第10話 晩餐会
国王陛下の晩餐会に招かれた私は当日の朝から用意に取り掛かった。
とはいっても、貧乏伯爵令嬢の私はこんなに本格的な支度をするのは初めてで、まずお風呂とマッサージから始めましょうと侍女たちに言われた時は、カルチャーショックを表に出さないようにするので必死だった。
コルセットも時間をかけて締めるものとは知らなかった。
でも、侍女たちの腕がいいのか、そんなに辛くなくて驚いた。
ドレスを纏い、長い髪はハーフアップで素敵な編み込みをしてもらい、ようやく準備完了という頃にジード様が部屋へやって来た。
「皆、ご苦労様」
彼はおしゃれな箱に入ったお菓子を侍女たちへの差し入れに持ってきた。
侍女たちから歓喜の声が上がる。
「それからアリスには、これを、、、」
ベルベット張りの3段箱をジード様は侍女に渡した。
侍女が丁寧に開けると、一番上にはイヤリング、二段目にはブレスレットと指輪、一番下の引き出しにはネックレスが入っていた。
どれも大きなブルーダイアが使われていて、初めて目にする豪華なアクセサリーに、私は価格の予想もつかない。
「こんな立派な宝飾品は初めて見ました」
私は素直な感想を述べる。
ジード様は私に微笑んで、甘い言葉を吐く。
「これは僕から君に」
侍女たちが騒々しく色めき立つ。
「出来れば換金したりしないでね」
ジード様は私の耳元に小さな声で囁いた。
ゴフっ、思わず変な咳が出た。
「そんなことしません。一生大切にします」
私は思わず、小声で言い返す。
これは勿論、本心だった。
大切なものを換金して後悔するくらいなら、私は働く!!
ジード様は私の言葉を聞くと、再び柔らかく微笑んで、その場から颯爽と立ち去った。
侍女たちが口々に好き勝手な事を言う。
「愛されてますね」
「甘ーい!!」
「素敵だわ」
「私も欲しい」
私は耳元で囁かれたイヤミが引っかかって、微妙な気分だったけど。
この差し入れ一つで侍女たちが良い雰囲気になって、最後まで楽しそうに私の支度をしてくれた。
そんな侍女たちの様子を見て、改めてジード様は本物の皇子様なのだなと感じた。
こちらはメインディッシュのラム肉のローストで、ございます。
添えてありますのは、バジルのソースと根菜のソテーになります。
サバラン王国の国王陛下による晩餐会は王族のプライベートエリアでこじんまりと行われた。
テーブルの向かいにはサバラン王国の国王と王妃様、マドレーヌ王女が座っている。
私たちは簡単な自己紹介をして、早速サバラン王国自慢の食材を使ったコースをいただいているところだ。
「ああ、このラム肉はクセもなくてとても柔らかいですね。添えてあるバジルのソースもとても合います。美味しいです」
私はお料理を率直な感想も添えて褒めた。
横に座っているジード様も頷いている。
「アリス殿は食に詳しいな。そのラム肉は鮮度を保つために解体した後は冷やして運んでいると聞いている」
「サバラン王国は輸送まで気を配られているのですね。我が国も、サバラン王国の良いところは、是非見習いたいと思います」
私はそう答えながらも国王陛下が料理人の努力まで言及することに驚いた。
この国王は国民を大切にしているのだなと感じる。
「デザートは我が国の特産物としても有名なチーズを使ったものを予定している。そちらの感想も是非聞かせて欲しい」
何ですって!!
「チーズ!ですか?チーズは大好きです。私の故郷でも生産量は少ないのですが、モッツアレラチーズを作っています。毎朝トマトと一緒にカプレーゼで食べていました」
「ほう、モッツアレラはマドレーヌも大好きなチーズだな」
国王陛下はマドレーヌ王女に話を振った。
「はい、わたくしも好きです。中からクリームが出てくるブラータが特に、、、」
マドレーヌ王女は緊張の面持ちで答える。
「あー!いいですねブラータ!私も大好きです」
私が返事を返すと頬を赤らめる。
マドレーヌ王女はとても可愛いお嬢さんだった。
そう、お嬢さん。
其の実、彼女は御年10歳の可愛らしいお嬢さんで、ジード様と婚約者にするには若すぎた。
それが原因なのかは分からないけれど、国王陛下はジード様が私を連れて来たことも、好意的に受け止めて下さったようだ。
実際、私に対して、とても友好的に接して下さっている。
それよりも、ジード様に対して国王陛下が緊張している様子が気になる。
私の知らない何かがあるのかしら?
「ジード様は好きな食べ物とかは無いのですか?」
私が何も考えずに発した言葉で食卓がシンとなった。
「毒を盛られる可能性があるから答えられないな」
凍りそうな冷たい声で答えたジード様は視線を国王陛下に向けている。
これは地雷というやつですかね?
「ジルフィード皇子殿下、その件は大変申し訳なく思っている、お詫び申し上げる」
えっ、サバラン王国の国王陛下がジード様に謝っている。
これはどういう、、、後で聞かないと。
「国王、詫びは受け入れている。しかし、母上のようにアリスティアを失う訳にはいかない。最近、ソフィー王国と我が国のネズミが相変わらず手を組んでいるようだ。後で詳しく話したい」
「分かった。後ほど時間を取ろう」
国王陛下とジード様が約束を交わしたところで、王妃様は皆のお皿を見回して、タイミングよく話題を変えた。
「さあ、皆さまそろそろデザートにいたしましょう。お飲み物は何がよろしいかしら?」
王妃様は皆の飲み物のオーダーを取り纏めて、給仕に伝える。
そして、デザートとして運ばれてきたのはティラミス!!だった。
ビバ!マスカルポーネ!
お肉料理の後のそれは丁度良いボリュームの上、コーヒーのほろ苦さもいい塩梅で、とても美味しかった。
ティラミスへの感激を私が必死に語ると、王妃様も話に乗って来てくださり、私たちはお菓子談義で盛り上がった。
その間もジード様は横で静かに食事をしていた。
後で私、怒られたりしないわよね?と少し不安になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます