第27話 第二騎士団は個性が強め

 水の離宮の会議室で、私達はロダン領への行程を話し合っている。


当然、ブルボーノ公爵が襲撃してくると見込んだ上での作戦会議だ。


ロダン領へ向かう私達には、エドワードの所属する帝国第二騎士団が護衛に付く。


また、影と言われる王家専属の護衛は秘密裏に付いてくるらしい。


この訪問はプライベートの訪問である事を強調して、こちら側を手薄に見せる予定だ。


途中、2つの宿場町で宿泊する予定にしていて、ロダン領へ到着するのは明後日となる。


「アリスの身辺警護には女性騎士ルカ、男性騎士イースとアンジェロを付ける。エドワードは全体の指揮を、団長のポールは僕と行動を共にする」


ジード様が指示を飛ばしている様子を見て、緊張感が高まる。


王家を手に入れたいブルボーノ公爵派は彼の立太子前に我々の命を狙ってくるだろう。


「殿下、オレは少し離れた場所からでいいってこと?身辺警護を団長なんかで大丈夫ー?」


エドワードが横から軽口を叩く。


バコッといい音がした。


団長のポールの鉄拳がエドワードに入る。


「いてぇよー、だってさ団長は魔法攻撃防げねぇだろう?」


まだ食い下がるエドワード。


「俺は出来ないが、殿下はご自分で何とか出来る!」


は?この団長は大丈夫なの?


私は急にエドワードの肩を持ちたくなった。


「ポールには御者をしてもらう。エドワード、分かっているならしっかり頼む」


ん?御者をしてもらうって、ジード様もポール団長に違う仕事を与えてるし、何故?


「マドモアゼル、団長はお飾りなんだよ。戦力ではないってこと」


私に向かって、エドワードが余計なことを言ってくる。


「エドワード、ポール団長に失礼です」


私はピシャっと言い返した。


「おっ、いいね。マドモアゼル!強気な女は好みだよ」


全く反省していないエドワード。


チラリとジード様を見ると、久しぶりの無表情になっていた。


怖いんですけど、、、。


「アリスティア様、自分は大丈夫なので気にしないでください」


渋い声でポール団長さんが私に話しかけて来た。


「ポール団長さん、色々と大変ですね」


私は問題児エドワードを見ながら、ポール団長さんに同情した。


「まぁ、あいつは今のところは口以上の働きをするので見逃しているだけです。お気遣いありがとうございます」


ポール団長さんの白い短髪と褐色の肌で野性的な雰囲気からは想像できないような柔らかい物腰に驚いてしまう。


「ルカ、イース、アンジェロ!アリスティア様にご挨拶を!!」


ポール団長さんは、後ろに並んで控えていた3人に声を掛けた。


3人は並んで私の前まで歩いてきた。


「アリスティアです。どうぞよろしくお願いします」


私は先に3人へ、声を掛けた。


「初めまして、帝国第二騎士団のルカです。得意技は氷魔法です。よろしくお願いします」


1番に挨拶を返したのは、長身でスラっとした女性騎士だった。


「ぼくは同じく帝国第二騎士団のイースです。剣術と体術が得意です。ガンバリマス!」


2番目は元気の良い声でふわふわ茶髪の小柄な少年が礼をした。


「わたしも同じく帝国第二騎士団のアンジェロです。防御魔法と暗器が得意です。よろしくお願いいたします」


最後に自己紹介をした騎士は黒髪で見るからに冷静そうな青年で、グルグル眼鏡をかけている。


しかし、その眼鏡のせいで、微妙に顔が分からない。


「みなさん、頼りにしています。ところでアンジェロさん、眼鏡を取ったお顔を見せていただけませんか?もし眼鏡を付けていなかったら、本人かどうか私には分からなくなりそうです」


私はアンジェロさんにお願いした。


すると、騎士団の皆さんがコソコソ相談し出す。


「マドモアゼル、アンジェロの素顔は騎士団でも明かされていない。どうしても見たいなら止めないけど、辞めといた方が良いと思うぜ」


エドワードが良く分からないことを言う。


「皆さんも見たことが無いと言うこと?」


私はルカとイースに向かって聞いた。


ふたりは大きく頷いた。


「ポール団長さんもですか?」


「自分も知らないです」


即答だった。


困ったときはこの人に、、、。


「ジード様、どうしましょう?」


私はジード様に話を振る。


「アンジェロ、眼鏡が無いと何か問題があるのか?」


ジード様はアンジェロに問う。


「あのー、殿下。理由はこっそり聞いてもらえませんか」


そう言うと、アンジェロはジード様と部屋の隅に行って何やら相談している。


ジード様は戻ってくるなり、


「アリス、このままの顔で覚えたらいい。アンジェロはよほどのことがない限り眼鏡は取らない」


と、言い放った。


「分かりました」


私は諸々の怪しいやり取りが気になって仕方ないけれど、渋々了承した。


その後、騎士達と交流を図るために少し雑談をした。


私と常に一緒に居る女性騎士ルカは、西部のモリー子爵令嬢で、彼女は魔法が得意とのこと。


ルカの噂を聞きつけたエドワードは、わざわざモリー領へ赴き、彼女をスカウトして連れて来たらしい。


エドワードをよく信用してついて来たなぁ、、、と、私は余計な事を考えてしまう


「ルカはよくこの危険な仕事をしようと決意しましたね。私を護衛するときは自分の身も忘れずに守ってくださいね」


私はルカに自分の身を投げ捨てて守る様な護衛はして欲しくないと伝える。


「アリスティア様は天使のような御心をお持ちなのですね」


彼女は目頭を押さえていた。


一体、今までに何があったのだろう?


仲良くなったら、是非聞いてみたい。


「アリスティア様、ぼくは東部の出身です。代々、王の影をしている家系です。僕の兄弟は人数が多くて、影から騎士団に回されました。実力はあると思うので安心してください」


影の一族とか名乗っていいの?


ツッコミたいところだけど、、、。


「イース、ご兄弟が多いって何人くらいいるのかしら?」


つい興味が口をついて出てしまった。


「23人です。父はひとりですが、母は6人います」


「23人!?」


「ボクは丁度真ん中の12番目で8男です」


「そう、随分賑やかでしょうね」


「はい、毎日の兄弟げんかも訓練と変わりないです」


「壮絶だったのね」


イースは頷いた。


第二騎士団は大丈夫なのかしら?


まあ、この面白いメンバーなら気楽で良いかも。


マルリも昨日御遣いから帰ってきたので、一緒にロダン領まで旅することになった。


旅路では、ワザと襲撃を誘う行動をしながら行くので、私とジード様は先ずは旅の支度を整えるべく、明日は王都でお買い物をする予定だ。


第二騎士団の予行練習も兼ねているらしい。


そう言えば、アンジェロと個別で話すのを忘れていた。


彼は一体どんな人なのだろう?


明日のお出かけで探ってみよう。

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