第17話 検品
爽やかな快晴に恵まれて、私たちの婚約が本日公表された。
悪いことを考えている者ども、貴様たちは寝耳に水であろう。
今まで女性を全く近づけず、浮いた話が一つもない皇子と、誰?架空の人?と言われるくらい知られていない伯爵令嬢の婚約である。
「ジード様」
私は横で、ボニーとベラに遊んでもらっている猫大好き皇子に話しかけた。
なお、ベラは白い猫の名前である。
「・・・」
安定の返事無ーし!!
お仕事とはいえ、婚約までした仲とはとても思えない無視っぷりである。
ちょっと猫みたいに私も飛び掛かってみようかしらとバカなことを考えるも勇気がないので辞めておく。
まぁ猫たちは可愛いから夢中になる気持ちは分からなくもないけど・・・。
「ジード様!聞こえてたら返事してください。愛しい婚約者優先でお願いしますよ」
私はどうせ聞いてないだろうと余計な一言も加えて、少し強く言った。
「聞こえてる」
彼はようやく返事をしたが、私はバツが悪い。
余計な事を言わなければよかった。
「あのー、少し話をしたいのですけど、、、」
急にトーンダウンしてしまう。
「うん、何?」
反して、ジード様は聞く気満々のそぶりを見せる。
「あのー、そのー、私を第二王子の婚約者に推薦したのは誰なのでしょう?」
「ウニャ」
ベラが答えた。
可愛い。
私はベラの背中を撫でた。
「僕は分からない。ロダン伯爵は知っているかもしれないね」
ボニーを抱え上げながら、ジード様が答えた。
私はクズ父が話に出てきて、イラっとする。
でも、父が何か鍵を握っているのは確かだ。
「ジード様、私は父と連絡を取った方が良いと思いますか?」
私は心にもないことを仕方なく言う。
「いや、取らなくていい。ビビアンが調べてすでに彼の所在は分かっているから、いずれ僕が話を聞きに行く」
なんと、クズ父の所在は分かっているのね。
「ああ、もしかすると婚約を発表したから、伯爵がここに来る可能性もある」
ボニーの喉を撫でながら淡々とジード様は言う。
「えっ?」
先日のヒドイ拉致事件を考えると父と会いたくない。
本当に腹が立っているのよ私は!
込み上げてくる悔しさで泣きそうになる。
「アリス、僕は伯爵を殴るかもしれない」
突然、ジード様がボソッと言った。
穏やかそうな人から、先に物騒なことを言われて私の怒りは急に冷めていく。
「ジード様、、、」
「アリス、君を拉致した男、エハラ男爵は禁錮した。彼の家を捜索したら禁止薬物の密輸業をしていたことも明らかになった。当然だが男爵位もはく奪することが決まった」
ジード様は真っすぐ私を見ながそう言った。
「禁止薬物、、、。恐ろしい」
私はあの場面を思い出した。
「薬物なんて使われてたら、もう、、、」
私は呟きながら、無意識に動揺していた。
ジード様が私の横に来て腰を下ろした。
そして、私の頭を優しく撫でる。
「君を傷つける者は許さない。だから安心して僕のとなりにいて」
驚くほどやさしい声で言われて、胸の中がじんわりと温かくなってくる。
ああ、彼に愛されたら幸せになれるだろうなーという想いが私の中に広がる。
だけど、慌ててかき消した。
あくまでお仕事のパートナーとして大切にしてもらっていると言う事を忘れてはいけない。
「ご配慮ありがとうございます。ガンバリマス!」
自分で心を無理やり切り替えてそう言ったのに、胸がチクリとした。
トントン。
ノックの音がする。
「はい」
ジード様はたいてい答えないので、代わりに私が答えた。
「ザザでございます」
執事さんが扉を開けて入って来た。
「ジード様、お祝いの品が届き始めました。いかがいたしましょうか?」
「分かった。危険なものが無いか確かめる。アリス行こう」
そう答えると、ジード様は立ち上がった。
お祝いに危険物!?という言葉に引っ掛かりを覚えながら、私は二人に付いて行った。
夏の離宮の正面玄関を入ると広いロビーがある。
そのロビーの左側にある大きな扉を開けるとパーティーが出来そうな大広間があり、ガラス張りの壁面からは美しい湖が見える。
私たちがその部屋に足を踏み入れると、既にあり得ない量の荷物が積み上げられていた。
「これは、、、。今朝、私たちの婚約発表をして、まだ半日も経っていないですよね?」
私は荷物の山を見上げながら、執事さんに話しかける。
「ええ、貴族とはこんなものなのですよ。この日に備えて前から用意しておくのです」
前から用意と言う事は使われない可能性もあるのよね?
高価そうな贈り物ばかりなのに。
「それはまた、大変ですよね。流行とかもあるでしょうし」
お金のことしか考えていない私は無駄にしか思えず、つい口にしてしまった。
「そうですね。完全に見栄とジード様への賄賂です」
執事さんもバッサリと言い捨てた。
ジード様は黙って荷物の山を見ている。
「ミャーン」
荷物の間からマルリが現れた。
「あっマルリ、ここに居たのね」
「ナーン、フニャ」
「うーん、何々?」
何か喋っているみたいで可愛い。
私は屈んで近づいてきたマルリの背中を撫でた。
「マルリ、どれだ?」
横のジード様が突然マルリに聞いた。
ん?猫と話せるの?そんなバカなことはないわよね。
ふたりをジッと目で追う私。
マルリは私から離れてジード様のところに行って、ジード様の顔を見た。
それから部屋の奥の方に走って行く。
ジード様はその後を追って歩いて付いて行った。
「ニャー」
何かの箱に乗ってマルリが鳴いた。
その箱にジード様が手を乗せる。
何か考えている?中の品物を確認したり出来るのかしらと考えているとサッと視界から箱が消えた。
「えっ?消えた!!!!ジード様、箱が消えたような気が、、、」
私は後ろから声を掛けた。
「うん、危険なものが入っていたから、危なくない場所に移動した。ザザ、オロハスラ子爵を調べて」
「はい、承知しました」
執事さんはそう答えると足早に部屋を去った。
「危ないものって?」
私はジード様に尋ねた。
「お祝いの品の香水に痺れる成分が入っていた」
私は目を見開いた。
「あまりに愚かじゃないですか?お祝いにそのようなものを送るなんて」
その送り主の頭が残念すぎる。
「恐らく、普通に使っていても毒物と気付かない濃度にしていたから、馬鹿ではないかもしれない」
気付かない濃度ですって?
「はぁ?最悪。貴族ってまさかそのような方ばかりではないですよね」
私は憤って吐き捨てるように言った。
「まあ一握りくらいはいるかな」
ジード様は冷静に答えた。
「アリス、身の回りには気を付けてね。僕も君の周りを警戒しているけど、お菓子をもらって食べたりしたらダメだよ」
ふーん、何となく馬鹿にされたのは分かりましたよ。
「ワタクシ毒見してないものはいただけませんわ!」
ツンと澄ました表情で高飛車に言う私。
「良く出来ました」
ジード様はそう言うと私の頭を優しく撫でてくれた。
私の貴族たちに対する戦闘スイッチが入った瞬間だった。
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