第24話 悪事の成り行き

 エドワードは約束通り3日後に報告書を持って来た。


「殿下、何なんだよあのリスト。すでに全員投獄しといたけどさ、宰相ヤバくね?」


エドワードは胸を張って、僕に言った。


「ああ、密命と言った。それ以上は慎め」


僕は軽口に釘を刺した。


「余計なことを言いました。仰せのままに」


そう答えると右手を挙げて、颯爽と去って行った。


僕は早速エドワードが持ってきた報告書の概要のページを見た。


婚約者リストに上がっていた人物は8名だ。



『【秘】 調査報告書 概要


1,東部 レスタ子爵・違法薬物取引・グレー子爵が仲介


2,東部 ハロン伯爵・違法薬物取引・グレー子爵が仲介


3,東部 ミレー伯爵・違法薬物取引・グレー子爵が仲介


4、中央 スカルノ男爵・違法薬物取引・グレー子爵が仲介


5、中央 ハバス伯爵・人身売買・ビスタ侯爵が仲介


6、西部 アストラン男爵・偽美術品取引・ビスタ侯爵が仲介


7、西部 マシモスタ子爵・偽美術品取引・ビスタ侯爵が仲介


8、西部 ルローナ子爵・人身売買・ビスタ侯爵が仲介


                   ※詳細は別紙に記載』



ビスタ侯爵とグレー伯爵はブルボーノ公爵派の貴族である。


不正は違法薬物の取引と人身売買、偽美術品の3つの分野に絞られていると分かった。


恐らく密輸ルートはサバラン王国のダノン侯爵を通しているだろう。


こちらの裏も取らなければならない。


それにしても、ロダン伯爵が借金を作り、娘の婚約者を探しに行く旅とは到底思えない結果が出た。


これはどう考えても陰謀を暴くための布石だろう。



僕はアリスにこの報告書を見せた。


「ジード様、これはとんでもないリストに成りあがっていますね」


彼女は僕の言いたいことが分かったようだ。


「アリス、ロダン領が借金を背負った理由がトウモロコシの不作という話は?」


僕の言葉にアリスがハッとする。


「すみません。あれは根も葉もない嘘です。訂正するのを忘れていました」


凄く慌てている姿が、可愛い。


「うん、ロダン領にトウモロコシという話は変だなと僕も気付いていたのに確認を忘れていたよ。それで本当のところは何が理由で財政難になったの?」


「はい、5年ほど前から投資話に数回騙されたと父は言ってて、最後に会ったときに聞いたんです。一体何の投資なのかと」


「ふーん、それで伯爵は何と答えたの」


「魔石と言っていました」


「魔石?」


何処に存在しているかも分からないものに投資か、、、。


魔石は魔力を増幅させる石と物語で読んだことはある、しかし実在するとは聞いたことがない。


そんな危ういもので投資話を作ったとして、何のメリットがあると言うのか。


「ジード様、魔石は主にどこで産出されるのでしょうか?」


アリスの質問で、一つ線が繋がった気がする。


「アリス、ロダン伯爵に会いに行こう」


僕がそう提案するとアリスが凄く嫌そうな顔をした。


「大丈夫、僕も一緒に行くから」


「分かりました。私が怒り飲み込まれそうになったら、止めてくださいね」


まあ、怒ってもいいと思う。


それくらいの失敗を伯爵はしているのだからと言うのは敢えて口に出さなかった。



皆が寝静まった夜更け、僕は王宮の図書館へ転移した。


王家の者だけが入れる禁書庫で確認したいことがあったからだ。


図書館全体に僕は強い結界を張ってから禁書庫へと向かった。


禁書庫と言っても普通の書棚のとある部分に入り口は隠されていて、王家の者だけが開錠出来るようになっている。


実は現王妃に父上は見せかけの禁書庫しか教えていない。


それだけ彼女は信用が無いと言う事だ。


王宮がどれだけ掌握されようとも、僕と父上が繋がっている限り、権力に目がくらみ、帝国民のことは金を搾取する相手などど思っているような奴らに国を譲り渡す気はない。


鍵を開け、禁書庫の中に入る。


僕の目的はロダン領の開拓の記録を確認することだ。


80年前に何が起こったのか、アリスにロダン公国の歴史を聞く前に帝国の記録も確認しておくのは大切だろう。


僕は先ず、サム・ロダン伯爵の先祖の系譜を探したが見つからなかった。


案の定、ロダン伯爵家は80年前に出来た家門だった。


その後の系譜は記録されている。


また、新しい領地を登録する際の記録も確認した。


80年前に開拓した地区として記載があった。


住民はおらず、ロナ川の水源地として保護することが目的と書いてあり、ロダン公国のことも水竜のことも書かれていなかった。


そもそも、ロダン公国という国が消えて、周辺国も含めてこんなに忘れ去られるものだろうか?


ロダン公国には何かあるのかもしれないと考えてしまう。


そして、そのロダン公国は何か理由があって、バルロイ帝国の陰に隠れたと言う方が納得がいく。


先々代の皇帝が記録を残さなかったのも、ワザとだろう。


僕は過去に教わった歴史と同じものしか残されていないことを確認したので、禁書庫から出た。


すると、目の前に父上がいた。


「かなり強い結界を張ったのに」


「お前もまだまだだということだろうね」


穏やかな父上、実は魔法が使える。


だが、彼はその姿をほとんど見せない。


「何か調べていたのかい」


「ええ、ロダン公国のことをアリスに聞く前にこちらの資料を確認していました」


僕は父上に正直に告げた。


「そうか、いや宰相が今日はこの上なく上の空だったのでね。お前が動いたのかと思ってね」


「いえ、僕はロダン伯爵が置いた布石を拾っているだけです」


「以前アリスティア嬢をメルローの婚約者にという婚約者候補のリストを私は見たことがある」


父上は唐突に婚約者候補の話を出した。


「ご存じだったのですか?」


「ああ、だがロダン伯爵は断るだろうと思って口を出さなかったが、恐らく宰相はロダン伯爵の逆鱗に触れたのだろうな」


「僕もそう考えています。ただロダン伯爵に会って話してみないと真実は分かりません」


父上も頷いた。


「さて、可愛い息子にいいものを見せよう」


そう言うと僕の手のひらに父上はキラキラ白く光る石を置いた。


ん?何か変な感じがする。


「これは、、、」


「そうだ。私はこれが無ければ、お前が結界を張ったことを感づいたり、その結界を破って入って来たりすることは出来ないだろう」


僕は手のひらの石をジッと眺めた後、父上に返した。


「これは人のためにならないものだ。存在を知られてはいけないものと言えよう」


「ええ、そうですね」


「ロダン領の件はくれぐれも取り扱いを間違えぬように。アリスティア嬢に危険が及ばぬよう気を付けるのだよ」


父上はアリスティアの名前を言う時は微笑んでいた。


僕は父の言葉に力強く頷いた。

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