第4話

「……少しは人心地がついたかの。なに、礼には及ばぬ。我も久方ぶりに楽しい食事であった。一度ならず二度も三度も我の指を舌で舐め回した非礼を決して怒ったりはしておらぬ。これっぽっちもな。ははは。冗談じゃ。お主がわざとしたことではでないことぐらい分かっておる」


「どうした、そんなに赤い顔をして。ほうほう。今さらながら興奮してきたのか。そうか。お主はそういう趣味の持ち主であったか。なに? 自分はロリコンではない? よく言うわ。我の今の姿は、そうじゃな、せいぜい十歳ぐらいの女童めわらべであろう。これをロリータ趣味を言わずして何をいうというのだ?」


「くくく。お主はからかい甲斐があるのう。うい奴じゃ。よし、決めた。お主は今日から我の下僕じゃ。不死の呪いをかけてやろう。これでもう自ら命を絶とうとしても無駄じゃぞ。死ぬことはかなわぬ。しかも、痛みや苦しさだけは感じるという極悪な仕様じゃ。ふははは。恐ろしいであろう? もう諦めて大人しく家に帰るがよい」


「なんじゃ。頼むから呪いを解いて欲しいと? ほれ。何か忘れておらぬか。頼みごとをするには貢物をせんとなあ。なにもお供え物をせずに我に願い事をするほど、お主も厚顔無恥ではあるまい? なにをぶつくさと呟いておる? 勝手に呪いをかけておいてと言うのか?」


「あー。人の子に指先を舐められて汚れてしもうたなあ。これはなんという不遜な行為であろうかのう。これは非常に由々しきことだなあ。ん? 棒読みの脅しはやめてくれと? ほう。我が脅しだけで済ますと思うておるのか。一応念のために言うておくが、我は神ぞ。人の分際で我を推し量ろうとは笑止の極み」


「うむ。分かれば良いのじゃ。我もそこまで非情な存在ではない故な。心を入れ替えて詫びるというのであれば、そうよなあ。また来月も、ここへ参上せよ。今度はお主が食べるものを用意してな。別に寿司でなくてもいいぞ。ん? 何か好みのものは無いのかとな? 我はな、健康優良で表彰されたこともあるのじゃ、好き嫌いなく何でも食べるぞ」


「かえって選びにくいか? まあ、頭を絞って考えるがよい。ほれ、お主は先ほど女子とつきあう時間もないと言うておったろう。ランチデートと思えばいいのじゃ。相手が喜んでくれるか悩みながら選ぶ。これぞまさにデートの下準備の醍醐味であろう。我も楽しみにしておるぞ」


「そんなことを言われましてもという顔をしておるな。デートの一回ぐらいはしたことがあるじゃろう? ない? 何を胸を抑えて苦しんでおるのだ? 心の傷を抉るなと申すか。ふむ。それは詫びよう。しかし、まあ、良いではないか。我とまた食事ができるのじゃぞ。嬉しかろう? そんなに首がもげそうになるほど、頷かんでも分かるぞ」


「そうか、そうか。なんとか自分でメニューは考えるとな。うむ。そうでなくては。ではまたな。おお、そうじゃ。我に財布ごと捧げたが、帰りの旅費はあるのか? カード類は別にしてあるから大丈夫か。そうか。ならば良い。うむ、そうじゃ、良いことを思いついた。お主、手を出せ。なに、別に噛みついたりはせん。我を何だと思っておる」


「なに? 汚れている? 構わん。いいから、手を出して小指を伸ばすのじゃ。そうそう。それでよい。ではな。指切りげんまん嘘ついたら針万本飲~ます。指切った。……ふふふ。喉に針が一万本。これは辛いぞ。魚の骨とはわけが違うからな。しかも特別に一万本に増量出血大サービスじゃ。良いか。約定をゆめ忘れるでないぞ」

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