第2話 大きなお屋敷

 馬車の車内はとても快適だった。


壁には素敵なランプが付いていて、この馬車は夜も快適に移動出来そう。


私がのんびりと外を眺めていたら、窓を急に黒い布の様なもので遮られた。


な、何事、、、。


幸い室内にはランプがあるので明るい。


むむむ、何処に行くのか分からなくなってしまった。


コレではビビアンさんのところへは戻れない。


やはり高給なりの問題が、それなりにあるのかしら。


結局、馬車は1時間ほどで目的地に到着した。


外から鍵が開けられ、私は馬車から降りる。


「はぁ〜?」


何処かのお屋敷とは聞いていたけど、これは、、、。


お屋敷前のロータリーが普通じゃない!!


軽く50台は止められる。


お、お屋敷?いやこれは宮殿なのでは?


大きすぎる。


キョロキョロと見回してしまう。


「アリスさん、ここがお仕事をしていただく場所になります。ワタクシは執事のザザです」


先ほどのおじいさまは私に挨拶をした。


「執事さん、私はアリス・ローと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


サラッと偽名ではあるけども、これからお世話になる意味も込めて、丁寧に礼をする。


それを執事さんは穏やかな笑みで見ていた。


「では、ご主人さまのところへご案内いたします」


「はい、よろしくお願いいたします」


私は執事さんの後ろに付いて行く。


建物の中に入るとシンプルなのだけど、とても洗練された置物や絵画が飾ってあった。


これをお掃除するとなるとかなり慎重にしなければと見回しながら考える。


執事さんは玄関ホールを抜けて、長い廊下へと進む。


右側にはお部屋が並び、左側には大きな湖が見えている。


この建物はどうやら湖のほとりにある様だ。


執事さんは漸く立ち止まった。


ご主人さまのいる部屋に辿り着いたのかしら。


コンコン、執事さんはその部屋の扉をノックした。




だけどお部屋からは返事が全く無い。


私が首を傾げていると、執事さんは返事がない部屋の扉を開けた。


ノックの意味はあったの?


そんなことを考えながら、室内に視線を向ける。


あっ!人がいるっ!!


「ジード様、新しい侍女をお連れしました」


部屋の真ん中で猫と遊んでいる青年に執事さんは話しかけた。


青年は何も答えない。


えええ、気難しいとは書いてあったけど、口を聞いてくれないのは厳しいわ、、、。


うーん、まずは心を開いてもらわないと、ご主人さまの観察から始めましょう。


「アリスさん、ワタクシは仕事に戻ります。後はジードさまの指示に従ってください。貴方のお部屋はここの隣のお部屋をご用意していますので使ってください。お食事は食堂で自由にしていただいて構いません。この屋敷にはジードさまとワタクシと料理人のボブとアリスさんの4人です。気兼ねなくお過ごしいただいて構いませんので、どうぞよろしくお願いいたします」


えっ、待って!そんな簡単に説明して終わり?


ご、ご主人様と急にふたりきりなんて困りますー!!


内心はとても焦っていたのだけど、クビになる訳にはいかない。


「分かりました。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


私は優雅に礼をして、執事さんを見送った。


ううう、困ったなぁ、、、。


私はドアを、しばらく見つめていた。


「みゃー」


「うわー!!!」


耳元で猫の鳴き声がした。


私はゆっくりと振り返る。


「キャー!!!」


目の前にご主人さまが居た!!!


気配がなくて怖い。


大きな声を二度も上げた私をご主人さまは無表情で見ている。


背筋が恐怖で凍りそう、、、。


ん?でも待って、ご主人様は物凄く美しい顔をされている?


吸い込まれそうな青い瞳に色素薄めの金髪はサラサラしていてかなり長い。


煩悩まみれで、ジーっと眺めていることにハッと気づいた。


でも、相手も私をジーっと見てる。


えっと、ここは我慢比べなのかな?


目を逸らしたら負けみたいな、、、、。


よし!アリス、最初の難関だと思って頑張るのよ!


私はご主人様と見つめ合い対決を勝手に始めた。


煩悩で乗り切る。


美しい顔を堪能させてもらいます。


ああ、なんて綺麗な瞳、まつ毛も長くて自然なカールに色気があるわ。


唇も薄いけどいい形で綺麗な色だわ。


鼻筋も通っていて、小鼻の形が良いわね。


眉毛は、、、、。


「ニャー」


ご主人様のねこちゃんが、鳴いた。


私は不覚にもねこちゃんを見てしまった。


あー負けた。


ひとり相撲で負けてしまいました。


もう、このご主人さま何もしゃべらないのだけど、どうしたらいいの、、、、。


途方に暮れてくるわ。


今も彼は私をジッと見ている。


ピョン!と、ご主人様の茶色い毛のかわいいねこちゃんが腕から飛び降りて私の足元に擦り寄ってきた。


私は屈んで、ねこちゃんを撫でる。


ご主人様は謎だけど、この子は可愛い!!


もう、どうしていいか分からないのだけど、、、。


ダメもとで質問してみる?


「あのーご主人様、私は何をしたら、宜しいのでしょうか?」


恐る恐る聞いてみた。


しばらく待っていたけど私をジーっと見るだけで、返事は全く無かった。


待ってる間に抱き上げた、ねこが可愛い。


取り敢えず、求人票にはお話相手とお掃除がお仕事って書いてたし、お掃除でもしようかしら。


「ご主人様、お掃除いたしますね」


勝手に宣言して、私は部屋を見回す。


机の上に書類が散らばり、床にも落ちている。


あの辺を片付けようかしらと、私は机に向かって歩き始めた。


ご主人様は相変わらず私を観察している。



床に落ちている書類を拾っていると『幼い奴隷を8名王都で保護した』と記載されていた。

文字はこの国のものではなく、少し離れた国で使われているソフィー語だったので、他国からの情報かも知れない。


「幼い奴隷なんて、、、」


私がそう呟くと、急に手首をご主人様に掴まれた。

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