第34話 お揃い

 狭いバスルームで鏡を覗き込む。


私に王家の紋章の力を分けたってことは、背中に何か付いているのかも。


何故そう思ったのかって?


神殿で教皇に背中を見せたことを思い出したからだ。


あれは、おそらく紋章を見せたのだろう。


既に教皇にはジルが私に力を分け与えたことがバレていると言う事か、、、。


うーん、鏡が小さくて見にくい。


何かいい方法はないかなぁ?


あっ!そうだお化粧直し用の鏡!


私はポーチから手鏡を取り出した。


バスルームの鏡に背中を向けて、手鏡を覗き込む。


うわっー!!!これか!


魔法陣のような紋章が背中に白く輝いて付いている。


思ったより大きい。


肩甲骨の下の方だから、ドレスを着る時に見えることは無いだろうけど、ジルぅー!!


これで私が婚約しませんって言ったらどうする気だったの?


彼の思い切りが良すぎて笑える。


「コンコン」


「はーい」


「アリス、どうかした?お風呂に入るって言ったのに水の音がしないから」


「うーん、背中を改めて見て驚いていたところ。ジルー、思ったより印が大きい」


「あー、僕も見てもいい?あの時は、緊張していて見てないから」


むむむ!?えーっと、背中を出すだけなら、丸見えじゃないし大丈夫か。


「いいよ。入って」


ガシャ


ドアを開けて、ジルが入って来た。


私は鏡を背にしているので、ジルは目の前にいる。


「アリス、、、。その状態で良く入っていいって言ったね」


ジルは呆れた声を出す。


「まあ、バスタオル巻いているし、大丈夫かなと思って」


「僕がそれを引っ張ったらどうするの?」


「ん?引っ張り返すけど」


私は思ったことをそのまま言った。


「分かった。僕が馬鹿な質問をした。ええっと、背中を見せて」


私はくるりと回って、背中を出した。


「あ、本当だ。僕と同じ柄がちゃんと出てる」


私を直ぐに表に返してから、ジルはそう言った。


「ねえ、ジルの背中も見せてくれる?」


同じ柄って、気になるよね。


「うん、良いけど、ちょっと待って」


ジルはバスルームから一度出て、直ぐに戻って来た。


上だけ脱いで、、、。


「うわぁ!なななっ、裸―!」


「いや、アリスが見せてっていったのに」


心の準備も何も出来ていない私の心臓はバクバクする。


「じゃあ、後ろを向くから」


お気を遣わせて、すみません。


私は息を整え、目の前にあるジルの背中を見た。


「ほわぁ!スゴイ!!綺麗」


私の紋章より二回りくらい大きなものが背中の中心で金色に浮いて見える。


「ふーん、綺麗って言われるとは思わなかった。見たなら部屋に戻るよ。お風呂はごゆっくりどうぞ」


そのまま直進して、ジルは部屋に戻った。


さて、私もお風呂に入ろう。


振り返ると、壁の鏡が見えた。


はっ!?


私が背中を見せるためにバスタオルを下げたら、、、。


「ギャー」


鏡に前が全部映っている!!!


「どうした?」


ドアの向こうから、ジルの心配そうな声がした。


「うん、大丈夫。何でもない」


あー、ジルがどうぞ見ていませんように。


ごゆっくりと言われたものの、動揺が隠せない私は素早く入浴を終えて、ジルと交代した。


 


アリスと同じ部屋、しかも狭いし、マルリはエドワードが連れて行っていないし、どうやって気を散らせばいい?


先にお風呂に入るー!とバスルームに入って行ったと思ったら、背中が気になると言うし、バスタオル一枚だし、鏡に、、、。


これは見たと言ったら口を聞いてくれなくなりそうだったから、素早く目を逸らした。


あー、敵のこともアリスのことも考えないといけないなんて、大変だ。


アリスといるとハラハラする事が多い、面白いのは確かだけど。


「ジルー、お風呂どうぞ」


あ、バスルームから出て来た。


「分かった。入る」


さあ交代だ。


お風呂にゆっくり入って、少し落ち着こう。


僕はバスルームに入った、、、、これはダメだ。


アリスのいい香りがする。


シャンプー?香水?何だか分からないけど、あー!もう修行過ぎる。


水でも浴びるか?


そんな馬鹿なことを考えていたら、アリスが僕を呼ぶ声がした。


「ジル!出られる?」


僕は慌ててバスタオルを腰に巻いて、ドアを開けた。


「どうした?」


「あのね、アンジェロの部屋の方から物音が凄くしているの。大丈夫かな?」


うーん、あいつのピンチを僕が助けるのか?と、一瞬、頭に過ぎったのは置いておいて。


「見に行く!とりあえず服を着るから、アリス、急いでイースを呼んでくれる?」


早口でアリスに指示を出す。


「分かった」


アリスは返事をしながら、ドアの方へ駆けだした。


僕は急いでトラウザーズを穿いて、シャツを羽織る。


隣の部屋に転移すると目の前に短剣を持った刺客が二人居た。


短剣を鎖で押し返そうとするアンジェロと、もみ合っていた。


僕は直ぐに魔法で出したいばらを、敵の背後からグルグルに巻き付けて拘束した。


「ガチャ」


ドアを開けて、イースが飛び込んで来た。


「遅くなってすみません。あ、もう拘束済み?殿下早いですね」


「ああ、魔法は使わないようだったから、簡単だった」


「ジル、大丈夫?」


イースの後ろから、アリスが顔を出す。


「私の心配は誰もしてくれない」


アンジェロが腐ったようなことをブツクサと言う。


「イース、ルカと一緒にこいつらを連行してくれ」


「はい、殿下」


「アンジェロ、話がある」


「はい」


「アリス、部屋に戻っていて」


「はい、分かりました」


ルカも来て、彼女らが刺客たちを連行するのを見届けてから、僕はアンジェロに話しかけた。


「お前は、そもそもどうしてここにいる?」


「、、、。いや、もうお爺さまが酷すぎて、ぼくは嫌なんだよ。それで兄上のお手伝いをしたいから、エド兄さんに頼んで連れて来てもらった。影に父上への伝言も頼んだから、父上もぼくがここに居るのは知っていると思う」


「そうか、父上も知っているのか。それで、お前はこれからどうしたい?宰相が悪事の限りを尽くしているのは最早、誰もが知るところだ。それが失脚するとなるとお前も巻き込まれるだろう?今なら出来るだけ巻き込まれない方法も考えられる」


「兄上、ぼくはそんなことを直ぐに思いつくほど賢くない。この国で民のために何か出来ればいいと思っている。だけど一族を処分するなら、ぼくは生きている間ずっと王宮に軟禁される事も厭わないと覚悟してここに来た。これ以上、奴隷の売買とか、言う事を聞かないやつに薬物を投与するとか絶対に辞めさせる」


「お前の言ってることは正しい。そして、民を思う気持ちは僕も同じだ。メルロー、僕の案を聞いてみないか?」


僕は弟を上手く使い、彼も帝国も上手くいく方法を提案した。


彼はその提案を直ぐに受け入れた。


後はタイミングを間違わずに事を運ぶのが僕の役目になる。



「アリス、ただいま」


「おかえり、ジル」


挨拶だけでも愛称で呼ばれると、心がくすぐったくなる。


部屋に戻るとアリスは寝る準備万端だった。


「ジルはお風呂に入るよね。私はもう歯磨きも終わったから、今度こそ、ごゆっくりどうぞ」


「うん、入ってくる。僕が上がるまで念のため起きていてくれる?」


「ええ、本でも読んでいるわ」


僕はようやくバスルームでシャワーを浴びた。


先ほどより頭も冷えて、落ち着いたけど、また外の心配事が頭を過ぎる。


アリス、この部屋にベッドが一つしかないことにいつ気付くのかな。


今回はテーブルとイスしかないから、僕は最悪床?


それも仕方ない。


覚悟を決めて、バスルームを出るとスース―と寝息が聞こえた。


アリスは気持ち良さそうに寝ている。


本は手から零れて床に落ちていた。


ベッドは律儀に半分空けてあった。


あー、気づいていたのか。


寝ているし、問題なしと言う事で、僕はアリスの横に潜り込んだ。


自分では気づいていなかったけど、結構疲れていたらしい。


眠っているアリスにキスをして、僕はすぐに深い眠りに落ちた。


明け方、暗殺集団の襲撃を受けるまでは、、、。

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