猫と皇子と私のラプソディー
風野うた
第1話 ビビアン人材派遣所
舞台はバルロイ帝国の首都サラン。
美しい白亜の王宮が丘の上に聳え立ち、その下には美しいロナ川が流れている。
この川は水量が多く、船の行き来もスムーズであるため、物流にも人の往来にも都合が良い。
首都サランが、大きな商会の立ち並ぶ街として発展してきたのは、このロナ川のおかげであると人々は良く言うのである。
時の権力者はソル皇帝陛下。
彼にはダリア王妃に1人と先の王妃に1人で、2人の息子がいる。
先の王妃は昨年病で亡くなった。
病というのも真実かは分からない。
しかし王妃が不在という訳にはいかないので、第二妃のダリア様が王妃に上がられた。
今のところ、次期皇帝は宰相の娘であるダリア王妃の産んだ第ニ皇子メルローの名前が良く上がっているようだが、貴族院はそれぞれの皇子を推す派閥で真っ二つに割れている。
貴族達はそのようなギスギスした状態だが、国自体は平穏で隣国との関係も悪くはない。
また、サランの貴族たちは芸術や音楽などへの関心が高く、専門の学院などを経営している者も多い。
この街には大陸中からその学院で学ぼうとする生徒が集まってくるのだった。
そのような理由から、他国ではサランは文化の泉、学びの街とも言われている。
そんな首都サランの街外れにビビアン人材派遣所はある。
所長のビビアンは元々は騎士団の副団長を務めていた百戦錬磨の女戦士で、バルロイ帝国の者ならその名を知らない者はいない。
真面目な彼女は貴族たちの信頼も厚く、遠征などで国の内外を駆け回っていたこともあり、多方面に良い人脈を持っていた。
それ故、ビビアン人材派遣所では様々な良い仕事を紹介してもらえるという話が口コミですぐに広がった。
そして、この日も迷える子羊がひとり、職を探しにやって来たのだった。
「うーん、少しでも賃金が高いところを探さないと、、、」
このおさげにメガネという冴えない格好をして平民を装い、ひとりごとを言いながら壁に貼ってある求人票と睨めっこをしているのは、ロダン伯爵令嬢のアリスティアである。
私の父親は先日、また投資詐欺に騙された。
今回は魔石の鉱山への投資話だった。
もう何度目だろう。
母は昨年病気で亡くなった。
我がロダン伯爵家は、私以外に子供がいない。
大きな借金を背負った父親は、何処かの金持ち令息を我が家に婿入りさせて、借金を払ってもらう魂胆だ。
本当にクズだと思う。
あんなクズ親父に選ばれたら、そのご令息も可哀想だ。
何処かのご令息をクズ親父が見つける前に何とかしなければ、、、。
私は、それなら自ら稼いで借金を返すしかない!と決意を固めてここへやって来た。
結婚なんて借金があるのだから、むしろ諦めた方が良いと思っている。
幸い、貴族としての教育は一通り受けたので、学問、マナーなどの心配は無いと思うのよね。
そう考えながら、求人票と睨めっこするも、、、。
どれも侍女の賃金は生きていくだけで精一杯の金額しか見当たらないわ。
こんなに安い給料じゃなくて、もっと高い給料をくれる職場は無いの?と、掲示板を右に移動してみたら魔物討伐や医療関係ばかりである。
高給な仕事は分かり易く専門的知識や能力が必要だった。
これは無理だわ。
途方に暮れていると、1番奥に掘り出しコーナーという掲示板があるのを見つけた。
ダメ元で見てみることにする。
そこに貼られていた求人票にはこう書いてあった。
高賃金確約。
お掃除とお話し相手。
若干気難しい主人ですが、良い職場です。
寮完備、食事付、制服あり。
1日10万ジルット
先着一名採用。
雇用主 Z
はぁ?10万ジルットって、さっきの侍女仕事の20倍じゃない!!
コレコレコレだ!!
私は求人票を壁から剥ぎ取り、ビビアンさんのいる受付へ持って行った。
「あんた、この求人は高給な分過酷だろうよ。大丈夫なのかい?」
ビビアンさんが、止めてくる。
「いいえ、私はお金がいるので多少の過酷さは我慢します!!」
私もここで断られたら困るので勢いよく言い返す。
「思ったより威勢がいい子だね。まぁ、その勢いなら大丈夫だろう。嫌だったらすぐ辞めていいからね。私はここの旦那とそう言う取り決めをしてるから、安心しておくれ」
ラッキー!取り次ぎをしてもらえる事になった。
ご飯も寮もあって、あのクズ親父と会わなくて良いだけでも幸せだ。
「ビビアンさん、そのお屋敷っていつから大丈夫ですか?私、行けるなら今日からでも行きたいです」
ダメ元で聞いてみる。
「今日かい、ちょっと待ちな。確認するから」
ビビアンさんは奥の部屋に入って行く。
しばらくすると戻って来た。
「大丈夫だとさ、迎えに来るって言ってたから、そこでもう少し待っときな」
「助かります。ありがとうビビアンさん」
「どういたしまして。それと、しつこい様だが無理だと思ったらここに帰って来ていいんだからね」
ビビアンさんは心配そうに付け加えた。
うーん、ビビアンさんが、とても危ないってオーラを出す相手って暴力でも振るうのかな?
それなら大丈夫。
私は防御魔法が得意だから、何とかなる。
攻撃魔法は全然出来ないけどね。
1日でも多く働いて、稼がないと!!
ビビアン人材派遣所の前に馬車が止まる音がした。
どうやら、私を迎えに来たらしい。
「こんにちは、あなたがビビアンさんのご紹介のアリスさんですか?」
白いお髭で品の良いおじいさまが、私に話しかける。
「はい、アリスと申します。よろしくお願いいたします」
私はそう言って礼をした。
おじいさまは、私を見て何か考えている様だ。
えー、断られたら困るのだけど、、、。
「あの、どうしても働きたいので、よろしくお願いします」
精一杯の笑顔で念押しをする。
おじいさまは目をパチクリさせた後、手を差し出した。
私はその手に自分の手を乗せる。
「では、屋敷へご案内いたします」
おじいさまは馬車へとエスコートしてくれた。
そこで驚いたのは、おじいさまも一緒に乗るのかと思ったら、私が乗るとドアを閉められたこと。
おじいさまは、、、アレ?一緒に行かないのかな?
馬車はゆっくりと出発した。
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