最終話 アオハル・トライアングル②
放課後、俺は楓香にスマホでメッセージを送った。
『今日時間あるか? 話したいことがあるから、四季公園に来て欲しい』
すぐに既読が付き、数秒待つと楓香から『わかりました! 少し用事を済ませていくので、待ってていただいても構いませんか?』と返信があった。
俺は『もちろん』と返し、碧にもその旨を伝える。
「了解。じゃ、四季公園で楓香ちゃんが来るの待ってようか」
「ああ」
俺は碧と共に教室を出て、先に四季公園へ向かうことにした。
四季公園までの道は、いつも登下校の際に使っている。
見慣れた景色の中を歩くというのは、本来体感時間的にあっという間に感じられるものだが、今は妙に時間の流れが緩慢に思える。
やはり、これから楓香――自分を慕ってくれている少女に、俺と碧の新しい関係を打ち明けるというのは、凄く緊張するし、同時に申し訳なく…………
「ねぇ、ユウ」
「……ん?」
四季公園へ向かう途中、隣を歩く碧が話し掛けてきた。
「まさか、楓香ちゃんに申し訳ないな~、なんて思ってないよね?」
「……」
俺は沈黙した。せざるを得なかった。
たとえこの口を閉ざす行為が、図星であると碧に教えることになるのだとしても。
そして、案の定俺の沈黙を肯定だと受け取った碧が、「はぁ……」と呆れたようにため息を吐いた。
「まぁ、ユウらしいと言えばユウらしいよね」
「俺らしい?」
「ユウは優しい。今だって、楓香ちゃんにどんな言葉でどう伝えれば、一番傷つけずに済むかを考えてる」
でも――と、碧はピタリと足を止めた。
俺もつられて足を止めて碧の方を見ると、こちらに真っ直ぐ真剣な黒い眼差しを向けてきていた。
「でも、その優しさがいつでも正解だとは限らないと思う。特に、今回みたいなときは」
碧はふっと柔らかな表情を浮かべて続けた。
「だって、そうでしょ? 楓香ちゃんはユウに申し訳なく思って欲しくて好きになったんじゃないよ。ユウだって、楓香ちゃんに好きって言われて嬉しかったでしょ? だったら、やっぱり持つべき感情は申し訳なさなんかじゃないよ」
ねっ? と明るく笑った碧が、俺の片手をパシッと取って、再び歩き出した。
「ちょ、おい……!」
「ほら行こ! もたついてると、楓香ちゃんに追い付かれちゃうよ?」
俺は碧に手を引かれながら足を進めた。
碧は昔からそうだ。
面倒臭がりで、普段はだらだらと。そのくせ、遊ぶときは全力で、いつも俺を振り回す。
……でも、尻込みしている俺を引っ張ってくれるのは、いつもそんな碧だった。
「……ありがとな、碧」
「ん? なんか言った?」
「いんや、何も言ってないぞ」
「えぇ~、うっそだ~! 今絶対なんか言ったもん!」
「空耳だろ~?」
そのあともしばらく碧が「何て言ったのか教えろよ~!」と訴えながら、俺の肩に頭突きを繰り返してきたが、俺は笑ってスルーした――――
◇◆◇
四季公園内の道に沿うように植えられたとある木の下で、俺と碧は待っていた。
ここは、去年の夏、梅雨が降る中で楓香と初めてあった場所。そして、その一年後再会し、告白された場所。
楓香と話すならこの場所しかないと思った。
碧としばらく待っていると、こちらに小走りで駆け寄ってくる楓香の姿が見えた。
「お待たせしました、優斗先輩! ……と、碧先輩も?」
傍までやって来た楓香が、俺の隣に立つ碧の姿を見て目を瞬かせる。
「ああ。話っていうのが、その……碧に関係することで……」
「碧先輩に……?」
俺と楓香は一度互いに顔を見合わせて頷く。
そして、俺は早まる鼓動を落ち着かせるように呼吸を整えてから、楓香に言う。
「楓香……俺はお前に『好き』って言ってもらえて凄く嬉しかった。碧のことを話しても、諦めずに俺を振り向かそうとしてくれたのも嬉しかった。実際、そのお陰で、俺も楓香のことを異性として好きになってたのかもしれない……」
大体何の話なのかを察したのか、楓香の表情が真剣なものに変わっていた。
そして、俺も覚悟を決める。
最初は楓香に申し訳ない気持ちで一杯だった。けど、それは違うと碧が教えてくれた。
だから、俺は申し訳なさではなく、自分を好きになってくれた楓香に最大限の感謝を込めて――――
「楓香、俺を好きになってくれてありがとう。でも、俺はやっぱり碧が好きだ。お前の気持ちには、応えることが出来ない……」
「…………そう、ですか……」
たっぷりの間を置いてから、楓香が小さく呟いた。
そして、一応の確認といった風に聞いてくる。
「それで、お二人はもうお付き合いを……?」
「うん、昨日からね」
俺の代わりに碧が答えた。楓香は「なるほど」と静かに頷く。
そして、少し沈黙を置いてから、楓香が突然「ふふっ」と笑いを溢した。
俺と碧は予想外の反応に戸惑う。
「まったく……先輩ってば、突然シリアスな雰囲気で話し始めるから、一体何事かと思いましたよ」
「ふ、楓香……?」
戸惑う俺に、楓香が柔和な微笑みを向けてきた。
「優斗先輩が碧先輩のことを好きということは、告白したその日に言われたことですし、そうでなくとも、初めてお会いしたあの日から気付いてましたよ」
「えっ、そ、そんなときからバレてたの……!?」
これが女の勘というものなのだろうか……少し恐ろしくなって、背筋が冷えた気がした。
「それに、この場所で優斗先輩に告白しするとき、私はもう先輩が碧先輩と付き合っているかもしれないと覚悟していたんです。むしろ、まだ付き合ってなかったことを知ったときは、拍子抜けしたくらいです」
再び楓香が口許に手を当てながら笑みを溢した。
「だから、今さらお二人が付き合ったと言われても、特に驚きもしないし、ショックも受けませんよ。むしろ――」
楓香が僅かに目を細めて、どこか妖艶に唇で弧を描いて言う。
「――だからこそ、燃えてくると言うものです」
「まっ、まさかの略奪愛狙いっ!?」
碧がすっとんきょうな声を上げた。俺も思わずたじろいでしまう。
そして、楓香は足を踏み出して俺のすぐ目の前にまで近寄ってくると、立てた人差し指で俺の唇の先端に触れた。
その行動には思わず俺も心臓を跳ねさせてしまい、傍らでは碧が「んなっ!?」と間抜けな声を漏らした。
俺達の反応に構わず、楓香はクスッと笑って俺を上目に見ると、ハッキリと言い放った。
「だって、恋人のいる人を好きになってはならない――なんて誰が決めたんですか? ふふっ、私は諦めませんよ?」
そして、俺から碧へと視線を移した楓香が、どことなくあざとい笑みを浮かべて言う。
「碧先輩も……隙を作ってると、私が取っちゃいますからね?」
「ちょ、楓香ちゃん……!?」
では、と言い残してこの場から立ち去っていく楓香。
俺と碧はしばらくそんな楓香の後ろ姿を呆然と見詰めたまま佇んでいた。
まったく、人は見掛けに寄らないとはよく言ったもんだな。
まさか、楓香があんなことを言うなんて……。
え……というとは、俺はまだ楓香からのアプローチを受けることになるワケで、それにときめいちゃったりしたら碧に怒られるワケで…………
どうやらまだまだ、俺を取り巻く
【作者からメッセージ】
これにて完結とさせていただきます!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!
作品としてはここで終了となりますが、優斗達の三角関係はこれからも続いていくのでしょう。
これからも、色々な作品を書いていこうと思っていますので、是非今後ともお付き合いくださいませ!!
(新作はカクヨムコンテスト用になりますかね~。力を入れなければ!!)
ではっ!!
恋愛感情がわからないボクっ娘幼馴染に、小学生の頃から毎日『好きだ』と言ってフラれ続けてきた俺が、ある日美少女後輩に告白されて始まる三角関係~振り向かない幼馴染or可愛い後輩~ 水瓶シロン @Ryokusen
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