第6話 すごく美味しいわけではないけれど

 慣れない異世界のお茶の湯気が上がった。なんとも言えない匂いが、部屋中に広がる。そして、そのお茶を美味しそうに啜るトーニと、表情を一切変えず口に流し込むノアさん。


 家に帰ってお風呂に入った後、トーニはいろいろなことを話してくれた。元々一緒にいた女の子のこと、そして何故その女の子と別れてしまったのかを。


「トーニね、不思議な鳥さんに運ばれてここにきていたの。なんでだかはわからない……けどね、ここにきたのは何か意味があると思うんだ」


「ほうほう、不思議な鳥と……なんともまぁ、現実味のない話だねぇ。知能のある鳥かぁ、一度は拝んでみたいものだね」


「トーニをくわえてね、ビューンってお空を走ってたの。それがねぇ〜」


 ノアさんとトーニの間で流れていく話を聞きつつ、私はこの世界について考えていた。ここは、私の住んでいる世界ではない。私の知っている常識も通用しない。でも……


「お願い、お兄ちゃん、お姉ちゃん。もう少しトーニはここにいたいの。だめ……かなぁ?」


「別に僕は構わないよ、もう慣れたもんだしねぇ」


「私は、私は……ここでの生活が嫌いじゃないよ。ノアさんとトーニの三人暮らすことが。だからこそ、トーニにもここにいてもらわなくっちゃ‼︎」


 きっとこれは、私の心からの本心だった。トーニのことは大好きだし、なんだかんだ言いつつトーニや私を助けてくれるノアさんのことだって好きだ。


 家に帰りたいのも本当。だけど、心の奥底でほんのちょっぴりだけ……ここに長く居たい、と思ってしまったのであった。


 ティーカップに入ったお茶を啜る。その味は、やっぱり変だけれど……何故か少し美味しく感じられた。

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