時をかける三十六歳のコスモ【短歌二十首連作】
平蕾知初雪
時をかける三十六歳のコスモ
夜更かしに憧れる子どものように無知の魔法をいまも使える
カタカナの学校へ行ったことがなく ますます履歴書華ないわ
アイコスの吸い殻みたいに転がって怠惰に掃除されるのを待つ
生徒手帳、ギリギリ財布に入らんし写真イモだし見るたび凹む
雨粒を数えて美しいと歌うよな余裕もないし傘もない
頭が賑やか きみの台詞以外何も聞こえない 物語のせい
汗を拭かない幼子のような目で筆はしらせて爆ぜて死にたい
パイオツを千切って捨てたら軽くなり満月までも飛んでゆけそう
時刻表次第で広くなるホーム ともに上る友 すぐ下る友
夕日に赤く染まる図書館の屋根 得体の知れぬうつろう私
髪型も決められないほど自我失い 好きと推ししかわからぬ大人
若人の魚雷みたいな情熱が 飛ぶわ飛ぶわの秋、真っ只中
明日だけ日本列島墓所にして 寝ろ寝ろおとな 誰も起きるな
「かぶった」とペットボトルを見せ合って 指あたためた それだけの仲
最近のみかんはすっかり甘くなりカルピスよりもキュンで劣るわ
開けたてのニベアの青缶 息吸ってまた息止めて ひやりと轍
カステラのざらめの粒ほど 愛おしくとるに足らない さっきのイイね
地下鉄の階段抜けて強風に頬叩かれる 行け どこまでも
「また来年」そろそろグラコロ始まるし 食べ納めしよ、マックのてりやき
学期末 休み明けにまたねと言う あの頃みたいに「良いお年を」
時をかける三十六歳のコスモ【短歌二十首連作】 平蕾知初雪 @tsulalakilikili
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