第16話 複数ですと?
出稼ぎするために首都へ来た私は、侍女の仕事と思って飛びついた高額報酬の仕事が皇子の婚約者という仕事だとは夢にも思ってなかった。
そもそも皇子の婚約者の求人を街の紹介所に出すって言うのが普通は無いよね?
私の頭が固いのかしら、、、。
また、私はジード様に指摘されるまで、私の育ったロダン領の不自然さに気付けなかった。
何故なら、何も知らなかったから。
己が無知であることを知らないのは怖いコトだと思う。
ジード様が調べてみようと言うのなら、わが故郷の秘密も是非知りたい。
だけど、こんな簡単に壁に当たるとは、、、、。
私たちは婚約を大々的に発表し、誰が敵なのかを探るという作戦を立てた。
そして今、私たちの婚約を承認してもらうため、神殿に来たところである。
皇帝はジード様が結婚すると言えば、二つ返事で承認の印を下さったとのこと。
案外、しっかりとした親子の絆があるようだ。
しかし、神殿に来てみると何故か教皇が渋る様子を見せて来たのである。
私は下手な口出しをせずにジード様の横に立ち様子を見守っている。
「教皇、承認出来ない理由を聞きたい」
怒りの感情を見せるジード様の言葉を教皇は静かに聞いている。
「ロダン伯爵のお嬢様には複数の相手との婚約誓約書が届いており、いくら皇子殿下でも、すべてを蹴散らして承認するわけにはいきません」
えっ、複数?どういう事。
私の顔が怪訝な表情になっていたのことに気付いたのか、教皇は私に向かって口を開いた。
「お嬢様のお父上が、どうやら複数の方とお嬢様の婚約を認めて書類にサインをされています。わたくし共は意図も分からず困っております。この国では重婚は認められません。一度、ご家族でよく話し合われた方が良いのではないでしょうか?」
まるで、私が恋多き乙女のような言いぶりをされて、スゴく嫌な気分になった。
クズ父は一体何を目指して娘を安売りしているのだろうか。
「教皇、アリスティアはその他の婚約者と言われる男たちとは面識もない。棄却でいい」
久しぶりに見る無表情で、ジード様は冷たく言い捨てる。
「しかし、王族には乙女しか嫁げないのです。この方では不味いのではないですか?」
教皇は、私をものすごーく嫌な目で見て来た。
そうね、それが本心なのね。
「また、第二皇子メルロー様のお相手としてリストにも上がってらっしゃるのですよ。とんでもない女性ですよ」
私を目の前に失礼な発言が止まらない教皇にブチ切れそうになるが、ジード様が私の手を強く握って、それを止める。
「メルローのお相手?いつそんな話になったんだ」
「5年ほど前に作成された候補者のリストに載っていらっしゃいます。全部で3名のお名前が挙がっていらっしゃいますが、他の2名は他国の王女殿下です。伯爵令嬢だけ格が違うので、最初からおかしいと思っていたのです」
「5年前だと?その時点でロダン伯爵に話は?」
「勿論、話は行っていると思います」
嫌な予感しかしない。
多分、ジード様も同じことを思っていそうな気がする。
「分かった。しかし私は今日ここで承認を命令する。皇帝陛下の印も、もらってきた。断ることは許さない」
おお、ジード様強い!流石第一皇子なだけはあるな。
私は他人事のように横で感心する。
「ですが、この者が乙女であると言う証明がありませぬ。神殿は皇子殿下の相手には乙女しか認めません」
教皇は強気の発言をして来た。
「分かった。証明すれば必ず承認すると約束せよ」
冷たくジード様は言い捨てる。
「約束します」
教皇も強く答える。
「アリス、後ろを向いて」
ジード様に言われて私は後ろを向いた。
今日の私は侍女服では流石にマズいので、シフォン素材で胸元まで詰まったドレスを着ていたのだけど、ジード様は躊躇いなく後ろの留め金を外し、ファスナーを突然下げた。
「ええっ!」
驚きで思わず声が出た。
「大丈夫、印を見せるだけだから」
ジード様はそう言うと教皇に私の背中を見せた。
しるしって、いったいどんなヤツなのだろう?
この前は追跡するために付けるって言ってたけど、、、怪しいわ。
「確認しました。承認いたします」
さっきまでの強気がウソのように教皇が婚約の承認を了承した。
そして、私たちの持ってきた書類に教皇の印が押された。
「殿下の未来に栄華が訪れますように神殿一同お祈り申し上げます」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
最後は二人でお礼を伝えて終わった。
これで晴れて私たちは婚約者となった。
明日、国内外にこの慶事を発表するとのこと、さて、皆がどのような反応をするのかが楽しみだ。
帰り道の馬車で、、、。
「ジード様、第二皇子のメルロー様とは、どういうご関係なのですか?仲が悪いとか?」
私の質問もだいぶん遠慮が無くなってきているという自覚はあるけど聞きたい。
「メルローは普通。母親は気が弱いというか操り人形のような方だと思う」
辛辣だわ。
「それで、操っているのはどなたなのでしょう?」
私はジード様の顔を覗き込んで聞いた。
「ブルボーノ公爵。王妃の父親で宰相」
はぁ?それって、、、。
「結構中枢にいらっしゃる方なのですね。驚きました」
この国マズくない?
「アリス、危険なミッションだろう?」
多分、私の不安は顔に出ていたと思う。
「ええ、身震いしてしまいますね」
「大丈夫、僕には勝てないよ。あの人は」
随分強気な猫皇子に少し和む。
「私は報酬に期待しておきますね」
「ああ、期待しておいて」
実はまだ1ジルットも貰ってないと私が気付くのはまだ先だった。
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