第32話 襲撃日和 2

 イヤーな感じの沈黙が半刻ほど続き、限界を感じた私はジード様に話しかけた。


「そういえば、マルリも一緒に行くと言っていましたけど、ここには乗ってないですね」


「ああ、マルリは荷物と一緒に先に宿に行っているから心配はいらない」


「先の便で行ったのですね。それなら良かったです。忘れて来たのかと思いました」


「ブッ」


目の前のアンジェロが吹いた。


下を向いて肩を揺らしているから笑っているのだと思うけど、、、。


今の話のどこが面白かったと言うの???


ルカもアンジェロを横目に見ているけど、先ほど注意されたばかりなので、口は閉じたままだ。


ひとこと言わせてー!このメンバーやりにくい!!


「アンジェロ大丈夫?マルリはジード様の猫のことよ」


私が説明すると、ルカが目を輝かせる。


「私、猫大好きです。マルリちゃんはどんな猫ちゃんですか?」


「マルリは三毛猫ちゃんなのよ。ふわふわの毛で可愛いの。あと、賢いみたいで、私が話しかけると良く返事をしてくれるわ」


「え、アリスはマルリに話しかけるの?」


おおっと、ジード様が参戦して来た。


「はい、いつもベッドで一緒に寝ていますから、マルリと夜語りは良くします」


「返事をするの?」


「はい、ニャーンとかミャオとかですから、会話じゃないと言われれば、それまでですけど」


「クックック」


とうとう、アンジェロの笑い声が聞こえた。


ゴツ。


何と!ジード様がアンジェロの頭に拳骨を落とす。


「ええっ、どうしました?」


私は止めに入る。


「アンジェロ、アリスに不敬だ」


ジード様が低い声で言う。


アンジェロはゆっくり顔を上げて、私に謝った。


「申し訳ございませんでした」


「ええ、ダイジョブよ」


私は、アンジェロが笑っている理由が私だと思っていなかったので驚いた。


ジード様、良く分かりましたね。


そして、目の前にいるルカまで神妙な面持ちになってしまった。


仕方ない、あまり見えない窓の外でも見ていよう。


キラッッギラッ。


「ジード様、何か光った気が、、?」


私は慌てて窓を指さす。


「全員伏せろ!」


ジード様が叫ぶ。


ドン!っと、横から強い衝撃が来た。


しかし、馬車は走り続けているようだ。


外の騎士たちから、怒号が聞こえて来た。


ジード様は私を引き寄せ覆い被さる。


だけど、守ってもらうばかりなんて、嫌だ!


刹那、私はこの状況に有効だと思う要素を組み合わせた防御魔法を発動した。


辺りに白い光がパァンと広がり、怒号は聞こえなくなる。


「アリス、何かした?」


ジード様が私の耳元で囁く。


「はい、馬車が走り続けていたので、防御魔法を範囲でかけました。近づいてきた敵だけを弾き返しす効果も被せたので、もう大丈夫だと思います」


「えっ?」


息を合わせたかのように、私以外の3人の声が重なる。


「私、何か変なことを言いましたか?」


思わず、心配になって聞き返す。


「いや、驚くほど高度な魔法を使うから」


ジード様は、私の顔を見ながらそう言った。


「高度ではないですよ」


私は反論する。


なぜなら、私の習得している防御魔法の中では、中くらいの難度だったからだ。


「これは高位魔法です!私は範囲防御魔法と相手を特定して弾き返す魔法の重ね掛けなど出来ません」


アンジェロが今日一番のハキハキした返答をした。


「そうなの?知らなかったわ」


ええっと、またしてもロダン領だけの常識だったのかしら?


「コンココココン」


御者席からいいタイミングで合図が来た。


一度、停車するようだ。


「大丈夫だと思うが、停車時は警戒を!」


ジード様は、ルカとアンジェロに注意を促す。


「はい、殿下!」


ふたりは気合の入った返事をした。


停車すると、少し休憩を取りましょうと言う話になった。


私たちが休憩をする間に、騎士たちは先ほどの襲撃者たちを捕縛し、それを王都まで連行する部隊も、ここへ駆け付けるらしい。


雨は先程よりは小雨になったとはいえ、作業がし辛そうに見えた。


私は馬車を降りる前に雨を避けるドーム型の範囲防御魔法を掛けた。


「ああ、雨が止みましたね。殿下、アリスティア様、一度降りられますか?」


ルカは私たちに聞いてきた。


「うん、降りようか?アリス」


「ええ、そうですね。外の空気でも吸いましょう」


私たちはルカの提案に乗って、外に出た。


雨は防いでいるので、足元が水浸しだという以外は問題ない。


ジード様が、また私の耳に囁く。


「これもアリスの仕業?」


彼は空を指差している。


「はい、そうです。作業がし辛そうだったので」


何となく私もジード様にしか聞こえないくらいの小声で答える。


「バレないように気を付けた方がいい」


「そうなのですか?」


「君が魔法を使えると言う事は公表してないから」


「公表するとマズいのでしょうか?」


「ほら、前みたいに魔封じしてくる奴とかがいたら困る」


私の脳裏にイヤーな思い出が蘇る。


「あああー、それはとっても嫌です」


「使うなとは言わない。だから、こっそり仕掛けるのがオススメ」


ブッ!私は笑った。


「オススメって、、、!」


私がツボに入って笑っていると、後ろから声がした。


「殿下!」


副団長エドワードの登場だ。


「殿下、ご報告します。先ほど襲撃して来た者はスカルノ男爵の私兵22名。騎士が相手をしようとしたら、何かに弾かれるように吹っ飛んだので、こちらの負傷者はゼロです」


「分かった」


「それでさっきのは殿下の仕業?あんな魔法は初めて見たよ。あれ便利でいいね。もう騎士要らなくない?」


先ほどの真面目さは何処に行った?エドワード。


というか、騎士要らないと思うほどアレは有効だったのね。


良かった!けが人も出なくて。


「騎士が要らないわけないだろう。エドワード引き続きしっかり頼む」


ジード様はいつもの調子で冷静に返事をした。


エドワードは忙しいのか私に軽口を叩かずに去って行った。


「ほら、アリスの魔法は悪い奴に知られたら君は騎士団に連れて行かれるかもしれない。絶対言ってはダメだよ」


「はい、でもルカとアンジェロが見ていましたよね」


「あの二人には口止めする」


ジード様の目が光る。


まさか脅したりしないわよね?


「は、はい、よろしくお願いいします」


結局、小一時間ほど休憩してから、私たちはまだ先にある宿場町へと再び出発した。

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