第13話 異なる歴史
私たちはジュリアンが入れてくれた紅茶を飲んでいた。
お茶請けはこの地方に昔からある伝統菓子メレンゲクッキーである。
「これはメレンゲクッキーです。良かったらおひとつどうぞ」
私が勧めるとジード様はひとつ手に取って食べた。
「美味しい、、」
良かった、お気に召したようだ。
「ジード様、先ほどの歴史の件がとても気になります。この王城を把握されてなかったのですよね?バルロイ帝国に於いて、そもそもロダン領はどういう扱いなのでしょうか?」
マルリが不在だし、今は話に集中してくれるといいのだけど、、、。
「ロダン領は80年前にサム・ロダンという男が開拓したと習った。昔から、ここは険しい山に覆われていて、人々が住んでいない土地として認識されていた。今もロダン領は人口も少なく主要産業もないから、ほとんど国への納税も発生していないと思う。国としては水源地としての役割しかロダン領には求めていない」
「水源地ですか。ロナ川の起点は確かにありますが、激流過ぎて、私達は上手く活用出来ていないです」
ジード様は真剣な顔になる。
「活用しなくても、ロナ川の水源を保護するだけで、ロダン領の価値は充分ある。僕は逆にアリスに聞きたい、ロダン公国とは?」
「ロダン公国は80年前にバルロイ公国に併合される前までは独立した国家でした。ただ、先ほど認識されてないと言われて、急に自信が無くなりました」
私は弱気な回答をした。
「何かを守っていたのかもしれないよね。存在を消しているのだから」
ジード様が首を捻る。
「そんなに大変な家系という感じもないですけどね」
私は首を傾げる。
「僕が執拗に調べて暴いてしまって良いのか?という気もする。実際にアリスの存在も知らなかったし、ロダン伯爵とも面識があるだけで、この領地のことは何も知らないから」
まあ、私は金銭的事情が大半で、その存在を隠されていたわけでも何でもない。
「私はお金が無くて外出がままならなかっただけです。それと遺跡を見て回るくらいなら問題は無いと思います。この後、行ってみましょう。私も少しは知りたいですから」
私の提案にジード様は頷いた。
最近、会話が続いて嬉しい。
そういえば、マルリはどこにいったのだろう。家の中で迷子になっていないといいのだけど。
この旧王城はボロいけど、広さだけあるから、、、。
私とジード様は建物の地下へと降りる階段の前にやってきた。
「この階段を下ると白い洞窟とその先に封印された場所があります。封印された場所は入れませんが、その手前までは自由に見学できるので行ってみましょう」
私は暗闇に進む前にランプをジード様へ手渡そうとした。
「大丈夫、灯りはいらない」
ジード様は手のひらの上に光の玉を作った。
何と便利な!
「では、これは置いていきますね」
私は足元にランプを置いて、階段を下り始めた。
階段は大きな洞穴の壁に作られていて、右側に行くと落ちてしまうので私は左側の壁沿いをゆっくり下りていく。
後ろからジード様が付いてくる。
いつもより明るいおかげで遠くまで良く見渡せる気がする。
「ここは塩の洞窟?」
後ろから小さな声がした。
「そうですね。白の洞窟と呼ばれていますけど、壁で光って見えるのは多分岩塩だと思います」
「埋蔵量が多そうだけど、これは産出したりしないの」
ジード様が質問して来た。
「そういう話は出たことが無いです。恐らく輸送が難しいのではないかと思います」
「そっか」
壁伝いにゆっくり階段を下りて、昔から封印の扉と呼ばれている場所の前にある魔法陣へ辿り着いた。
「アリス、この魔法陣は何?」
「これは太古から触れてはいけないと言われている魔法陣です。しかしながら、幼少期にあまりに気になって触れてみましたけど、反応はなかったです」
私は魔法陣を指さしながら言う。
「僕が触っても?」
「どうでしょうか?勝手に許可を出して良いのかも分かりません」
私は首を捻る。
お互いにしばらく思案する。
「今は辞めておこう。何か良くないことが起きてもいけない」
ジード様は無闇に触らない事を選んだ。
私と違って、慎重だ。
「そうですね。深く考えていませんでしたが、とても怪しいですよねココ」
私はこの王城で長年生活して来た。
こんなに身近に不審なものがあるのに全く気にしていなかったことが改めて気持ち悪いと感じた。
今度クズ父に会ったら聞いてみよう。
彼が何か知っているのかは分からないけど。
「なーん、にゃーん」
あれ?この声は、、、。
「マルリ!?」
何処に行ったか分からなくなっていたマルリが、階段から下りて来た。
直ぐにジード様がマルリへ近づいて抱き上げる。
私もジード様に駆け寄り3人で階段を上って遺跡を後にした。
「お嬢様、ご来客です」
貴賓室まであと少しと言うところで、執事のジュリアンが私を呼びに来た。
ん、この王城で私に来客なんて、初めてじゃない?
「どなたがお見えになったの?」
ジュリアンに聞き返す。
「お嬢様の婚約者と名乗られる方が来られているのですが、、、」
ジュリアンは困った様子を見せる。
もしかすると、クズ父が勝手に決めた相手かも知れない。
「婚約者、、、」
後ろでジード様が何かを呟いたが、よく聞こえなかった。
「大丈夫です。断ってきます!ジード様は話がややこしくなるといけないので貴賓室で待っていてください」
私は一方的にそう言うとジード様とマルリをそこへ置いて、ジュリアンと共に来客の元へ向かった。
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