第30話 アジトG-1
王宮の執務室に影が報告に遣って来た。
宰相は先ほど慌てて席を外したから、ジルフィード達が何か仕掛けたのかもしれない。
「陛下、ジルフィード皇子殿下は帝国第二騎士団と共に本日55名の犯罪者を逮捕しました。またその中には宰相の孫娘も含まれております」
「何と!本気を出して来たな我が息子は!」
私が嬉しそうにすると、影は一言付け加えた。
「いえ、陛下。ジルフィード皇子殿下が指揮をしておりますが、正確に申し上げますと陛下のご子息たちでございます」
「な、なんと!あいつも参加しているのか?」
「はい」
「と、言う事は、もう心配することは何も無くなったな。王妃だけなら宰相にさっさと突き返すか?」
「陛下、それにわたしがお答えすることは出来かねます」
私は、久しぶりに愉快な気分になった。
「それから、ビビアンより伝言があります」
「ほう、何と申しておった?」
「ロダン伯爵の準備が整ったとの事です。陛下のご都合の良い日時にアジトG-1にて面会が出来ますとの事でした」
「分かった。G-1か、少し距離があるが、宰相もしばらく戻って来るまい。今から向かうと伝えてくれ」
「承知いたしました。ではこれにて」
そう告げると影はスッと消えた。
今まで、不満に思うことは多々あっても、耐え忍んでいたジルフィードがついに動きだしたか、、、。
我が子を動かしたアリスティア嬢の功績は大きい。
王宮を乗っ取ろうとしている宰相の派閥は、もはやこの国だけでは飽き足らず、大陸全体へと枝を伸ばしている。
私も大いに協力しようではないか、未来の子供たちのために。
ロダン伯爵へ会うための準備を始める。
まずは使用人を呼び「これから息抜きに王家の森まで遠乗りに行く」と告げた。
次に、厩の愛馬の元へ行き、魔法で愛馬へ私が騎乗している様に見える細工を施した。
「さあ、行っておいで!」
私は愛馬にすべてを任せて送り出す。
これで準備は完了だ。
G-1までは転移で行くとするか。
私は厩で転移魔法を展開した。
アジトD-1では、ビビアンとロダン伯爵が私を待ち構えていた。
目の前に私が現れるとビビアンは「あたしは外で見張りをするから、あとはよろしく」と直ぐ去った。
私は彼女が部屋から出ていくのを見送ってから、改めてロダン伯爵に向き直った。
「久しいな、ロダン伯爵。貴殿はかなり苦労の日々を送ったと聞いておる」
私が声を掛けるとロダン伯爵の表情は険しいものとなる。
「陛下、ご無沙汰してしまい申し訳ございません。また、宰相閣下とわたしの件では大変ご迷惑をおかけいたしました」
彼は深々と礼をした。
「何のことだか私には分からぬ。宰相が貴殿のご令嬢にちょっかいを出した件ならば、宰相に非があると私は見ている」
「はい、直ぐにご報告せず申し訳ございません」
「もう謝らなくともよい。今回は貴殿にお礼が言いたくてここに来たのだ」
「お礼ですか?」
ロダン伯爵は何も思い当たることが無いのか首を傾げる。
「貴殿は知っているのであろう?王家を宰相が掌握しようとしていることを」
ロダン伯爵は私のストレートな発言に驚いた顔をする。
「はい、少し存じております」
小声でロダン伯爵は答えた。
「貴殿のおかげでやる気を出した我が息子たちが動き出した。本日だけで55名逮捕したと報告を受けた。その中には宰相の孫娘も含まれているそうだ」
私は言い終えると同時に笑いがこみ上げた。
「陛下、、、」
ロダン伯爵は落ち着いて私を見ている。
「ロダン伯爵、私はアリスティア嬢の立ち振る舞いや言葉選びを見て、一目で正妃にふさわしいと思った。なにより、長年女性嫌いと言われていた我が息子ジルフィードが夢中になるほどだ。我が息子との婚姻を了承してくれて、本当にありがとう。私は心から貴殿に感謝している」
「陛下、わたしは宰相閣下の脚をすくう事ばかりを考えていて、娘のことは妻や執事にまかせっぱなしだった悪い父親です。お礼を言われるようなことを娘にしていません。ダメな父親なのですよ」
彼は投げ捨てるように言った。
「ほう、ダメな父親と言えば、私も負けてはいないと思うが、、、。宰相の策略にはまって側妃を娶り、第二皇子まで誕生して身動きが取れなくなったダメな父親だ」
「陛下、それは、、、そうですね」
ロダン伯爵が最後あきらめたように同意し、私たちは共に笑った。
「ダメな父親同士、息子と娘の未来が明るくなるように手を組まぬか?」
私は本題を告げるための話を始める。
「はい、わたしが収集した宰相閣下の闇組織に関する情報と、悪事に従事していた貴族から取り上げた金銭の管理等は、ビビアンを通じて帝国第二騎士団に全て提出します」
「ロダン伯爵、その密命は私が5年前に下したことにせぬか?」
「密命ですか?」
「そうだ、宰相の動きが怪しいことを知った私が、貴殿に調査を命じたとしたい」
「それは何の為だか、お聞きしても?」
「貴殿を次期宰相としたい。任期はジルフィードが皇帝に即位するまでだ」
ロダン伯爵は固まった。
「貴殿はしがらみがなく、清廉潔白だ。また貴殿を追っている者たちへのけん制にもなる。ロダン領は王家が必ず守る。何人も近づけないと約束する」
「ロダン領を?」
「ああ、ロナ川の聖地であり、秘匿もあるロダン領はこの大陸の要だ。何人にも荒らされることが無いように、バルロイ帝国の力を全て注いででも守り抜くと約束する」
「分かりました。ロダン領の安全が保障されるのなら、わたしは何の仕事でも請け負います」
「ありがとう。では、これからの段取りを少し話し合うとするか」
「はい、承知いたしました」
私はロダン伯爵と国の問題点や宰相の息がかかっている貴族などの情報を簡潔にだが共有した。
その際に驚いたのは、この男の有能さだった。
大陸中の地理や経済を把握しており、人物の名前や血縁関係も私より正確に知っていた。
途中で、ジルフィードがロダン公国と言っていたことを思い出したが、ここで安易に話してロダン伯爵に警戒されたくはないので話題には出さなかった。
彼とはまず信頼を深めて、いつか心を許してくれるようになったときに聞いてみよう。
私は彼との話がひと段落したところで、外にいるビビアンを呼んだ。
「もう戻られますか?」
「ああ、話は充分出来た」
「そうですか」
相変わらずビビアンはそっけない。
「私とロダン伯爵でダメな父親同盟を組むことにした」
私がそう宣言すると、普段は強面な彼女が腹を抱えて笑い出した。
「くっ、それは最高ですね陛下」
横を見るとロダン伯爵も苦笑いを浮かべている。
まあ楽しいことでも話して、気軽に笑える世の中になるのが一番だ。
不敬に問うなどという無粋なことを私はしない。
「ビビアン今日はありがとう」
私は心から彼女にお礼を言った。
「陛下、嵐が来そっすね」
半笑いで答えるビビアンは間違いなく不敬な奴だった。
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