第2話 後進の成長を促してこそ悪役の華!
そして現在に至る。
エーデリュナは仁王立ちが如く足を広げ(ドレスで見えないが)両腕を組み上体を反らした。
「いいですか殿下! そんなものでは証拠とは呼べません! 人を断罪するつもりならもっと情報を精査なさいませ!! そうでなければあっという間に
ダスンと足を踏み鳴らす。
どう考えても証拠に穴がありすぎるのだ。
全体的にふわふわとした言い分では到底証拠とは呼べないだろう。
しかられたカイゼンは真っ赤な顔で震えている。
「~~~っ!! 貴様のそう言うところがかわいくないんだよ!! 昔っから!! 本当に何なんだよいつもいつも!!」
カイゼンは
誰が見てもまったくもって王族らしくない振る舞いである。
会場の者達は軽く引いていた。
その視線にも気が付かずにカイゼンは叫ぶ。
「王族の俺に対していつも不遜な態度で接しやがって!! だから悪役令嬢などと呼ばれるのだお前は!!」
「あら、悪役と言いたいのなら言わせておけばいいことですわ」
公爵家の人間として、王族の婚約者として。
利用されやすい王子を守り導くために憎まれ役を買って出ていたエーデリュナはいつの間にか自分にも他人にも、そしてカイゼンにも厳しく接する令嬢となった。
「けれどわたくしは公爵家の品位を損なうようなことは絶対にしなくてよ。むしろ身分をかさに着て下位の者達を
ちらりと見遣ればびくりと震える高位貴族の子息達。
彼らこそ何もしていないものをおとしめたり、身分を理由にやりたい放題したりしている張本人なのだ。
「現場で動くのは下位貴族や平民たち。彼らの協力無くして王国を維持できるわけがない。前にも申し上げたはずです。それなのに彼らを見下すような程度の知れたもの達に組するとは……第一王子が聞いて呆れますわ」
「き、さまっ!!」
カイゼンはエーデリュナの挑発に乗り拳を振り上げた。
バシンという音が響く。
けれど拳はエーデリュナには届かなかった。
二人の間に滑るように潜り込んできた男によってカイゼンの拳は止められたのだ。
「そこまでだ」
カイゼンの拳を受け止めたのは二大公爵の片割れマグリファス公爵家の長男、ロハン・マグリファス。
艶めく黒髪に金色の瞳が炎のように揺らめいた。
ロハンはエーデリュナを庇うように前に進み出る。
「女性に対して暴力を振るおうなど、誇り高きナキイラの王族がとるような行動ではないだろう」
受け止めたままの拳を握る手がギリっと音を立てた。
声色からも怒りが見えている。
「っ! お前までなんだ!? その悪女を庇い立てしようというのか!?」
カイゼンはバッと手を振り払った。
ロハンをぎろりと血走った目で睨むが力では敵わないことを分かっているようで、手を出すことはなかった。
マグリファス公爵家は武力を司る公爵で、衝突すれば王家と言えども勝利の見込みは薄い。
「先ほどから黙って聞いていれば一方的にエーデリュナを
ロハンは溜息を吐いてカイゼンから目を離すとリリアーヌに焦点をあてる。
「お前はどうなんだ?」
「え?」
突然話を振られたリリアーヌは瞬きを繰り返す。
「だからお前がエーデリュナにやられたという根拠を聞いている。決めつけているということは確信があってのことなのだろう? この際だ。やられたことを全て上げてみるといい」
「そんなの数えきれないわ! 持ち物もボロボロにされるし水をかけられるし転ばされるし!」
「どうやって? やられた後は?」
「はっ? 後?」
ロハンは僅かに笑い口を開く。
「そう。やられた後のことだ。まさかそのまま放っておかれたわけでもあるまい?」
試すような視線にさらされたリリアーヌはびくりと震えた。
「そ、そうね。やられた後は大体高笑いがどこかから聞こえてきたわ! 姿は見せずにわたしに嫌がらせをしてきたのよ!」
ロハンはリリアーヌを
「……だ、そうだが?」
ふっと笑う声が聞こえた。
会場中の視線がエーデリュナに向けられる。
「ふふ、これだからアマちゃんは困るのですわ。仮にも悪役と呼ばれているわたくしがその程度のことで済ますわけがございませんでしょう?」
左手を胸に、右手を横に広げたまま笑みを深めるエーデリュナはまさしく悪役の名に恥じぬ
「相手を
エーデリュナの思い描く悪役は世間一般の思い描く悪役からは少しずれていた。
悪役とは恨まれ役を買って出てでも後進を育て上げるもの。
つまり育て上げられない悪役は二流。
自分の益だけの為に悪事に手を染める者などは三流以下でしかない。
エーデリュナの中ではそもそもそう言った者は悪役には当てはまらないのだ。
「口では何とでも言えるだろう! 信じられるか!!」
「あら、殿下が信じずとも他の方を見れば分かるのでは?」
エーデリュナは身分にかかわらず貴族社会を生き抜くために必要なスキルを分け与えていた。
多くの末端貴族たちと交流を深め、後進を育て上げたのだ。
カイゼンや高位貴族の子息達が
そんな彼女の姿勢を知らないのはエーデリュナと対立して彼女を知ろうとしなかった者だけ。
ここでいうのならカイゼンや高位貴族の子息達だけである。
「っ!」
カイゼンはここで初めて自分に向けられる周囲からの視線に気が付いた。
明らかな
それを意識した瞬間、顔から血の色が消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます