第5話 マルリ

「ふぉー!」


 扉を開けて、可愛いお部屋に驚いた!!


私は1日目の仕事が終わって、やっと与えられた部屋に辿り着いた。


隣人がご主人様と言うのは落ち着かないけど、この部屋は一目で気に入った。


壁紙は柔らかなパステルイエロー、床はメープルで室内の雰囲気が明るい。


家具はソファー、ベット、サイドテーブル、本棚、机、書棚にサイドチェストまであって、色はナチュラルカラーで揃えられていた。


ソファの上にあるクッションは可愛い猫の柄、ベッドカバーも白地に優しいピンク色の猫の柄だった。


床に敷いてあるラグはライトグリーンで芝生のようにモフモフしている。


私はこの部屋をネコネコルームと名付けたくなった。


部屋の奥にはドアが2箇所あるので、そちらも開けてみようと歩いて向かっていたら、ベッドの下から三毛猫が1匹出て来た。


そして、ゆっくりと私の方に歩いて来る。


「こんばんは、アリスよ。よろしくね」


私は三毛猫に挨拶をした。


「みゃーん」


おお、お返事までしてくれるとは、、、。


ううっ、撫でるしか無い!!


私は屈んで、三毛猫の喉を優しく撫でた。


うわー、物凄く気持ちよさそうにしてる!カワイイ!!


お腹見えてますよー、ふふふっ癒されるわー。


背中も撫でちゃおう。


このお屋敷に居る猫ちゃんはみんな穏やかで可愛いなぁ。


撫でた後は、三毛猫も私の後ろについて来て、一緒にお部屋を探検した。


2箇所のドアの先は衣装ルームとバス・トイレがだった。


「豪華過ぎる、、、」


思わず私は呟く。


一介の侍女にこのお部屋はどう考えても行き過ぎなのでは?


ご主人様はかなり大金持ちなのかも知れない。



先ほどの書類も国外とのやり取りの様だったし、内容は機密の様だった。


もしかして、スパイとかなのかも、、、。


いや、あんまりそう言うのは立ち入らない方が良さそうだから考えるのは辞めよう。


私はあくまでも実家の借金をキレイに返せればそれで良いのだから、、、。


さて、疲れたからお風呂にでも入ろうかな。





 すっかり、熟睡してしまった。


この部屋のベッドの寝心地の良さよ、あー!よく見たらダブルマットだ。


実家ののベッドと全然違うハズだわ。


実家はクズ父がここ数年で立て続けに詐欺にあって、一気に借金だらけになった。


お母様は病気がちながらも凛としていて、領地の人達を路頭に迷わせる様な事は絶対しないと先祖代々の宝物も全部売り捌いてお金にしてしまったのよね。


今思えば、売り捌く前に国に相談したりした方が良かったのかも知れないなぁ、、、。


何も残ってないから、どうしようもないもの。


まぁ、私には何の力もなかったし、後悔しても仕方ない。


室内に置かれている時計を見ると7時半だった。


今日の段取りとかは、どこで聞いたらいいのかなぁ?


とりあえず、食堂に行ってみようかな。


さて、起きて準備しますか。


私は衣装ルームに用意された制服を手に取って、バスルームに行った。


顔を洗って、髪をとかして、制服に着替えてからハーフアップにする。


お化粧は顔色を良くするために軽くてチークを乗せて、唇には薄いローズ色のリップクリームを塗った。


仕上げに伊達メガネ。


良し、これでオッケー!


準備が整ったので、部屋を出ようとしたら可愛い声が聞こえた。


「にゃーん」


三毛猫は付いてこようとする。


「あら、あなたもお出かけするのね」


私は扉を開けて、先に三毛猫を廊下に出した。


「マルリ、、、」


廊下に出るとご主人様もお部屋から出て来たところだった。


三毛猫をマルリって優しく呼んで、抱っこした。


そうか、この三毛猫はマルリってお名前なのね。


「おはようございます。ご主人様」


「、、、おはよう」


だいぶん間があったけど、取り敢えず挨拶は返してもらえたので良かった。


「あの、朝から私は何をすれば良いのでしょうか?」


仕事の段取りを何も知らない私はご主人様に質問してみた。


返事がない。


困ったなぁと思って首を傾げると、ご主人様はマルリを床に降ろして、私の前に手を差し出した。


私もまた条件反射でのせてしまった。


すると、わたしの手を掴んでご主人様は歩き出す。


私はそのまま一緒に歩いた。


辿り着いたのは、食堂だった。


食堂には先に執事さんと配膳をしているボブさんが居た。


今、ここに4人いるということは、このお屋敷の全員が揃ったのだと思う。


それより気になったのは、先にいた2人のわたしたちに向けた視線が変な感じだったことだ。


「ジード様、アリスさんと仲良くされている様で良かったです」


執事さんはニコニコと私達に向かって言う。


仲良くとは?何処が?と私は首を傾げた。


「執事、余計なことは言わないのが1番ですよ」


ボブさんが執事さんに言った。


よく分からないけど、私はそのままご主人様に椅子までエスコートされて座る。


「揃ったからいただきましょうか」


執事さんは全員に声を掛けた。


大きなお屋敷とは対照的にとてもアットホームな朝ごはんが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る