第3話 甘々なテスト期間2
私は獅騎くんのことを話して貰った。獅騎くんは声優としてのSIKIではなく、ありのままの自分を見て欲しかったんだそう。私は獅騎くんが声優だと知っても今まで通り話したいって言ったらむしろそれが望みだと言われた。
そして、私たちはそんな話をしながらスタジオから獅騎くんの家に行き、今は家で勉強中です
「分かんないの?手止まってるよ」
「うっ、分かんないです」
「この問題はさ、さっきやった問題とあんまり変わんないから簡単だと思うよ。だってほら、ここに線を引いて、紙を反対にしてご覧」
「あ、さっきやった形!」
「そうそう、それなら出来るでしょ?」
獅騎くんはやっぱり教えるの上手だよね。私1人だったら今頃どうなっていたことやら……
「じゃあ、そろそろテストやるよ。この問題解き終わったら言って。あ、それと間違ってたら罰ゲームだよ」
「え?」
「罰ゲームないと思ってたの?」
「う、うん」
「へぇ、ちゃんと罰ゲームの内容は考えてあるから大丈夫だよ。安心して」
全くもって安心できない。なぜなら今の獅騎くんはとても悪い顔をしているから。この顔をしている時は大体私にとって良くない事を考えているから。
「間違えてくれたら俺は嬉しいけど、間違えない方がいいんだよな」
そう声を漏らした獅騎くんは私に問題を解くように促す。すると突然横に座った獅騎くんはニコニコと笑っている。私は隣にいる獅騎くんを意識しないように頑張りながら問題を解く。計算ミスがないように気をつけてはいるけど、間違ってないかどうかは分からない。
「雪乃、間違ってる。ここ、56+37=93、でしょ?こんな簡単なところで間違えるなんて……俺は嬉しいけど……」
「ま、待って」
そう言って私はそこの答えを直す。
「あれ、無かったことにしようとする悪い子にはお仕置きが必要かな?」
「い、る…要らない!」
「あれ、今いるって言わなかった?」
「い、言ってない、からっ!」
「あはは、今回は見逃してあげるから。あ、罰ゲームは見逃さないよ」
獅騎くんは私をヒョイと持ち上げて、足の間に座らされる。
「な、何してるの!」
「ん?何って見ての通りだけど?」
こ、これじゃあもっと集中できない!だ、誰か助けて。心の中で助けを求めるけど、獅騎くんの家にはお母さんもお父さんも仕事でいない。その為、助けが来ることはない。
「こ、これじゃぁ集中できないよ〜」
「眠くならないでしょ?」
「な、ならないけど……」
「ならないけど?」
「恥ずかしい、から」
その返事に満足そうな顔をすると獅騎くんはギュッと抱きついてきた。し、心臓の音が聞こえちゃうよぉ。
「早く解いて、見ててあげるから」
「むー!」
「そんなことしても無駄だよ。雪乃には負けないから」
解決策がない。私は仕方なく。そのままの格好で問題を解く。お、落ち着かない。背中から聞こえる心音が少し早い気がする。私のお腹にまわった手は私を逃さないとでも言うかの様に固く回されていた。
仕方なく集中できない格好で問題を解くけど、時々肩にかかる髪がくすぐったい。それに耳元で話しかけてくるから変に意識してしまう。
「もう無理……全然集中できない」
「なんで?」
「なんでって、わかって言ってるでしょ!」
「うん、そうだよ。雪乃の口から聞きたいから」
「っ……し、獅騎のせいなんだから!」
私は振り向いて勢いよく獅騎くんのお腹らへんにまるまる。は、恥ずかしすぎる……
「ね、赤くなってる雪乃見たいんだけど……こっち向いてくれない?」
「やっ!」
「なんでいいじゃん。可愛いんだから」
獅騎くんは私の頭を撫でながら指で背中をなぞる。
「っ……」
う、上を向いてしまった……迂闊だった。これじゃぁ顔が赤いのバレる……
「ふっ、可愛い。赤くなってるのバレてないとでも思った?全部知ってるよ」
「なっ、なんで!」
「なんでって、彼女だからに決まってんじゃん。雪乃のことならなんでもわかるよ。雪乃は俺の事なんでもわかる?」
「分かる。好きな食べ物も、好きな服も、好きなもの全部知ってる!それに獅騎の表情なら全部知ってるもん!」
「そう、それは嬉しいかな。でも、まだ見た事ない表情もあると思うよ」
獅騎はニコッと笑った。見た事ない表情?み、見てみたい。でも、どんな表情?
「それは後でのお楽しみ。そのうち見れるよ」
それから先は何にも教えてくれなかった。そしてその恥ずかしい格好のまま問題を解き終える。
「あ、間違い発見。1個……2個……3個」
「3回分のお仕置きだね。可愛い雪乃から何かして?」
「何かって……」
「うーん、ハグして、キスして……雪乃の好きな事して?」
え?ハグ?キス?お仕置きって……む、むり〜!
「早く」
ま、まって。ちょっと心の準備が……
「まぁだ?」
私は思い切ってえいっと抱きつき、獅騎くんの柔らかそうな唇に己のそれを重ねる。
「んっ」
「ふぁ、んっ、まっ…てっ」
「またない」
「んん!」
私は息が苦しくなって獅騎くんのワイシャツを掴む。
「ぷはっ」
「っ……」
私はやっと解放されて思いっきり息を吸い込む。そのせいで獅騎くんの一瞬の表情を見逃してしまった……
「も、無理。限界……」
「どうしたの?」
私は震える声できく……だけど獅騎くんは私の声が聞こえてないみたいで返事が返ってこない。クイッとシャツを引っ張るとやっと我に帰った。
「何か言った?」
「どうしたのかなって思って……」
「いや、なんでもない」
(雪乃が可愛くて意識&理性が飛んだとは流石に言いたくない)
ちょっと余裕のなさそうな獅騎くんが気になるけど本人がなんともないって言ってるんだし、大丈夫なのかなぁ?
「そろそろ終わりにする?あんまり帰りが遅くなっても親に心配されるでしょ?」
「うーん、お父さんはほとんど家に帰ってこないから今日も帰ってこないと思うよ?」
「でも、もし帰ってきてたら心配するだろ?送っていくから今日は帰ろ?」
う〜ん。明日も会えるし……でも、まだ一緒にいたい。
「そんな悲しそうな顔して……うちに泊まって行ってもいいけど、着替えとかないしな……」
「と、止まっていっていいの?」
「お父さんは心配しない?」
「連絡しれておく!」
「それならいっか。じゃぁ、夕飯の買い出し行くか」
私と獅騎くんはスパーへ向かった。今日は獅騎が好きなオムライスを作ることになった。卵と、温かいご飯(茶碗2杯分 約300g)、鶏もも肉(約80g)、玉ねぎ(1/4個)、パセリのみじん切り、牛乳(各大さじ2)、バター、塩、こしょう、トマトケチャップ、サラダ油が必要だから……卵と、鶏もも肉、玉ねぎ、パセリ、牛乳、バターを買って帰る。
「俺が持つよ」
「ありがと、でも私何にも持ってないよ?」
「これは俺の仕事だから」
「ん。じゃあ半分」
私は獅騎くんの持っている持ち手を一個奪って、半分ずつ持つ。
「重いからいいって言ってるのに」
「いいの、一緒」
その後家に帰って、オムライスを作った。小学生の時はいつもお父さんの分の夕食も作ってたから作り慣れている。
「美味しい!雪乃って料理できたんだな。意外……」
「意外とは失礼な!でも、小学生の時から作ってるんだから上手くなってなかったら悲しいよ」
「まず小学生で自炊しようと思うその頭がすごい。俺なんか年がら年中カップ麺」
「体に悪そ」
「今日は久々に手料理食べた。美味しかったからまた作って。俺いつでも部屋で1人だから来れる日に来て」
夕食が終わり、お風呂を沸かしている間に少し勉強をしようということになったので、2人で暗記科目を頑張った。社会の歴史の年号など覚えなくてはならないことが沢山ある為、テスト前は頭がパンクしそうなのだが、獅騎くんと覚えたからか、ちゃんとパンクせずに全て覚えることができた。また明日にでも復習すればある程度定着するだろう。
「あ、風呂沸いたから先行ってきな」
「ありがと。借りるね」
「どーぞ」
ふふっと笑い合ってから私はお風呂に向かう。獅騎くんがスエットとズボンと貸してくれたけど恐らくズボンは大きすぎて履けない。
私はお風呂を上がり、獅騎くんのスエットを着たが、それだけでワンピースのようになったのでそのままの格好で脱衣所を出る。
「なっ。ズボンは!?」
「おっきくて履けなかった」
「そうだよね!そうなんだけどね!俺にもあるわけよ。理性っていうものが!わかる!」
「う、うん?」
「分かってないね!分かってないのはわかってるんだけど、分かって欲しいのよ」
し、獅騎くんが壊れた……何が起きたんだろ?獅騎くんは風呂入ってくると言って風呂場に向かってしまった……何かこの格好が不味かったのだろうか?
私は髪の毛を乾かしながらぼーっと今日のことを考えていた。色々な事が起こり過ぎて今日がとても長く感じたな。
「雪乃起きてる?もう寝た?」
いつの間にかソファーに座っていた獅騎くんが私を呼ぶ。
「ん?起きてる」
「眠い?」
「眠くない。じゃあさ、こっちきて」
獅騎くんは私を足の間に座らせるとテレビをつけた。そして選択したのはホラー番組。
「ね、ね、ね、ね、ね、けけけけ、消そ。ここここ、怖くないけど。ちちちち、違うのがいいよ!」
「だ〜め。今はこんな気分なの怖かったら俺にくっついてて」
ここここ、怖くなんかないもん。そう思いながら私は画面を見ていたが、お化けを見た瞬間限界に達した。
「も、やだぁ。怖い。怖いから消して……」
「あはは、ホラー系とかいけそうなのに、無理なんだ。覚えとこ」
「もう、見ないからぁ」
「泣かないで。怖かったのはわかったけど、どうしていいのか分かんない。色んな意味で俺はやばかったし……」
私は結局お化けのシーンが離れなくて獅騎くんに寝るまで一緒にいて貰うことにした。
「ねぇ、お試し期間終わりでいい?」
「え?」
「雪乃、俺と付き合って」
私は驚いたけど、とても嬉しかった。
「私でいいなら」
「雪乃じゃないとダメなんだけど……」
「ふふっ、ありがと。大好き!」
私はその一言を口にして意識を失う。私が寝た後に獅騎くんが真っ赤な顔をして独り言を呟いていた事を私は知らない。
「雪乃、生殺しすぎるよ」
隣の席の星乃くんに甘々な声で迫られています! 与那城琥珀 @yonasirokohaku
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