第26話 膝枕で耳かきしてもらうのって男のロマンみたいな所ありますよね
「――いいか、挿れるぞ
「う、うん……あ、あの……」
「どうした。やっぱり怖いか?」
「そ、そうじゃなくて、その……私、こういうこと初めてだから……」
「そうなのか、意外だな。お前はけっこうヤッてるモンだと思ってた」
「そっ、そんなことない! 一人では週に何度かしてるけど……お、男の人に触られるのなんて、初めてなんだから……」
「そうか? 大丈夫、ちゃんと優しくしてやるから」
「ほ、本当?」
「ああ……いくぞ」
「……うん」
ぎゅっと固く瞼を閉じた泉希に、俺はゆっくりと自分の――耳かき棒を挿し入れた。
「俺がいつも使ってるこの耳かき棒は、竹製だからな。そこら辺で売ってるのよりは痛くないはずだよ。だから安心してくれ」
「う、うん……お願いします」
俺の膝に頭を乗せベッドに寝転ぶ泉希は、あきらかに緊張した様子で答える。
「でもちょっと驚きだな。泉希は割と耳掃除してると思ってたから」
「み、耳掃除なんて、そう毎日するようなものじゃないでしょ」
「あー、たしかにそうらしいな。毎日するのは逆に良くないとか」
雑談を交えながら、俺は自分の膝の上に頭を乗せる泉希の耳を掻いていった。ところでなぜ俺が泉希の耳掃除をしているのかというと、話は2時間ほど前に遡る。
◇◇◇
食事を終えた泉希は、アイちゃんとの家事勝負を再開した。
2回戦は掃除勝負だった。1回戦は僅差ながら泉希が勝利したけど、こちらはアイちゃんの圧勝に終わった。掃除などで勝敗をつけるのは難しいだろうと危惧していたけれど、意外なことに泉希は掃除や片付けが苦手らしく差は歴然だった。
思えば水族館の時も自宅に連れて行くのはNGだったな。泉希はそういった雑事もそつなくこなすイメージだったから、少し驚いた。
そうして勝負を一勝一敗のイーブンに持ち越したアイちゃんは、『泉希が食事を作って貰ったように自分も褒美が欲しい』と俺に願い出た。アンドロイドが人間のように欲求を表すなんて、俺は想像もしていなかった。やっぱり
「じゃあ、アイちゃんは何が欲しいの?」
『物品として要望するものはありません。御主人様が喜んで下されば、私はそれが何よりの
「俺が喜ぶことね」
言われて俺は天井を見上げて考えた。だがメイド服のせいで思い浮かぶのはエロい事ばかり。それに今のアイちゃんなら……いや、もしかすると泉希ですら俺のスケベ心丸出しなお願いを聞いてくれるかもしれない。
「別にしてほしいことなんて無いよ。食事も作ってくれたし掃除もしてくれた。俺は二人がウチの店で働いてくれるだけで、充分嬉しいし」
けど今の二人は【惚れ薬】の効果で俺を好きになっているだけ。当初は薬を使ってウッハウハのエロエロなことも考えたけど、やっぱりそれは違う気がする。大切な人だからこそ、弱味につけ込むような真似をしたくない。彼女達を傷つけるような真似はしたくないんだ。
『ですが、それでは褒美になりません。どうか私に御主人様がお喜びになられる事を御命じ下さい』
真剣味な雰囲気のアイちゃんに、俺は言い返すことが出来なかった。そこまで言われては、なにか御願いしないと却って彼女の負担になりかねない。今アイちゃんにして貰えることと言えば……。
「あっ、それならアイちゃん。良ければ俺に耳搔きをしてくれないかな」
『耳掻き、ですか』
「そう、耳掃除ね。最近あんまり出来てなくてさ。ダメかな?」
『いえ、構いません。御主人様のお望みとあらば、どのような事でも』
「ありがとう。じゃあ早速お願い」
メイド服姿と掃除勝負というワードがマージされて、結果的に耳掃除というアンサーが俺の脳裏に閃いた。愛用の耳かき棒を取り出し、それをアイちゃんに手渡しベッドに座ってもらう。
「それじゃあ、失礼しまーす」
溢れ出る喜びを隠すことが出来ず、俺は彼女の膝に頭を乗せて寝そべった。メイド服とエプロン越しなのが少し残念だけど、それでも太腿の柔らかさが伝わってくる。
というか、アイちゃんの膝に頭を乗せると必然的に彼女の大きなおっぱいが後頭部に当たる。これは嬉しい誤算だが、気を付けないと直ぐ口元が緩んでしまう。
「そういえば、アイちゃんは誰かに耳掃除をしてあげたことはあるの?」
『いえ。ですが理解はしています。
「うん、まあそうね……ところで足は痛くない?」
『問題ありません。AIVISに痛みという信号はありません』
「そっか。でも、しんどくなったら言ってね」
『承知いたしました』
透き通るような声が頭上から響いて、アイちゃんの指先が俺の耳に触れた。ひやりと冷たい感触に、一瞬ビクリと体が動いてしまう。けれどすぐに心地よくなって、全身から力が抜け落ちていった。
『それでは、耳内の清掃を開始いたします』
優しい声で囁きながら、アイちゃんは俺の耳に
『
「ああ、すごく気持ちいい」
『恐れ入ります。御主人様にお
耳たぶの周りを優しく擦られる度、意識が
『耳殻の周辺は清掃が完了致しました。これより外耳内の耳垢除去を開始します』
「うん……」
すでに
『御主人様。痛くありませんか』
「うん、すごく気持ちいい……」
『恐れ入ります。ただいま外耳道内部に大きな耳垢を発見致しました。ただちに除去いたします』
アイちゃんの優しい指遣いと冷ややかな手、そして耳を
「ねえ――」
だがそんな俺の意識を引き戻すように、泉希の深く重い声が俺の脳を揺さぶった。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
今更だけど、AIVISというのは火野陽登が妄想した架空のアンドロイドよ。詳しい設定が知りたい方は『イロハネ』という作品を読んでみてね↓
『イロハネ ―右手に悪を、左手に愛を―』
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