第164話「元通り」

「――マスター、この魚はお気に召しませんでしたか?」

「えっ?」


 悲しげなユリの声で、はっと気が付く。


「あ、あれ?」


 僕は頭上に青空の広がる荒野で、ユリとヒマワリと共に焚き火を囲んでいた。焚き火の周囲には串に通した魚が並べられ、こんがりと焼かれている。丸太に腰掛け、焼き立てで脂の染み出す魚に口をつけたところだった。


「だから燻製にするべきだって言ったのよ」

「しかし、新鮮な魚というのもぜひ楽しんでいただきたくて」


 ヒマワリに言われ、ユリがしょんぼりとしている。

 いや、何故?


「あ、アヤメは?」

「はい? アヤメなら、あちらで大結界の解析中ですが」

「まだ起きてないわよ。そんなに心配しなくてもいいってば」


 困惑する二人の視線の先、日除けのテントの下で眠るアヤメがいた。

 なんなんだ、この状況は。


「僕は――〝割れ鏡の瓦塔〟にいたはず。なのに、どうして?」

「何言ってんのよアンタ。まだ大結界にすら入れてないのよ?」


 ぼーっとしすぎよ、とヒマワリが呆れる。けれど、その言葉さえにわかには信じられない。

 僕はたしかにあの迷宮に。そしてロックと――。


「そうだ、ロック! ロックが転移装置に触ったんだ!」

「ロック? 誰ですか、その方は?」


 思わず立ち上がった僕を、ユリも心配そうな顔をして見つめてくる。けれど彼女に応じている余裕がない。僕はたしかに大結界を超えて、そこでロックと出会い、共に迷宮に入った。そこで魔獣から逃げ込んで入った検疫所で、転移装置を見つけたんだ。

 凄まじい光の波を思い出す。あの瞬間、僕はここにいた。

 いったい、何がどうなっているんだ? これじゃあまるで……。


「時間が……」


 はっとして時計を取り出す。陽の光が見えない迷宮内部では時間を忘れてしまうから、探索者には必須の道具だ。三本の針がカチカチと一定のリズムで動く懐中時計。その文字盤に示されている時刻は――。


「時間が、戻ってる……」


 大結界の内部で食べてきたはずの携行食が、荷物の中にあった。ヒマワリはまだ燻製を作り始めてすらいない。そもそも、アヤメが大結界の解析を終えていない。

 思いつく限りのことを確認して、僕はついに否定することができなくなった。


「マスター、ご気分がすぐれないようでしたら、お休みになられた方がいいかと」

「ちょ、ちょっと、本当に大丈夫なの?」


 二人が深刻そうな顔をするなか、僕はよろよろと丸太に座り込むことしかできなかった。


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合法ショタとメカメイド〜ダンジョンの奥で見つけたのは最強古代兵器のメイドさんでした〜 ベニサンゴ @Redcoral

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