連作短歌「不存在」

木内一命

連作短歌「不存在」

もうそこにいないあなたの分だけは今になっても空いている椅子


東京の隅でくたばる人間に涙を流す奴はいるのか


寒空の下に座ってあのときの笑顔ばかりがやってくる春


デジタルの海で今宵も悠々と泳ぐ人らはもう眠らない


明日俺がいなくなったらおまえの分誰がやるんだ確定申告


「もう寝るぞ」言われた君は大人しく睡眠をして目覚めなかった


特別にいいこと書いたわけじゃないあなたのうたは海に流れる


黒縁の紙が届いて泣いているあなたもそれを追ってしまった


生きているうちにできないことならば地獄だろうと挙式やりたい


いつかまた旅に出ようと微笑んだ靴は今でも汚れたままの


もう行くね帰らないけどすみません忘れないまま待ってください


なんであれ記念写真を切り取って枠に入れるとちょっと映えるね


江ノ電が小さいままで通ってく七里ヶ浜の独りぼっちだ


止まり木の上で笑った子供たちすでにお空に行ってしまった


繋がれた機械の中でするのには長すぎる気がする呼吸音


目が覚める時においしい朝食を作れないままはや二十年


不摂生ラーメンばかり食べていたお前を叱るすべはもうない


つまらない人生なんて言うのならなんでこんなに人が来るのだ


手を握り冷たいことを確認し医者に言わずに愛を誓った


三流の映画館でももう少しなんて言わずにもっといたいな


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連作短歌「不存在」 木内一命 @ichimeikiuchi

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