第14話 縄は痛い

 寒いと感じて身をよじった。


目を開けたけど何も見えない。


もしかして目隠しをされている?


私の両手はどうやら一つに結ばれて頭の上にあるようだ。


床には、、、足で探るとカーペットの感触がする。


えっ?感触がすると言う事は素足?


私はドレスを着てない??


一体どうしてこんなことになったのか、私は必死に思い出そうとする。


 

 来客があるとジュリアンが呼びに来て、玄関ホールの方へ向かった。


「ご主人様のサインが入った婚約誓約書をお持ちになられているのですが、先方の様子がおかしいのです。屋敷の中には入れず、ロータリーでお待ちいただいています」


ジュリアンは歩きながら、早口で説明してくれた。


「分かったわ。いざとなったら防御魔法も使えるから心配しないで」


私も早口で答える。


「はい、くれぐれも気をつけて対応致しましょう」


私たちが玄関からロータリーへ出ると、そこには私よりかなり年上のオジサンと用心棒のような男が二人立っているのが見えた。


私たちが近寄るとオジサンは急に手元から何かを出した。


刹那、私とジュリアンは眩い光を浴びた。


そのあとは覚えていない。


恐らく気を失ったのだと思う。


この状況は拉致?ジュリアンはどうしたのだろう。


もうクズ父、ムカつく!一体どんな基準で相手を選んでいるのよ!




 それにしても寒いな、この部屋。


寒さで身震いしてしまう。


「すみませーん!どなたか居ませんか?」


人の気配もない部屋で取り敢えず話しかける。


凍死なんてしたく無い。


「とーっても寒いです!誰か―!」


何回か叫ぶと廊下から足音が聞こえて来た。


足音はこちらは近づいて来て、ガシャっとドアが開く音がした。


「すみません。寒いので毛布をください」


私はここぞとばかりに訴える。


「アリスティアちゃん、寒いなら私が温めてあげよう」


聞いたことのない野太い声。


ゾ~っと背筋に寒気が走る。


危ない奴に拉致されているという考えが寒さに負け、抜けていた。


「いえ、結構です」


「いや、今寒いって言ったじゃないか」


相手の声が少し怖い声に変わる。


私の方へ足音が近づいてくる。


「あ、あのー、あなた誰ですか?拉致監禁は犯罪ですよ」


なけなしの勇気を振り絞って声に出す。


「君を伯爵から買ったのだから、監禁なんかじゃない」


「買ったですって!?婚約者を探しに行くと言うのは聞いたけど、娘を売るなんてアイツ馬鹿なんじゃないの?」


腹が立って暴言を吐いたが、もう私に逃げ場はない。


「元気が良くていいね。いろいろ教えるのが楽しみだよ」


何うっとりした声を出しているのよ、気持ち悪い。


吐きそうな気分と絶望感で気を失えるなら失いたい状況だった。


すぐ横に気持ち悪い男の気配を感じる。


ギュウっと抱き着いてきた。


オェッ、あー!もう無理、絶対無理。


そう思ったら、ギャー!!という声と共に気持ち悪い男が何処かへ飛んで行った。


あっ防御魔法、すっかり忘れてた。


「小賢しい。防御魔法なんか使いやがって。魔封じの魔道具は何処だ!」


ガザガサと物音がし出す。


「よし、これだ!」


えっ?と私が思う間に腕にチクっと痛みが走った。


ウソよね、魔封じとかされたら、もうまな板の鯉だわ。


また足音が近づいてくる。


再びギュウっと抱き着いて来た。


伝わってくる温かさがおぞましい。


耳元に荒い鼻息も聞こえてくる。


嫌だ!気持ち悪い!!


もうヤダ!助けて!!


ジード様!!マルリー!


突如、烈風が吹く。


私の体は浮きあがった。


抱き着いていた気持ち悪い男は、またどこかに飛ばされた。


私も体を床に打ち付けられる覚悟をしたが、何かにフワッと受け止められる。


そしてゆっくりと床に降ろされ、すぐに目隠しを外された。


そこには見覚えのある美しい男が悲しそうな顔をして、私を見つめていた。


「アリス」


ジード様は、私を強く抱きしめた。


聞いたことのある声に安堵し、目の奥から涙が溢れだしてくる。


ジード様は嗚咽の止まらない私を抱きしめたまま優しく背中を撫で続けてくれた。


ようやく、呼吸が整い涙が落ち着きを見せた頃、私はゆっくりと室内を見回した。


あの気持ち悪い男は気を失ったまま拘束されていた。


室内は何が何処にあったのか分からないくらい、メチャクチャになっていた。


私の両手首にかけられた縄は天井に結び付けられていて、ジード様が魔法で切ってくれた。


そして縄を掛けられていた両手首の皮がむけて赤くなっていたところも、何かの呪文を唱えながら手首に口づけをして治してくれた。


また我が身はドレスを脱がされ、コルセットとペチコートという状態にされていたのには驚いた。


本当に気持ち悪い。


ジード様が助けに来てくれなかったら、もう、、、想像もしたくない。


そのジード様は私をずっと抱きしめていてくれている。


温かい。


「あの、ジード様、助けに来てくれて、ありがとうございます」


ようやく口に出せた声は自分が思っていたより震えていた。


「アリス、間に合って良かった」


ジード様が発した言葉も震えていた。


私も怖かったけど、この惨状を見たジード様もショックを受けたのだと思うと胸が痛い。


ジード様は抱きしめていた私をそのまま抱き上げる。


ジード様の肩にマルリが飛び乗った。


「アリス、戻ろう」


優しくそう言うと、ふわっと浮いた感じがしてビックリして目を閉じた。


目を開くと水の離宮のジード様の部屋だった。


私もロダン伯爵家には何となく戻りたくない気分だったので、ホッとした。


ジード様は黙って私を抱き上げたまま、バスルームのドアを開けて中に入る。


「ジードさま、何を?」


何をしようとしているのかさっぱり分からない私は焦る。


ジード様はバスタブに手を翳して、お湯を張った。


そして、私を抱き抱えたままバシャンと入った。

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