第4話 拾ったねこ
ジードは執務室に執事のザザを呼んだ。
「ザザ、あの猫はどうしたの?」
ジードが質問した。
「なかなか良い毛並みの子猫が迷い込んでいるとビビアンから連絡がありましたので、保護いたしました」
ザザは何の躊躇いもなく答えた。
「彼女は侍女をするために来たって言っていた。ザザ、騙したの?」
ジードは相変わらずの無表情でザザに質問を続ける。
「はい、ブルボーノ公爵が怪しい動きをしてますので、例の件は彼女が適任だと思います」
ジードは嫌な顔をする。
ブルボーノ公爵は第二皇子派を取りまとめている野心家の貴族である。
彼は、第一皇子の力を削ぐ事を生き甲斐にしているため、事あるごとにジードへ嫌がらせをしてくる。
つい先日は“ナリス辺境伯にはひとり娘しか居ないため、近々婿を取る”と社交界で噂されていたのだが、その縁談をあろうことか、ジードに持って来た。
要するに第一皇子を王都から引き離したいのだろう、あまりにもミエミエな作戦に清々しさを感じるほどだ。
勿論、丁重にお断りした。
「ザザは極悪だ」
ジードはザザに向かって告げた。
「ジルフィード殿下、今は正念場なのです。強い気持ちでお願いします」
「彼女とは今日初めて会ったけど、どう見ても貴族令嬢だよね、、、」
困った様子でジードが呟く。
ザザはニヤリとして頷く。
「はぁ、どうしよう。女の子と話すの苦手なんだよ」
「そのうち慣れます。ビビアンが潜入調査をしている間にアリスさんと交流されてみたらいかがでしょう?」
「猫なら良いのになぁ、、、」
ジードが呟く。
「殿下、、、」
私は食堂のボブさんと仲良くなりたくて、午後のお掃除を終えてから、食堂を訪ねてみた。
「ボブさーん」
厨房から、ボブさんが出て来た。
「おお、アリスちゃん。お疲れ様」
ボブさんはいい笑顔で挨拶をしてくれた。
「お疲れ様です。お部屋で何か飲める物をいただきたくて来ました」
ちゃんと用事も考えて来た私。
「あー、それならレモン水とかはどう?」
「良いですね!大好きです。あー、ご主人様はレモン水は飲まれますかね?私は来たばかりで、何も知らなくて、、、」
困った様子を全面に出してみる。
「ジード様は特に好き嫌いはないと思うよ。すぐに用意するから、待ってて」
ボブさんは厨房へ行ってしまった。
私は食堂から話しかけてみる事にした。
「ボブさんはこちらでお仕事されてどれくらいになられるのですか?」
「ああ、オレは3年前に王宮の調理場から引き抜かれて、ここに来たよ」
「お、王宮ですか?王宮料理人って、難関試験に合格しないと成れないヤツですよね!ボブさんエリートな方だったのですね」
おおっと、王宮!?
このお屋敷はやっぱり偉い人のお屋敷?
「エリートって言われるとくすぐったいよ」
ボブさんは笑っている。
あー、食堂はオアシス!
執事さんとご主人様が曲者過ぎる、、、。
「アリスちゃん、ほら用意出来たよ」
ボブさんは食堂の隅に置いてあったワゴンにレモンの入った水差しとグラスを乗せてくれた。
「ありがとうございます。では持っていきます」
私はボブさんからワゴンを受け取った。
ワゴンを押して廊下を進むと白いネコが歩いている。
こちらに寄って来て、私の足に絡む。
可愛い!!思わず、しゃがんでナデナデしてしまった。
そう言えば、ご主人様は昨日もネコと遊んでいたわよね。
掴みどころが無いところなんて、彼こそネコみたい。
コンコン。
私は執務室のドアをノックした。
「、、、。」
返事がなーい。
わたしは新人なのだけど、勝手に開けて良いのかしら?
うーん、、、。
とりあえず名を名乗ろう!
「アリスです。ご主人様入りますね」
カシャっとドアノブを回して室内に入った。
あ、居るじゃん!!ご主人様は書類を見つめていた。
ご主人様の背後の壁には作り付けの大きな書棚があって、沢山の書籍が並んでいる。
執務用の机も書棚と同じマホガ二ーで豪華な装飾が彫られている。
広い室内には応接スペースもあって、そちらは一枚皮で作られた上質なソファーセットが置いてあった。
全体的に落ち着いた色目で揃えられていて、とても上品な執務室だと思う。
ご主人様が顔を上げないのを良い事に私は部屋をまじまじと見回す。
カチャ。
音がしてご主人様の方を見ると引き出しを開けて印鑑を押している。
ええっと、本当に私に反応しないけども、こんなに会話も無くて良いのでしょうか?
「あの、、、ご主人様、レモン水をお持ちしました。お飲みになられますか?」
恐る恐る尋ねてみるも。
「、、、要らない」
ガックリ、、、。
まだまだコミュニケーションが取れるまでの道のりは長そうです。
「では、こちらの壁のところへワゴンは置いておきますね。お好きな時にどうぞ、、、」
私は、では失礼しますと言って下がるつもりだった。
「アリス、どこに行くの?」
えっ?誰が喋った?と驚く。
ご主人様が喋った!!!
よく分からないけど感動したわ、私の名前を知っていたのね。
「いえ、特にどこにも行く予定はありません。ご主人様のお仕事のお邪魔になってはいけないので下がろうかと思いました」
「そう。それなら、そこに座って居て」
ご主人様は、ソファーセットを指差す。
ええっと、私は侍女なのですけど、ソファーセットに座っていいのでしょうか?と、経験不足で判断出来ず立ったまま困っていると、ご主人様が席から立ち上がって、こちらへ来た。
私にすっと手を出す。
条件反射のように私が手をのせるとそのままソファーセットの席まで、エスコートされた。
私はその流れで座ってしまった。
ああ、何かがおかしいのよ、何かが、、、。
よく分からないモヤモヤが出て来て悩んでいると、ご主人様は机に戻って仕事を再開した。
私はいつまでここに座って居れば良いのかも分からず、絶望を感じた。
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