第23話 マルリのおつかい

 ご主人様から御遣いをお願いされたボクは、ロダン領へ向かった。


どうやって行ったのかって?


本当は秘密だけど教えてあげる。


ボク、魔法が得意なんだ。


だから、ハヤブサになれば、ヒューンと飛んで行けるんだよ。


ボクが出掛ける前に、アリスと一緒に行った王城は目に見えないかもしれないとご主人様は言った。


だけどね、ボクはあの時に王城の周りを探検して印を付けていたんだ。


だから、大丈夫心配はいらない。


辿り着いた大きな岩山には何もないように見えるけど、ボクが魔法で付けた跡は点々と続く。


ここだ!!


王城の入口を見つけて、進む。


やったぁ!玄関が見えて来た。


ボクは魔法を使って、貴族の少年の姿になった。


そして、玄関ドアまで進む。


「コンコン」


ドアをノックする。


あの時のように誰も来ない。


どうしよう、ドアを開けて呼んでみる?


ボクはドアを開けようとする。


あ、開かない、、、どうしよう。


もう一度ノックするしかない。


手を構えたタイミングで後ろから馬の嘶きが聞こえた。


誰か帰って来たみたいだ!


馬の足音が近づいて、王城前のロータリーに馬車が入ってきた。


御者はすぐにボクに気付いた。


馬車を停車して、中の人へ伝えている。


馬車の中から、執事のジュリアンさんが慌てて下りて来た。


「ああ、マルリさん。姿が違うから、どなたかと思いましたよ」


ボクを見ても全く動じずに執事のジュリアンさんは対応した。


「こんにちは執事さん。今日はご主人様の御遣いで来ました」


ボクは行儀よくご挨拶をした。


「こんなに遠くまでおひとりで?大変な道のりだったでしょう?」


執事さんは優しく微笑んでいた。


「ハヤブサになって飛んできたので大丈夫です」


ボクは胸を張って答えた。


「何と!ハヤブサですか。それは凄い、マルリさんは優秀ですね。ああ、こんな玄関先ですみません。中でお話ししましょう。どうぞこちらへ」


執事さんが来てくれたお陰でボクは無事に中に入ることが出来た。


来賓室に着くと執事さんはお茶の用意をして来ますねと何処かへ行ってしまった。


僕は大人しく椅子に座って待った。


お部屋をクルクル見ていると鷹の置物があった。


カッコいいな、帰りは鷹で飛ぼう。


「コンコン」


ドアがノックされた。


「はい」


ボクは答えた。


「お待たせしました」


執事さんはワゴンを押して、部屋に入ってきた。


ワゴンの上には、美味しそうなお魚やお肉の料理が並んでいる。


「いやー、飛んできたならお腹が空いているのではないかと思って、色々持って来ましたよ。お話ししながらで大丈夫ですから遠慮なく食べてください」


執事さんは本当に優しい人だった。


アリスがスゴく優しいのはお城の人たちも優しいからかもしれない。


「執事さん、ありがとうございます。お腹が空いてるので遠慮なくいただきます」


ボクの目の前に食事が並べられた。


執事さんもご自分の前にコーヒーとクッキーを置いた。


「では、ご用事をお聞きしましょう」


「はい、ボクはジルフィード皇子殿下からアリスティア嬢との婚約のお祝いにロダン領のご家庭にお菓子を配るように命じられました。そこで執事さん、ロダン領の方々はどのようなお菓子がお好きですか?」


ボクが言い終わると執事さんが、とても嬉しそうな顔をした。


「まあまあ、なんて素敵な提案なのでしょう。そうですね、この領地では日持ちがするお菓子しかないのです。見たこともない首都のお菓子でしたら、それだけで領民も喜ぶと思います」


「分かりました。ボクたち使い魔が運ぶので、日持ちしないお菓子も運べると思います」


「あとはアリス様に聞いていただければ、、、」


執事さんは気づいていないみたいだったからボクは、


「この件はジルフィード皇子殿下がアリスティア嬢には秘密で計画したいと言っていました」


と、伝えた。


「まぁ!素敵な話ですね。お嬢様は良い方と巡り合えて本当に良かったです。そうですね。私もお菓子には詳しくないので、マルリさんのオススメでお願いします」


執事さんは期待に満ちた顔でボクを見た。


「日持ちしなくて幸せになるお菓子、、、シュークリームがボクのオススメです」


ボクは自信を持って言った。


「では、それでお願いします。後は配る方法を打ち合わせましょう」


執事さんは次の段階の話を始めた。


「ボクとお友達が3日後に首都からこちらへお菓子を運びます。配布も手伝います。」


「3日後ですね。それでしたら、こちらの王城に各地区の長を集めておきます。彼らに配布を手伝って貰いましょう。それは私が手配しておきます」


執事さんはとても有能で話がスイスイと進む。


ボクは話をしながら、川魚のフリットや鹿肉のステーキを食べた。


アリスのお家のご飯は美味しい。


話が一通り終わったところで、執事さんが質問して来た。


「マルリさんはここの場所が良く分かりましたね」


「はい、場所は覚えていました。ご主人様は事情を分かっているので心配しないでください」


ボクは正直に答えた。


「そうですか、やはり王族の方ですね。アリス様は世間知らずのまま、主が留守の間にお出かけになったので、わたくし共は肝を冷やしておりました。先日の事件も、、、。ジルフィード皇子殿下には足を向けて寝れません」


執事さんは恐縮していた。


「ボクは執事さんがこの王城を守っているとご主人様に聞きました。執事さんはスゴイです。お料理も美味しかったです。ご馳走様でした」


ボクはお礼を述べた。


「ジルフィード皇子殿下は、そこまでお気づきになられてたのですね」


執事さんが遠い目でどこかを見ている。


「ご主人様の住んでいる水の離宮は、横に大きな美しい湖があります。どうぞいつでも遊びにいらしてくださいと言ってました」


「分かりました。お誘いありがとうございます。いつかお邪魔しますね」


執事さんはにっこりとした。


ボクは御遣いが無事に終わって、ホッとした。


「では、ボクは首都に戻ってまた来ます。お邪魔しました」


「ええ、お気をつけて!3日後にお待ちしております。見えるようにしておきますね」


と、執事さんはクスっと笑いながら言った。


ボクはその場で姿を鷹に変えた。


「あら、帰りは鷹なのですね」


執事さんの楽しそうな声がした。


ボクは一度振り返って礼をして、窓から飛び立った。


初めてのおつかいは上手く出来た。


早くご主人様とアリスに会いたい。


そしてナデナデしてもらうんだ!!


ボクは息を大きく吸い込み、風に乗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る