第11話 素敵な首飾り

「アリス、ありがとう」


 部屋に戻ると、ジード様からお礼を言われた。


「あのような感じで良かったですか?」


私は恐る恐る尋ねる。


「ああ、充分だよ」


ジード様は柔らかな表情でそう言った。


あー、ホッとした。


、、、心底ホッとした。


「これで今回のミッションは終わりですね?」


確認のためにジード様に問う。


「・・・今回の任務は終わりだけど、全体のミッションはまだ終わらない」


むむむ?何?全体のミッションって?


「ええっと、今回の任務と全体のミッションって使い分けられていますが、私の報酬はどうなるのでしょう?」


お金のことばかりでカッコ悪いけど、こちらにも事情があるので譲れない。


「1億ジルット?」


「はい」


ジード様は私に向かって近づいて来る。


えっ、何?


彼は私の胸元を無言で指さした。


しばしの沈黙が2人の間に流れる。


「あのう、換金、、、」


私は弱弱しく口にする。


「アリス、大切にしてくれるって言っていたよね」


「揶揄っていますよね?」


私は恨めしい気分をジード様にぶつける。


ジード様は私に再び手を伸ばし、私の頭を撫でてくる。


「心配しないで、報酬はジルットで渡すから」


「ううう、お金持ちが貧乏人を弄んでくる、、、ズルい!」


私は悔しいそぶりを見せた。


そんな私の様子に全く動じていないジード様は唐突な事を言い出す。


「帰りにアリスの故郷に寄ろうと思っている。案内して」


突然、話題を変えて来たー!?


「えっ、何故?」


私の返しも空しく、ジード様は足元にいたマルリを撫で始める。


またもや返事は無しなのかと思いきや。


「秘密」


ジード様は口に人差し指を添えて言った。


そのあとはマルリに夢中で全然相手にしてもらえなかった。


もう最悪。


ジード様が我が家のクズ親父に鉢合わせたら、どうしよう。





「陛下、ジルフィード皇子殿下がお見えになられました」


「ああ、入ってくれ」


 国王陛下と面談の約束をしていたジルフィードは、“先日ソフィー王国で密偵が調べて来た件”を話すため応接室へと出向いた。


「こんばんは」


ジルフィードは、部屋に入り簡単な挨拶をした。


国王陛下はソファーに座り、氷の入ったグラスにブランデーを注いでいる。


テーブルには特産品のチーズやナッツがキレイに盛り合わせてあった。


国王はジルフィードをソファーに座るよう促す。


彼がゆっくり着席すると国王は、待ち構えていたかの様に話し出した。


「殿下に婚約者がいるとは全く知らなかった。アリス嬢はいろいろと博学で話していて楽しかったよ。殿下、何処で知り合われたのです?」


ジルフィードは何も答えず、クスっと笑ってかわす。


「これは立ち入りすぎてしまったようだ。失礼」


国王はすぐに詫びる。


「いや、構わない。そろそろ本題を話してもいいだろうか」


ジルフィードが無駄な話はしないと言う姿勢を見せる。


「我が国にとっていい話ではないと言うのは分かっている。少し怖い気もしている」


国王は話しながら、ジルフィードへブランデーの入ったグラスを渡した。


しかし、ジルフィードは受け取ったグラスに口を付けず、そのままテーブルに置く。


「母の毒殺に、こちらの国の侯爵が関わっている件を過去にお伝えしましたが、今回は彼らの資金源について分かったことがあります。最近、サバラン王国で子供の誘拐が増えていませんか?」


「殿下、隠しても、すでに調べているのだろう?ああ、実際に増えている。主に孤児院からの連れ去りが多い」


「その子供たちソフィー王国で奴隷売買にかけられ、第三国に輸出されていると報告が上がりました」


それを聞いた国王は顔色を変えた。


「奴隷だと?この大陸では奴隷売買は禁止されている。なるほど他の大陸に売り捌いて監視の目を欺いていたということか」


「ええ、そうでしょうね」


「それは我が国の侯爵一派が関わっていると見て良いのか?」


「私もすべてを把握しているわけではありませんが、主導しているのは間違いないでしょう」


「分かった。奴隷売買の件については私が責任を持って引き継ぐ。他にも何か気になる話などあるのだろうか?」


「そうですね、取り急ぎと言えば、私は婚約者が決まりましたので王配にはなれません」


急にジルフィードが自分のことを言い出したので、国王は驚いた顔をする。


「あれは、そちらの宰相が無理に話を通して来たのだよ。私は娘が女王になりたいと言えば、結婚相手は自分で選ばせるつもりだ」


国王は、この話に乗り気ではなかったとアピールして来る。


ジルフィードはこの件はもう大丈夫だなと安心した。


宰相の悪だくみもアリスと婚約したことを発表すれば少しは落ち着くだろう。


今回はアリスも精一杯頑張ってくれたと思う。


「その際は私も力添えする」


ジルフィードは国王に約束した。


「ありがとう。よろしく頼む」


国王陛下が念押しして、二人の話は終わった。



 ジルフィードが去った後、国王は一人で様々な思いを胸にブランデーを傾ける。


娘が女王になりたいと言うのなら、私はそれまでにもっとこの国をしっかり治めなければ、、、。


本音を言えば、あの優秀な皇子が喉から手が出るほど欲しい。


だか、彼はこのような小さな国のトップで納まるような器ではないとも充分理解している。


そして、我が国の言葉も流暢に話す聡明な伴侶を見つけたというのだから、未来のバルロイ帝国は栄華を築くだろう。


サバラン王国の夜は更けていく。

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