第3話 やるのなら徹底的に
「お前なら、物を壊すのならどうする?」
ふいにロハンが口を開く。
それに呼応するようにエーデリュナも口を開いた。
「王子妃の座を狙っている
「水を被せるのなら?」
「水と言わずワインや汚水を被せられた時の対処法を実演して差し上げますわ! その後の対応もね!!」
「転ばせるのなら?」
「防御魔法と受け身のとり方を先にお教えしてから実演でできるまで追い込みますわ! マスターするまで繰り返させるので逃がさなくてよ!! おーほっほっほ!!」
エーデリュナの持つスキルは全て王子妃教育の時に現王妃に言われて身に着けたものだった。
それはつまり、現王妃もそれだけのことをされた経験があるということに他ならない。
王家の婚約者たるもの、狙われるのは当たり前なのだからそれに備えるのが当然という思考回路が脈々と受け継がれてきたのだ。
泣こうが喚こうがマスターするまで訓練は続く。
ナキイラ王国の妃教育はわりと常識外れなのだ。
「それに我が家のモットーは”やるのならば徹底的に”。つまるところリリアーヌ様がおっしゃったような中途半端な悪役まがいのことでは満足いたしませんの。もしこれを聞いてもなおわたくしがやったとおっしゃるのなら、今すぐ実演に移して差し上げてもよろしくてよ? そうね、リリアーヌ様が殿下と婚約を結ぶとおっしゃるのなら遅かれ早かれ経験することになりますし、これを機にやってみませんこと?」
楽しそうにウキウキと己がスキルを伝授する方法をあれこれと考えている。
エーデリュナは例にもれずスパルタだった。
当然それを聞いたリリアーヌは顔面から血の気をなくした。
「じょ、冗談じゃないわ! わたしはちやほやされると思って話に乗っただけよ!! そんなことされるなんて聞いてない!!」
「あらあら? 一国の主及びそれに連なる者達を補佐するのが妃の役目でしてよ? その妃がちやほやされるだけだなんてそんなことあるわけがないでしょう。内部の
エーデリュナはリリアーヌを見据えて
「あなたにその覚悟がありまして?」
腕を組み顎に手を当てて小首を傾げるエーデリュナ。
その様子は獲物を追い詰める肉食獣のように
「……まあこれはリリアーヌ様だけに言っているわけではございません。カイゼン殿下。あなたにも言えることですのよ」
エーデリュナはすっと視線をカイゼンへと移し目を細める。
「ですが、どうやらもうダメなようですわね。あなたにもその覚悟は見受けられない。……知っていますか殿下。わたくしはあなたの監視役でしたのよ?」
「監視役だと……?」
クスリと笑うエーデリュナの眼はすごく楽し気に細められている。
頬は上気し、艶のある表情だ。
「ええ。王族に相応しい身の振り方になるかどうかを見てほしいとお願いされておりましたの。もしも18歳……つまり学園を卒業する年になってもまだその片鱗が見えなければ、王位継承にふさわしくないと見て第二王子を王太子にするとおっしゃっていましたわ」
「な……!?」
驚愕に目を見開くカイゼン。
王子の後ろに控えていた高位貴族の子息達も土気色の顔をしている。
(ああ、いい気味ね)
エーデリュナはそれを見てご
「お察しの通りこれをおっしゃったのは国王陛下その人。わたくしは今起こったことをそのまま陛下にお伝えいたします。”カイゼン第一王子殿下は民を導いていけるだけの素養は見受けられなかった”とね。まあ最も、既に陛下には伝達がいっている頃でしょうけど」
カイゼンは知らぬことだが、カイゼンとエーデリュナには国王陛下から命令が下された
カイゼンがこの騒動を起こしたとき既に彼についていた諜報部員がいなくなっていたのは、報告に向かったからだろう。
エーデリュナは見事なカーテシーを一つ打つ。
「ということで、婚約破棄、つつしんでお受けいたしますわ! ようやく役目から解放されて嬉しいです! 殿下、リリアーヌ様。どんな罰をお受けになるかは分かりませんが、末永くお幸せに」
そう言い残し会場を後にするエーデリュナ。
後に残ったのは今代最大とも言えるべきニュースにざわめく生徒たちと、力なく項垂れるカイゼン達だけだった。
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