お疲れ様

「バスに乗れ~夕飯は茨城に戻ってから食べっぞ~先生の奢りだ!」


「「「うぉお!! 奢り!!」」」


 茨城に帰るためのシャトルバスを指差すのは顧問の白田先生だ。

 そして夕飯は先生の奢りだと聞いてテンションの上がる1年の4人。指スマ部に入部して初めて部活での外食をするのだ。テンションが上がらないわけがない。

 しかし、一つ疑問がある。その疑問を王人が真っ先に質問した。


「飯は東京じゃないんですか??」


「ああ、茨城に知り合いがいるんでな、予約してある!」


「なるほど!! 部活終わりといえば焼肉ですかね?? それか食べ放題」


 王人はスポーツの部活動をいくつも経験している。なので部活終わりの先生の奢りのイメージは焼肉か食べ放題なのだ。


「私は寿司とかでもいいですよっ! 新鮮なお魚!!! 和食もいいなぁ」


「ボクは……ケーキとか甘いもの……頭使ったから……糖分補給……」


「ちょっと遥くん! 私より女の子っぽいの言うの禁止っ!! なんかあざとい!!!」


「え、え……た、食べたいって思っただけだよ……」


 玲奈は寿司、遥はケーキとなぜか食べたいものをリクエストしている。そして自分よりも女の子らしい食べ物を口にした遥に対して玲奈は膨れっ面だ。

 そんな玲奈に怯み遥は十真の後ろに隠れてしまった。これもお決まりの流れになりつつある。


「それも禁止!! 十真くんの後ろに隠れないで~!! 十真くんは私だけの十真くんなの~」


「だ、だって……こ、怖い……」


 膨れっ面の玲奈と涙目になる遥。そんな二人に申し訳なさそうに白田は口を開いた。


「あ、あのな~、えーっと知り合いのところだから寿司もケーキもないぞ……いや、ケーキぽいのはあったような……デザートは何かしらあるだろう」


「それで、何を食べるんですか??」


 知り合いのところで食べるとしか聞かされていないので何を食べるのかわからない。なので遥と玲奈に挟まれながら十真が質問をした。


「ずばり! ラーメンだっ!! 俺の同級生がラーメン屋を経営しててな!! それで頼んでみたんだよ!! そしたらOK出してくれてさ~! 俺も久しぶりに会うからテンション上げ上げよ~!!」


「「「うぉおおおおお!!!」」」


 1年のみならず先輩たちも口を揃えて感激している。


「やったー、ラーメンだ!!!」


「ラーメン、ラーメン!!」


 ラーメンは誰もが好きな食べ物だ。全員が喜んだのだった。お祭りのように大騒ぎだ。

 亜蘭と王人と勇の意外な組み合わせの3人は肩を組みながら足を交互に前に出し息のあった変なダンスをしている。


「は、早く乗ってくだせぇ……」


 シャトルバスの運転手のおっちゃんが呆気に取られながらツッコんだ。


 そのまま夕飯のラーメンを楽しみにウキウキ気分でシャトルバスに乗り込んだ。

 座席は今朝と同じところへと自然に座っていった。


 十真は自分がどうやって紅と戦い勝ったのか隣に座る遥と後ろに座る王人、そして前に座る亜蘭に詳しく聞いた。

 そこでようやく自分があの天空寺紅に勝ったのだと実感が湧いた。


(コピースタイル……僕のスタイル……)


 この練習試合で会得したスタイル。正しくは気付いたスタイルに胸を躍らせる十真。

 握った拳を見て自分のスタイルに胸をときめかしていた。


 話を終えると練習試合の疲れからかシャトルバスに揺られながら全員が眠りについた。



 ガタン



 ガタン


 シャトルバスは眠りについた少年たちを乗せ無事に目的のラーメン屋についた。

 兎島高校からも近い距離にあるラーメン屋で全員が知っていたが夜しか営業していないので食べにきたことはなかったラーメン屋だ。

 大きな豚マスコットキャラクターの看板が目印で人気のラーメン店。



「お~い、みんな起きろっ!! 着いたぞ!」


 顧問の白田の声で寝ていた全員の意識が覚醒する。


「着いた……」


「帰りはあっという間だった……」


 遥と十真が開けたばかりの目を擦りながら窓の外を見た。

 目の前には大きな豚の看板のラーメン屋が立っている。


「亜蘭先輩、起きてください」


「ガァアア、グガァアア」


 よだれを垂らしながらイビキを出す亜蘭を王人が起こそうと肩を揺らす。

 なんとか起きた亜蘭はイビキの次にお腹の虫を鳴らしていた。なんとも騒がしい。


 そのまま全員がシャトルバスを降りて白田を先頭にしラーメン屋の中へと入った。


「ちょっと早くなったけど大丈夫か??」


「うおお! 白田! 待ってたぞ! さ、さ、奥の広い席へ!」


「うっす、ありがとうよ! みんな挨拶するんだぞ!」


 出迎えてきたのはラーメン屋の店長だ。白田先生の同級生で二人の絡みを見ても仲が良いのはわかる。そして指スマ部の全員は頭を下げ挨拶をしながら案内された奥の席へと歩いて行った。


 学生たちの席順は左からテーブルを囲むように王人、十真、玲奈、遥、結蘭、亜蘭、勇、圭二の順番で座っている。

 玲奈は安定の十真の隣だ。なぜか遥は女性陣に挟まれているが挟まれたせいでオセロのように女の子に見えてしまう。美少年ではなくもはや美少女だ。


 全員が席についた後、白田先生が話しだす。


「練習試合本当にお疲れさんでした。各々、得たものは大きいと思う。今日あったことを無駄にせず今後の指スマにしっかりと活かしていくように!! お前らなら全国大会で五本指に、いや、優勝だって夢じゃない!! これからもしっかりと練習に励むように!!! そして今日は先生の奢りだ! と言うよりも部活の経費から落とすんだけどな! 足りない分は俺が出すから安心して食ってくれ! それじゃみんな遠慮せずに注文しろよ!!」


「「「はい!」」」


 挨拶を終えた後、白田先生は別の席に行きラーメン屋の店長の2人でビールを飲み始めた。同級生同士久しぶりに会ったのだろう。その中にシャトルバスの運転手のおっちゃんも混ざっている。もちろん飲酒運転になるので酒は飲まないがオレンジジュースを飲んでいた。

 指スマ部の部員たちは顧問の白田の邪魔をせずに全員がメニューと睨めっこをする。


「俺様は決まった。ラーメンはやっぱり豚骨だよな、こってりしてる感じがラーメンを感じさせて俺様は好きだ」


「ボ、ボクは醤油で……あっさり系の方が……好き……」


「私は、このおすすめの担々麺がいいかな~、辛さ控えめとかもできるから食べてみるっ!」


「僕はみそかな!コーンとバターが乗ってるやつにしよう」


 王人は豚骨ラーメン、遥は醤油ラーメン、玲奈は担々麺、十真は味噌ラーメンと1年の4人は注文するラーメンがバラバラだった。


「俺も十真と同じみそにしようかな」


「俺も同じのを2つだな。いや、3つか……」


 キャプテンの圭二と筋肉男の勇も十真が選んだみそラーメンにした。十真は先輩と選ぶラーメンが同じになり親近感というよりも同じ注文ということで嬉しさに浸っていた。深い意味はない。ただなんとなく嬉しくなったのだ。

 勇はラーメンを3つ頼もうとしているがラーメンを1つにしライスの大盛りを注文することにした。


「それじゃ、俺はァ醤油にしてみっかなァ」


「珍しいな~亜蘭なら担々麺だと思ったんだけどな~もしかして遥と同じが良かったのか~」


「ち、ちげーよォ。今日は食べたくなったんだよォ! そういうねーちゃんは何食べんだよォ」


「アタシは野菜塩ラーメンかなっ!!」


 醤油ラーメンを選んだ亜蘭を結蘭が珍しいと思い勘づいたのだ。亜蘭は結蘭に心を読まれ顔を赤くし話を逸らした。


 そんな感じで全員が注文したいラーメンが決まりオーダーを始めた。ラーメンの他に餃子を5人前注文し全員でシェアをする。そしてライスを注文したい人はライスを注文するという感じだった。


 注文を終えてからはラーメン屋の店長は白田との席を外し厨房へと戻って行った。その間も白田は一人でビールを飲んでいた。席にはつまみのチャーシューがいつの間にか置いてある。さすが白田だ。


 料理を待っている間は十真のコピースタイルについての話になった。


「次の部活からコピースタイルについて色々試してみよう。使用条件がわからない以上、諸刃の剣でしかないからな……」


「確かにキャプテンの言う通りです……気絶したら意味ないですもんね……」


 キャプテンの圭二の言葉を聞き玲奈と紅との戦った時の記憶を思い出す。どちらもコピースタイルを使っていて試合の終わりには気絶をしていた。コピースタイルを使えば強力な武器となるが必ず気絶するのなら元も子もない。

 さらにどこまでコピーできるのかも謎だ。謎が多すぎるコピースタイルを今後はどうしていくのか十真の課題だ。


「今度、私のバタフライスタイルも使ってよ~」


「ちょ、ちょっと……近い……」


「二人で秘密の特訓しようよ~、十真くん~」


 猫のように顔をすりすりする玲奈。隣に座っているので避けようにも避けられず十真は顔を赤くするだけだった。

 そして秘密の特訓という響きに反応した十真だったが二人きりだと絶対に特訓をしないとわかっているから愛想笑いでごまかしたのだった。


「とにかく、コピースタイルってのは俺も初めて聞いた。似たような能力はあるけど、十真のは何か特別なものを感じる。全国大会までに解明して優勝を目指そう!」


「優勝……」


 キャプテンの圭二は本気で優勝を目指している。それは圭二自身もそうだが仲間である部員の誰かが優勝するのも目標に掲げている。だから十真にも優勝してほしいし優勝できると信じているのだ。



 その横では亜蘭の待受について話す結蘭と遥がいた。


「お前早速、遥とのツーショットを待受にしてんじゃん」


「ねーちゃん、いいだろォ、真田の指が入ってんのは気に食わねェが、しっかり撮れてっからよォ」


「本当だ、遥可愛いなぁ」


「だろォ」


 さすが姉弟だ。遥を可愛いと思う意見は同じだった。そんな姉弟の様子を見て遥は顔を赤くしていた。


「なんか……恥ずかしんですけど……」


「今度アタシとも撮ってくれよ~どっか映えるところでさぁ」


「は、はい……」


「よっしゃー決まりだっ!!」


 結蘭も遥とのツーショットが欲しくて約束を取り繕った。姉弟で遥とのツーショットの待受になるといよいよ訳の分からない関係性となってくる。


 そんな感じで賑やかにやっているところに注文したラーメンが運ばれてきた。料理が全て揃ったのと同時にラーメン屋の店長も白田がいる席へと戻ってビールを飲み始めた。


「「「いただきます」」」


 全員が待ちに待ったラーメンだ。食べている前は賑やかだったが食べている最中は集中していて無言で食べ続けていた。ラーメンが美味しかったからかもしれないがほとんど会話をすることなくラーメンを食べ終えたのだった。



「「「ご馳走様でした」」」



 全員が満足そうに大きくなった自分のお腹を触っている。

 そんな中、玲奈はお腹を触りながら意味深に十真を見つめていた。


「十真くん……私ね……」


「いやいや、絶対それ以上は言わないで!! 夢に出てきそう……」


 からかってきている玲奈の言葉を途中で中断させて顔を真っ赤にする十真。

 そんな十真よりも顔が赤い人物が一人いる。


 そう。顧問の白田。

 白田はビールの飲み過ぎで寝ていた。

 酔っぱらうとすぐに寝てしまう癖がある白田を勇が背負い駐車場に止まっているシャトルバスまで運んだ。


 そのままシャトルバスで全員無事に学校へと帰って行ったのだった。



 今回の練習試合は全員得たものが多い。


 全国大会まであと4ヶ月。


 今日得た経験を活かし、全国大会で優勝するためにまた練習の日々が続くのだった。

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いっせーので!! 〜指スマで全国大会優勝を目指すことになったんだけど、僕ってそんなに強いですか?〜 アイリスラーメン @irisramen

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