第84話魔法研究所と二人の男
国立魔法学校の敷地内の特別棟の一つに魔法研究施設がある。
施設の研究員となるためには国立魔法学校で優秀な成績を修めさらには学校関係者の推薦状を必要とする狭き門である。
魔法研究所の主な活動は魔法の研究を始め魔道具の開発と改良、魔法薬の試作などを行っている。
魔法薬師という資格があり魔法薬師が調合した薬に魔法を付与させ作った薬を魔法薬という。
魔法薬の種類によっては精神に作用するものがあり使い方を誤れば命を落とす危険性もある。
よって一部の魔法薬の使用に関しては国王陛下の承諾が必要とされる。
その魔法研究所の薬学チームと称するメンバーが20年以上もの長い時間を費やしようやく完成させたとされる魔法薬はなんと”惚れ薬”であった。
まずこの国で”惚れ薬”の使用は違法である。
だが依頼主が王族だったため断ることが出来なかったのだ。
どうしてそんな薬が必要になったのだろうと疑問を抱くであろう。
かつてこの国で政略結婚は常識なことであった。
結婚は親に従うことが正しいこととされていたが現在はそうとは言い切れなくなっていた。
政略結婚ではなく恋愛を経て結婚すべきであると考え方が変わっていったのだ。
なんと立役者となったのが純愛を貫き身分差を乗り越え恋愛結婚をしたこの国の王だった。
そうこうするうちに観劇や小説なども自由恋愛を掲げる作品が世に出回るようになった。
そしていつしか恋愛結婚した相手のことを”運命の相手”というようになったのだ。
結婚観はもちろんそもそも子は親の所有物や道具ではない。
親は子を尊重すべきだと考えるようになったのであろう。
気が付けば恋愛の自由を知ってしまった存在に政略結婚を強いるのは難しくなった。
もちろん政略結婚であっても良縁を結ぶこともある。だがそう多くない話だ。
もともと政略結婚の狙いは魔力継承が重要であった。
だが政略結婚し子をもうけても魔力継承が上手くいかない場合もある。
よってその救済措置として養子を迎い入れ後継者とすることが容認されている。
しかしそれに唯一該当しないのが王族だ。
自由恋愛が主流となった今も政略結婚を避けることは出来ない。
王族は魔力量の多い優秀な魔法使いを伴侶に迎えなければならないことが変わることはない。
例え王族の男性が一夫多妻の権利を持っているといっても子を増やせば増やすほど後継者争いが加速することになるのである。
そのため”惚れ薬”の依頼主は”運命の相手”を強制的に作り出せばよいと考えたのだろう。
◆
魔法研究室の一室で二人の男性の姿があった。
白衣を着た研究員とみられる男性にいかにも上質なスーツを着た中年男性が話しかけた。
「どうだ順調か?」
白衣を着た男性が言葉を返した。
「はい、凶暴化させ予定通り庭園に転移させました。」
スーツを着た中年男性は口角を釣り上げ言葉を返した。
「なら用が済んだら殺処分か?」
「まさか!ダークウルフをそう簡単に殺めませんよ。」
「はあ?たかが魔獣だろ?」
「あのダークウルフはとてもお利口なんです。ターゲットを殺してはイケないと言い聞かせてあります。例え凶暴化しても
白衣を着た男は魔獣であるダークウルフをどうやら大事に扱っている様子だ。
国内の魔獣は全て混沌の森に閉じこめてあるはずだ。しかしどういう訳か研究所の地下室で魔獣と魔物を飼育し実験台として利用していたのだ。
「私は魔獣に興味はない。だが彼女はデリック・ブルックスの婚約者にさせるつもりだ。今は死んでもらっては困るな…」
「確かポーレット家のご令嬢でしたよね?」
「ああ、見た目に
「あれで欠陥なんですか?辛辣ですね。それでマリアお嬢様はどうされるのですか?」
「マリア?アイツは冴えないデリックより王子様に鞍替えすると自ら申し出て来た。」
「王子様ですか?」
「ああ、それもポーレット家の跡取りだ。上手く婚約話が進めば例の呪具を見つけることも出来そうだろ?」
「ですが7年以上経ってます。封印が解けていないと良いのですが…」
「それはないだろう。それならあんなにルブール領が繫栄していないだろう?」
「もし仮に呪具の封印が解けたとしても優れた浄化魔法でない限り解決することは不可能でしょうね。」
「その通りだ。」
「あるとしたら聖女システィーナくらいでしょうね。」
「はあ?面白い冗談だな?」
スーツを着た男性はそう言って部屋をあとにした。
その男性こそがマリアの義父である魔法学校の理事長を務めるコナー・ゲイル伯爵であった。
一方白衣を着た男性はバタンとドアが閉じられた後にぼそりと呟いた。
「朝は苦手なんだが、そろそろ行くとするか…」
白衣の男性は霧のようなものに包まれたかと思うとその場から姿を消したのだった。
異世界に転生したようですが今度こそ幸せになりたいです!-と思ったのにどうやら間違いでしたが幸せを掴みたいと思います- モリサキユウ @yuu_morisaki2022
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