第7話 高額報酬

「は?王女?」


「ニャー?」


 いやいや、マルリには聞いてないから!!


「今、サバラン王国って言いましたよね?」


ジード様は私の質問をスルーして、マルリに手を伸ばそうとした。


バシッ!


私はジード様の手を叩き落とした。


「マルリより私の質問が先でしょう?何故、無視するんですか!これから隣国に行くというのに打ち合わせもせずに行って、上手くいくはずがないです。知っていることは教えてくださいよ」


ジード様は相変わらずの無表情で私を見ている。


「マルリが・・・」


ジード様は何かを言いかけたけど、私はまたもや彼の言葉を遮って詰め寄る。


「今はマルリじゃなくて私優先です!」


ジード様はため息を吐き、私の方を見た。


膝の上に座ったままなので、彼との距離はとてつもなく近い。


彼は私の頭を撫でてから、私をギュッと抱き寄せた。


「ちがーう!!ジード様、違いますって!愛でて欲しいのではなくて、隣国のことをもっと教えてくださいよ。このままでは任務が上手く行きませんって!!」


ジード様の胸を押し返しながら、私はしつこく訴える。


「アリス、逃げないの?」


不思議そうな顔をして、ジード様が私に聞いてきた。


「何で逃げるんですか?報酬をもらいたいので逃げないですよ」


私は質問の意図が分からず、困惑した顔で答える。


「ふーん、じゃあこのまま行く?」


「行きますよ」


おっ!珍しく会話が続いた!!


「後悔しない?」


「500万ジルット欲しいです」


そこは譲れない。


「もう少し金額増やしたら?」


「えっ!いいんですか?」


ビックリ!ジード様って、案外いい人?


「アリスが必要な金額は?」


ストレートな質問が来たー!!


「1億ジルットです!!」


この際だ!と思い、必要な額より2割増しでしれっと答えてみた。


「分かった。このミッションが全て終わるまでの契約でその額を払う。ただし途中で投げ出したら払わないから、、、それでもいい?」


うっそー!!ジード様って神?


「ハイ!ガンバリマス!!それでよろしくお願いいたします」


私は即答した。


「アリス、もう少し色々と疑う事を覚えた方がいい、、、」


ジード様が呟いた声は、高額報酬でテンションが上がっていた私には届かなかった。


そして、ジード様の膝に堂々と乗ったまま、眠りこけてしまったことに気付いたのはだいぶん後だった。




 サバラン王国との国境にある町の宿に到着し、従者が馬車のドアを開けるとジードは眠ったアリスを横抱きにしたまま降りて来た。


隣国バルロイ帝国の第一皇子を迎えようと集まっていた民衆は騒然とする。


皇子は民衆を見渡し、微笑みを返した。


馬車の中からマルリも、ひょいっとジードの肩に飛び乗った。


そのまま、ジードは宿の方に向き直り、アリスを抱きかかえたまま宿に入る。


宿の扉が閉まると辺りは騒然となった。


「皇子殿下カッコいい!!」


「あの女性は誰だ?婚約者か?」


「顔が見えないけど美人なのか?」


「我が国との縁談の話はガセネタなのか?」


「抱きかかえられてみたーい」


などなど、、、。


ジードの腕の中で眠るアリスは何も知らないのだった。





目が覚めると、雲の様にふかふかなベッドの上だった。


えっ?ここは何処?んー。


寝ぼけた頭で部屋を見回す。


ソファーに座って何かを読んでいるジード様が見えた途端、意識が鮮明になった。


バサっと起き上る。


「ジード様すみません。すっかり眠ってしまったみたいで、ご迷惑をおかけしました」


ベッドの上からお詫びを告げる。


本当は目の前に行って謝りたいのに、靴が見当たらなくてベッドから降りれない。


「みゅー!」


マルリの鳴き声がした。


ジード様はマルリのいる場所へ立ち上がって進む。


彼は屈んで何かを手に持って、こっちに向かって来る。


あっ、私の靴を手に持ってる。


そして、何も言わず私の前に跪いた。


彼はなんの躊躇もなく私の足に靴を履かせ始める。


「えええ、ジード様!それは流石に申し訳ないので、自分で履きます!」


「ふーん、気にするの?」


「気にしますよ!一様、18歳の乙女ですから、、、」


その言葉を聞いたジード様の手が止まった。


「アリス、18歳?」


「はい、18歳になったばかりです。もう結婚出来る年ですよ」


ジード様のとても驚いた顔は新鮮だけど、彼には私が一体何歳に見えていたのだろう?


「ジード様って、おいくつなのですか?」


とても落ち着いた感じの彼は一体何歳なのだろう?


「聞かない方が・・・」


「えっ、またそのパターンですか?年齢くらい、いいじゃないですか」


私は呆れて言い返した。


「もうすぐ、、、、18、、」


「うそ!?はっ?同い年ってことですか?」


ジード様は頷いた。


人は見た目で判断出来ないものなのね、、、。


私が考え事をしている間に、ジード様は私の足に靴を履かせて、ソファーに戻っていた。


「あのー、ここはどの辺なのでしょう?もうサバラン王国に着いたのですか」


私は眠っていたので、現状を全く把握出来ていなかった。


「ここは国境沿いの宿屋。サバラン王国の首都には明日には着く」


ジード様がいつになくテキパキと答えてくださった!感動!!


「そうなのですね。では、明日に備えておかないといけないですね。私は部屋に戻ります」


私は扉の前に立ち、部屋を退出しようとした。


「どこに?」


「私の部屋に、、、って、まさか!?」


ジード様は頷いた。




結局、ジャンケンで私がベットを勝ち取った。


そして、ジード様はマルリと仲良くソファーで寝たのだった。

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