジェロと話をした後、僕は一度王宮に戻り、父上にメルローと決めた事を伝えた。


父上は、その足でロダン伯爵のところへ行くと言っていた。


すでに父上とロダン伯爵は手を組んだらしい。


詳しく聞くと、父上はロダン伯爵に次期宰相の就任を打診し、その場で了承を貰ったそうだ。


その代わりにロダン領の安全をバルロイ帝国の全てを掛けて保障すると約束した。


父上もロダン領の安全に目を向けてくれているのなら、僕とメルローが考えた方法が生きてくる。


「父上、宰相が僕たちの前に姿を現さずに他国に逃れる可能性もあるので、国境の警戒を強化して下さい」


「心配はいらない。すでにお前たちが首都サライを出発した時点で、ロダン伯爵がその手筈は終えている」


僕は自分の考えを先読みされているような感覚を覚える。


更に父上はロダン伯爵が大陸の有力者や王族ともパイプを持っていて驚いたと言う話もしてくれた。


僕はロダン伯爵とアリスの凄さを今日一日で強く感じた。


それにしても、メルローの決断はタイミングが最高に良かった。


あと1日遅ければ、あいつはブルボーノ公爵家と一緒に罰を受け、二度と表舞台に立つことは出来なくなったと思う。


この作戦に参加しようと決めた勇気は、あいつの未来を大きく変えた。

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