季節売り
峰岸
季節売り
僕らの世界には季節がない。大分昔に無くなってしまったそうなのだ。なんでも、元々は四季の神さまが相談し合って四等分していたそうだ。ただ、夏と冬の神さまが中々次の季節に引き渡さないので春と秋の神さまが怒って四季を無くしてしまった。そう伝えられている。そうして季節を買うという今の世界になってしまったらしい。
「今日は季節売りが来るから、ちゃんと秋の季節を買うのよ。いいね、春じゃなくて秋よ」
母さんは何度も僕にそう伝える。僕も何度も頷いた。
季節売りは年に四回だけ来る。名の通り、季節を売ってくれるのだ。季節は生きているので、ずっと同じ季節のままではない。だからずっと同じ季節にしたいなら新しく買い換える必要があるのだ。
「それじゃあ、お母さん買物に行ってくるから、ちゃんと秋を買うのよ」
「もう、何回言わなくてもわかってるよ」
僕は母さんに返事を返す。
窓を開ければぴゅうと北風の音。もう僕の家は冬が近い。母さんと父さんは秋が好きだから、うちは秋の季節のままだけど、僕は本当は春がいい。桜は綺麗だし、若葉も芽吹く。それがいいのだ。
「あ~季節、季節はいらんかね」
季節売りの声だ。窓から外を見ると、皆同じく季節を買おうとしている人が沢山いた。僕の家は順番的に最初の家だ。僕は母さんから預かったポーチを持って慌てて玄関を開ける。するとそこには丸い笠を被った和装の男がいた。
「坊や、季節はいらんかね」
「母さんが『秋をおくれ』って」
「ほほう、その言い方だと坊やは他の季節が欲しいんだね」
季節売りは僕の考えを見抜いていた。僕はドキリとしたが「母さんが『秋をおくれ』って言ってたからいいんだ」と言い返しお金を渡す。季節売りは渋々お金を受け取ると、屋台から黄色い銀杏が舞う、秋の入った球を渡してくる。僕は家にあった古い球を季節売りに渡す。しかし季節売りは神妙な顔で顎を触りだして、何やら考え込んでいるようだった。
「それじゃあ坊やにはオマケでこれをあげよう。みんなには内緒だぜ」
季節売りは懐から手のひらサイズのガラス玉のようなものを渡してきた。中には小さな家が入っていて、まるでスノードームのようだと思った。僕は思わずそれを受け取り、見惚れてしまう。
「その中には季節が閉じ込めてある。何、一年分だけさ。それを見て、坊やが何の季節が好きか、今度会った時に教えておくれよ」
季節売りはそう言うと後ろを振り向き、そのまま次の家へ季節を売りに行ってしまった。
僕の手に残された季節のガラス玉は猫のお腹のように温かくて、ピンク色の花のようなものが舞っていた。
季節売り 峰岸 @cxxpp
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます